B/J



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自己紹介もそこそこに滝沢直人はギエンが入院している病院に案内された。
診察の為直人一人で病室に入ること数分。
イライラとした面持ちで廊下で待っていたドルネロは、直人が病室から出て来るなりその
胸倉を掴み上げた。
「どうなんだ!ギエンは治るんだろうな!?」
「無理だな」
「な、なんだと貴様ぁっ!!」
にべもなく即答した直人にドルネロは激昂し、掴んだ襟を振り回すように直人の体を乱暴
に突き飛ばした。
「直人っ!」
その体を、同行した青年がとっさに支える。
キッとドルネロを睨みつける青年を直人は軽く手を上げて制した。
「てめぇが治せるって言うからわざわざ呼んだんだぞ!それを今さら無理とはどういうこ
とだ!!」
なおも畳み掛けるドルネロを前に直人は至極落ち着いた素振りで乱れた襟元を直しながら
言った。
「俺は治せるなんて一言も言っちゃいない。見てやると言っただけだ」
カルテを捲りながら直人は続ける。
「頭部と頸部の骨折に全身の複雑骨折、そして内臓破裂。はっきり言っていいとこなんざ
ひとつも残ってない。今生きてること自体が奇跡みたいなもんだ。あきらめるんだな」
きっぱりと言い渡して直人は捲っていたカルテを閉じ、匙を投げるようにそれをドルネロ
へと投げ渡した。
ドルネロはそれを受け取ろうともせず、振り払って床に叩きつけた。
「く・・・っそうはいくか!」
「うわっ!?」
「!!」
ドルネロが指を鳴らすと同時に側に控えていた屈強な男二人が、直人に同行してきた茶髪
の青年を捕らえた。
一人が背後からその体を押さえつけ、もう一人がこめかみに銃口を突きつける。
「ふん、どうだ。これでもまだ無理だなんぞとほざく気か?」
勝ち誇ったようにせせら笑うドルネロに対して、直人は臆することなく口の端を吊り上げ
た。
「・・・あんたそいつが何者か分かっててやってるのか?」
「何だと?」
直人の意外な態度にドルネロは不審気に顔を歪める。
「あんたも裏社会でこれだけの権力を手にしてる身なら、世界各国の政財界とそれなりに
結びつきがあるんじゃないのか?」
「それがどうした・・・」
「なら聞いたことぐらいあるだろう。日本の浅見財閥の名をな」
「何・・・!?」
直人の口から飛び出した言葉にドルネロは目を見開いた。
知らないわけがなかった。
日本は世界の経済市場に多大な影響力をもつ一大国家である。
それは裏社会においても同様であらゆる市場で重要な位置を占める国であった。
浅見財閥といえば、そんな日本の経済の一翼を担うとまで言われ、世界中の政財界におい
てその名を知らぬ者はいない大財閥である。
こと政治経済において表社会と裏社会はいわば表裏一体。
表の世界での影響力が大きいほどその影は裏の世界に色濃く広がるのが世の常というもの
で。
表の世界同様裏社会においても、浅見財閥は日本と取引する以上到底無視することの
出来ない存在なのであった。
だが何故ここでその浅見財閥の名前が出て来るのか。
事ここに至ってもまだ状況が掴めないドルネロに、今度は直人の方が勝ち誇ったように言
った。
「そいつの名は浅見竜也。正真正銘かの浅見大財閥の御曹司様だぜ?」
その言葉にドルネロは今度こそ声を無くした。
にわかには信じ難いその事実を裏打ちするように青年が声を荒げる。
「ちょっとやめてよ直人!俺はもう浅見の家は捨てたの!だからそんなの俺には一切関係
なし!俺はただの「竜也」だってば!!」
そう主張する竜也を直人は鼻で笑った。
「バーカ。お前がどう思おうと関係あるか。お前の親父がお前を諦めてない以上お前には
ずっとそういう付加価値がついて回るんだよ」
「うぐ・・・」
悔しそうに唇を噛む竜也をまじまじと眺めながらドルネロは呆然と呟いた。
「バカな・・・本当に本物か。あの浅見財閥の御曹司がなんだってこんな・・・。いやま
てよ?そうか。あの噂はこのことだったってわけか」
ふと何事か思い出したドルネロは一転してニヤリと口元をいやらしく歪め鼻を鳴らした。
「噂?」
その様子に訝しげに眉を寄せる直人にドルネロは愉快そうに言った。
「どこぞの大財閥の一人息子がどこの馬の骨とも分からん、しかも男と駆け落ちして行方
知れず。現トップである父親は心痛のあまり寝込んじまったって噂よ」
とんだスキャンダルだった。
幾つものネットワークで繋がる政財界。
どれほど緘口令を敷こうとも情報とともにこういった下世話なゴシップがどこからともな
く流れ広まるのはよくあることだが、これはかなり世間的に気まずいものだと言えよう。
何せ男同士の駆け落ちである。
実際は直人が止めるのも聞かず竜也の方が勝手に家を出て強引について来たのであるが、
それが世間ではそんな風に吹聴されている事実に直人は軽く頭痛を覚えた。
「そりゃまた随分な噂だな・・・」
不本意そうに眉間に皺を寄せつつも否定はしない直人にドルネロはニヤニヤと下卑た笑み
を浮かべて皮肉混じりに言った。
「ふふん。あんたも中々やるじゃねぇか。え?浅見財閥の御曹司をたぶらかしててめぇの
持ち駒にするとはよぉ」
「ふん・・・」
そんな物言いにも直人は何も言わずただ目を細めただけだったが竜也は違った。
「こらー!たぶらかすなんて勝手なこと言うな!!俺と直人は恋人で愛し合ってるんだか
らなーっ!!」
恋に溺れた世間知らずの御令嬢の常套句のような台詞を恥ずかしげもなく喚く竜也に直人
は一層頭痛を覚える。
そんな直人を他所に気が治まらない竜也は拘束された腕を振り解こうと暴れ出した。
「おいっ!大人しくしろっ!!」
「うるさいな!放せよ!!」
それを止めようとさらに抑え込もうとした男の脇腹に竜也は振り上げた肘を勢いよくめり
込ませた。
「ぐぅ・・・っ!?」
長身だが細身の体躯からは想像も出来ないほどの衝撃に竜也を抑えていた男の力が弛む。
竜也はその隙を逃さず背後の男の顔面に裏拳を決め、間を置かず鳩尾を蹴り飛ばした。
長い足から繰り出されるキックの威力に男は壁まで吹っ飛ばされてその体を打ち付け、そ
のままずるずると床に這い、意識を失った。
その間に竜也は、一瞬にして予想外の出来事にうろたえる銃を手にした正面の男に向かっ
て足を振り上げた。
爪先で男の手にあった銃を蹴り上げ、戻す足の反動で体を捻り返す刀で男の顎めがけて回
し蹴りを食らわす。
「ぐぁ・・・っ!」
その早業は見事に決まり、男は一発で床へと沈んだ。
男が白目を剥くと同時に落ちてきた銃を竜也は余裕でキャッチして、倒れ伏した二人の男
にアカンベーをしてみせた。
そんな竜也に直人は苦笑しながら肩をすくめた。
「そうそう。言い忘れてたがこいつはこう見えてカラテの達人でな。外見に騙されてると
痛い目見るぜ?」
飄々と今さらな忠告をしつつ、直人は改めてドルネロに向き直った。
「・・・どうあってもギエンを治さねぇ気か?」
眼光鋭い直人の視線を真正面から受け止めて、ドルネロも目を細めて声を低くする。
「治さないんじゃない。治せないんだ」
「金ならいくらでも出すぞ」
「いくら金を積まれても無理なものは無理だ。もっとも・・・今すぐ使える健康な別の肉
体でもあれば話は別だがな」
「何・・・?」
意味ありげな直人の言葉にドルネロの目がギラリと光る。
「さっきも言ったようにどうにもならん部分が多すぎる。治療は無理だが新しい体と取り
替えることが出来ればあるいは・・・ということだ」
「むう・・・」
直人の提案を聞き思案気に顎に手を当てるドルネロに直人は冷たく言い放った。
「だが・・・。あんたの息子の為に体を提供するような奇特な人間が果たしているかな?」
その痛烈な嫌味をドルネロは一笑に伏し、口元を邪悪に歪ませた。
「ふん・・・。体さえあればギエンを治せるってんだな・・・?」





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第一話をアップしてから半年以上経ってますよお客さん!(殴)
もう誰も読んでないだろうと思いつつも
密かにまだまだ書く気はマンマンなのです。
ホントですよ!?(笑)
やっと第二話をお届けしましたがまだ全然話が進んでませんね。
三話以降はもっと展開が進むはず!
あの人もこの人も出せるはず!
年内(2004年内)に完結できたらいいなぁ・・・。(遠い目)


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