ショコラ〜LoveLoveSHOW・3〜



「あの!コレ受け取ってください!!」
開店前の準備で店先をほうきで掃いていた直人は、突然見知らぬ女子高生にラッピングさ
れた小さな箱を差し出され驚いた。
「あの私のも!」
「私も!」
少女は一人ではなかった。
恐らく友人同士であろう三人は、こぞって同じ様な箱を直人に差し出した。
期待に満ちた女子高生パワーの迫力に圧倒されて直人が思わずそれらを受け取ると、少女
達は顔を見合わせ、
「キャ〜ッ!やったあ、渡しちゃった〜vvv」
と口々にはしゃぎながら風のように去っていった。
直人は受け取ったものの状況が飲み込めず手の中のものを不審気に見つめた。
「お、流石だねぇ滝沢くん。もうそんなにもらったの?」
店長にもさも当然そうに言われ、直人はますます眉間の皺を深くした。
ふと、店内のカレンダーの今日の日付を見て直人はようやく納得した。
2月14日。
鼻を寄せると箱からは甘い匂いが漂ってきて、直人はコレがいわゆる「バレンタインのチ
ョコレート」であることを確信する。
そして直人は思った。
(まずいな)
時間からして、もうすぐある常連客がやってくるはずだった。
正しくは客ではないのだが、今日のこの日にこんなモノを持っている姿をその人物に見ら
れるのは直人にとって避けたい状況であった。
何故ならば。その人とは直人にとって唯一無二の恋人であるからに他ならなかった。
(別に構うことはないだろうが・・・後が厄介だからな。今のうちにとりあえずしまって・・・)
そう思って視線を上げて直人は固まった。
時既に遅かったのである。
直人が立っているところからおよそ1mという至近距離に彼の恋人・竜也は無言で立って
いた。
「あ、さみ・・・」
虚を突かれて流石の直人も少々動揺を隠しきれない。
竜也は唇を引き結んで、直人の手の中のものをじとっと睨んでいた。
(怒っている・・・そして拗ねている)
分かりやす過ぎる竜也の表情に直人は溜息をつく。
「あのな浅見。これは・・・」
あらぬ誤解とはいえ、後々のためにもとりあえずここで何か言っておかなければ・・・と、
直人が口を開いた途端、竜也は直人の言葉を遮るように背を向けて振り返ることもなく走
り去った。
行き場を失った言葉は直人の口の中に飲み込まれ、直人の足元を風とともに落ち葉が舞っ
た。
「あれ?いつもの彼、今日は寄ってかなかったの?珍しいねぇ。ケンカでもした?」
「いえ・・・まぁ・・・」
店長の声に、直人は竜也の走り去った方向を見つめながら頬を引きつらせた。

朝っぱらから不要な疲労感を抱えた直人は、それでも一日を無事に乗り切り帰宅の途につ
いた。
玄関前で、ポケットから鍵を取り出そうとして止めた。
ドアノブをひねると案の定開いていて、直人は一つ深呼吸して中に入った。
入り口に並べられたスニーカーが、合鍵の持ち主の存在を主張している。
直人は無言でその横に靴を脱ぎ部屋に入る。
来訪者は、ベッドの上でシーツにくるまって丸まっていた。
「浅見」
「・・・お帰り」
その姿を確認して直人が呼びかけると、シーツの下からあからさまに不貞腐れた声が返っ
てきた。
それからもぞもぞと身動ぎして、竜也はシーツから顔を覗かせ直人をしげしげと見つめた。
そして気付いた。
今朝直人の手の中にあったものを直人が持っていないことに。
「アレ・・・どうしたんだよ」
訝しげに問う達也の声には、直人に対する疑いと不満の色がありありとうかがわれて、直
人の癇に障った。
「ああ、食ったよ」
直人の答えに竜也は一瞬目を見開いて悲しげな表情をしたが、すぐにそれを押し隠すよう
に唇を噛んだ。
「ふ、ふ〜んそう。美味しかった?」
動揺を悟られまいとわざと強がる様子に苦笑し、直人はベッドに腰掛けた。
「さあな」
「さあって・・・」
「食ったのは店長だからな。俺は知らん」
「え・・・?」
「アレは全部店長にやったよ。俺は食ってない」
本当のことだった。
拗ねた竜也に少し意地悪をして気が済んで、これで竜也の機嫌も直るだろうと思ってその
髪に触れようとした直人の耳に予想だにしない言葉が響いた。
「嘘」
今度は直人が目を見開く番だった。
いつもであれば、直人の言葉に安心したように詰めていた息を吐いて、はにかんだ笑顔で
抱きついてくる竜也は、目を伏せそっぽを向いて脹れていた。
直人にしてみれば、ただ見知らぬ人間から押し付けられてしまっただけのものである。
しかも自分は食べずに処分してきたのだ。
それを何故ここまで非難され、竜也に対する想いまで疑われなければならないのか。
理不尽且ついささか女々しすぎる竜也の態度は可愛さ余って・・・であった。
「・・・もういい。俺が信じられないならいつまでもそう思ってろ」
切り捨てるような口調に直人を怒らせたことに気付いた竜也は慌てて顔を上げると、腰を
浮かしかけた直人の服の裾を掴んだ。
直人は動きを止め、裾を掴んだまま俯いた竜也の茶色い後頭部を見つめた。
「・・・ごめん・・・」
小さく呟いて、掴む手に力が込められた。
「直人は・・・カッコいいから・・・ああいう子もいっぱいいるって・・分かってるけど!
まさか・・・受け取るなんて思わなくて・・・俺・・・ビックリして・・・ごめん!」
直人は呆れたように小さく息を吐いてベッドに座り直した。
『カッコいい』という言葉に少し照れる。自分はどうなのだと直人は思ったが、口にはし
なかった。
「お前な、一体どこから見ていたんだ。いいか、アレは受け取ったんじゃない。勢い任せ
に押し付けられたんだ」
顔が上げられなくて俯いたまま直人の声を聞いていた竜也は、ふと直人の手が上げられ自
分に伸ばされた気配に身をすくめた。
ぶたれることを覚悟してのことだったがそんな衝撃はなく、薄い板のようなものが頭に乗
せられた。
恐る恐る顔を上げそれを手にとった竜也は、信じられない面持ちで直人を見た。
「なお・・・と・・・コレって・・・」
「何だ。先に言っとくが色気がないなんて文句言うなよ。そんなモンだってこんな日に買
うのは恥ずかしかったんだ」
竜也の言葉を遮って一気に捲くし立てて直人は竜也から視線をそらした。
耳まで赤く染まって見えるのは竜也の気のせいではなくて。
竜也はもう一度手の中のものを見つめた。
「¥95」の値札もそのままにコンビニのシールが貼られた板チョコ。
たとえそんなチョコレートであろうと直人が自分にくれることなど期待はおろか考えもし
ていなかった竜也は感動のあまり言葉が出なかった。
こういういわゆる「恋人同士の行事」に、竜也に付き合うことこそあれど全く積極的でな
い直人が自分から行動に出るのは、本人の言葉以上にどれほど勇気がいっただろうか。
それもこれも全て自分のためなのだと思うと、くだらない嫉妬でひねくれていた自分が心
底バカバカしかった。
自然と顔が弛むのを竜也は止められず、ついでに目の前がじんわりと滲んだ。
「ごめんね・・・直人。ありがと・・・すっごく嬉しい・・・」
板チョコで目元を隠しながら言う竜也の口元がいつものはにかんだような笑みを作ってい
ることを確認して、直人は竜也を抱き寄せ囁いた。
「機嫌は直ったか?ん?」
皮肉めいた口調に、さっきまでの自分の愚かしい態度が恥ずかしくて申し訳なくて、竜也
は黙ったままこくんと頷いた。
竜也の仕種に満足して、直人は竜也の腕をやんわりと解き、目元を唇でぬぐって、次いで
唇を塞いだ。
「ん・・・」
竜也は目を閉じて口付けを受け入れそれに応えた。
唇をついばみ合ってお互いの舌先をくすぐり合う、決して性感を煽るようなものではなく、
想いのこもった甘いキス。
柔らかい感触と温もりに愛されていることを強く感じて、竜也はうっとりと酔いしれた。
ゆっくりと離れていく唇が名残惜しくて、さらにねだるように抱きつこうとしたところを
直人に制される。
「?直人?」
「なぁ浅見。機嫌も直ったんならもったいぶるのはやめたらどうだ?」
一瞬意味が分からなくてキョトンとする竜也。
しかしすぐに直人の言わんとすることを理解し、青褪めた
す、す、すと距離をおくように離れる竜也に直人は眉を寄せた。
「おい、どうした?」
「あ、あのね。直人・・・そのぉ・・・」
俯きちらちらと上目遣いに直人の顔色をうかがいつつ口篭る竜也を不審に思いながらも、
直人は竜也の言葉を待った。
「あの・・・えっと・・・ね?・・・・・・・・・・ない」
「何?」
小さな小さな声だったが竜也の声ははっきりと直人の耳に届いた。
聞いた瞬間顔をしかめた直人に、竜也は身を乗り出してあたふたと言い訳を言い募った。
「作ったんだよ!?ちゃんと!ケーキ焼いたんだよ昨日!!でも、あの、今朝あんなトコ
見ちゃって・・・俺頭にきて・・・カーッとなって・・・つい・・・」
最後を言いよどんでいた竜也は、やがて開き直ったように頭を掻きつつ苦笑いして申し訳
なさそうに言った。
「食べちゃった」
あはは〜と笑う竜也の前で、直人はというと、その内容は理解したもののどう答えていい
かわからずぽかんとしたまま黙りこくってしまった。
そんな直人の様子に竜也は笑顔を消して勢いよく頭を下げた。
「ごめんなさい!!」
必死に謝罪する竜也を見つめながら直人はフッと溜息をついた。
「そうか・・・」
そう呟いた声が心底残念そうに聞こえて、竜也は直人に取りすがった。
「ごめん!ほんっとにごめん!俺・・・俺また作るから。そうだホワイトデー!!ね?俺
ちゃんとお返しするからさ。絶対!約束!ねぇ直人ぉ!!」
終いには涙声になりながらがくがくと直人の肩を掴んで揺さぶった。
それでも直人は黙ったままで、返事をしてくれない直人に困り果てた竜也は揺さぶる手を
止めた。
しかし、もう竜也は触れているだけなのに、まだ直人の肩は小刻みに揺れていた。
「直人?」
直人は声を殺して笑っていた。
直人は失望したわけでも怒っているわけでもなかった。
ただ少し呆れただけだった。
そして、腹いせに食べてしまったという竜也の子供じみた行動を思い、それを想像して可
笑しくなって笑っていた。
「くっくっ。別に構わん気にするな。だがそうか、なるほどな。お前のここにおさまっち
まったって訳か」
「う、うん」
直人は戸惑う竜也の腰を抱いて引き寄せ、腹の辺りを軽く撫でた。
「なら・・・丸ごともらおうか」
「え?」
腰を抱いた腕の力を強め、腹を撫でていた手で顎を捕らえて、直人はニヤリと笑った。
お前ごと食わせてもらうことにする
「!!」
至近距離に顔を寄せて囁かれた言葉の意味に、竜也はぼんっと音がするほど急激に真っ赤
になった。
「まさかダメとは言わないだろうな」
竜也の反応に気をよくしてニヤニヤ笑いながら念押しする直人はすっかり上機嫌だった。
竜也は顔中から湯気を立ち上らせながらぼそぼそと呟いた。
「チョコレートの味なんかしないよ?」
「けっこうだ。そんな甘さより俺はこっちの方がいい」
「も、もう!直人ってばほんと時々スゲェやらしんだから!!」
「今さらだろう」
竜也の答えを了承と受け取って、直人はさらにきつく抱きしめると口付けようと唇を寄せ
た。
「あ、そうだ!ちょ、ちょっと待って!」
「・・・何だ?」
気分をそがれて少しムッとしつつも直人が腕を緩めると、竜也は先程直人が渡した板チョ
コの包みを開いて一欠けら口の中に放り込んだ。
(ああ・・・なるほどな)
竜也の意図を察して、直人は竜也がもごもごと口を動かすのを黙って見つめた。
しばらくして、こくりと咽喉を鳴らしてチョコレートを溜飲した竜也は、照れくさそうに
微笑みながら直人の首に腕をまわした。
「はい・・・いいよ」
そして目を閉じる。
直人は差し出された唇に自分の唇をゆっくりと重ね・・・。
どちらからともなく深くなっていった口付けは、甘い甘いチョコレートの味だった。






もうちょっと続きますが、続きはエロなので文章中に隠してます)

ニセモノ二人の「LoveLoveSHOW」シリーズも
3本目にしてこんなに長く・・・。
しかし私バレンタインネタ好きだな。ワンピでもやったし。
え?季節外れも甚だしい?仰るとおりです。(笑)

*続きは・・・エロになりますのでご注意くださいねv


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