| OFF TIME |
観覧車。 それは遊園地と称される場所には欠かせないお約束アトラクションの一つ。 花形である派手な絶叫系のアトラクションとは違いほっと息をついて景色を眺める癒しの 空間。 加えてそこはいわば中空の密室。 この人で賑わう中にあってごく自然に二人きりになれるとあっては、カップルで訪れてい る者ならばタイミングを見計らいつつ一度くらいは利用しない手はない。 だがしかし。 そんな観覧車の中で恋人と二人きりという美味しいシチュエーションにも拘らず仙一の表 情は険しかった。 長い足を組み腕を組んで顎に手を当て思案気な目を向けるその先には、対面の座席でぐっ たりとうなだれる恋人の姿。 「バン・・・」 かの人が肩で大きく深呼吸をしたのを合図にその名を呼べば、彼―伴番は慌てたように居 住まいを正した。 「な、何?センちゃん・・・っ」 「バンもしかして絶叫系って苦手?」 仙一の言葉に番伴はギクリと引き攣った。 何も言わなくてもその表情だけで答えは十分に分かった仙一だった。 それでなくとも分かろうというものだ。 次の日伴番は非番、仙一は遅番という日、仕事が終わって訪れた夜間営業の遊園地。 基本的に遊園地マニアな仙一のお気に入りはお約束通り絶叫系のアトラクションで。 まずは一つ目。 「いや〜なかなかの迫力だったね〜v」 「うん、そうだなっ」 「じゃあ次はバンの好きなものでいいよ。何に乗る?」 「え?え〜とじゃあ・・・観覧車」 「は?観覧車?」 「何だよダメ?」 「いや、なんか意外だったから・・・うん、いいよ。観覧車ね」 そして観覧車を降りて二つ目。 「いや〜これもなかなかスリルがあって良かったね〜v」 「う、うん、そう・・・だなっ」 「じゃあ次はまたバンが決めて?何にする?」 「え・・・と・・・か、観覧車」 「は?また?」 「いいだろ!好きなんだよ」 「う、うん。別にいいんだけど・・・」 またまた観覧車を降りてさらに三つ目。 「いや〜楽しいねぇバンv」 「・・・・・・」 「バン?」 「あ・・・や、うん!楽しい!」 「じゃあ今度はバンの番だよ」 「・・・・・・か、」 「観覧車?」 「うん・・・・・」 「・・・・・・・・・」 「・・・・・・・・・」 絶叫マシンが終わるたびに観覧車。 それを三回も繰り返した挙句に徐々にはっきりとそれと分かる疲れが見え始めれば、分か らない方がどうかしている。 伴番は観覧車が格別好きなわけではなく、単に絶叫マシンで目が回ったのを休んで回復さ せているだけだと。 「意外だなぁ。あんな凄いドラテクなのに」 「ん〜・・・、別に高いとこも速いのも恐いってわけじゃないし嫌いでもないんだけどこ う・・・自分で操縦できないとちょっと酔うっていうか・・・」 自分では押し隠していたつもりの伴番はすっかりばれてしまって居心地悪そうに頭をかい た。 そんな伴番に仙一は一つ溜息をついた。 「そっか。じゃあごめんね、俺ばっかりはしゃいじゃって。言ってくれれば良かったのに」 「な、なんだよ、そんな謝るなよ!いいんだよ楽しそうなセンちゃん見てると俺も楽しい もん。センちゃん好きだもんな遊園地とか」 「え?」 慌てて言い募った伴番の意外な言葉に仙一は目を丸くした。 伴番とプライベートで遊園地に訪れたのはこれが初めてで、今までそんな話もしたことは なかったはず・・・などと仙一がいつもの癖で思わず考え込んでいると、それを見た伴番 は可笑しそうに笑った。 「センちゃんさ。フローラに笑顔を教えようとして『楽しいトコに行こう!』って言って いきなり駆け出して行ったとこが遊園地だったし、乗るもの全部絶叫マシンでさ。そん時 思ったんだよ。ああ、センちゃんってこういうトコ好きなんだな〜って」 そう言われて仙一は言葉に詰まった。 よもや伴番に見抜かれるとは・・・といささか失礼なことを思いつつ照れ臭さに指先で頬 を掻いていた仙一はおもむろにあっと声を上げた。 「じゃあバン・・・あの時もひょっとして気分悪かったの?」 「え?ああうん・・・ちょっっっとだけな」 苦笑いしながらの伴番の返事に仙一は落ち込んだ。 アンドロイドであるフローラに人としての心を教えるために別行動をとった仙一に、ボス の命令でお目付け役として一緒についてきた伴番。 思い出してみれば、その時の伴番は見守るという立場を差し引いても日頃に比べて静かだ ったように思われ、目の前のことに集中するあまり何者にも換えがたく愛しい恋人の変調 に気付けなかった自分を仙一は悔いた。 「ごめんね・・・あの時俺ときたらフローラのことで頭がいっぱいで・・・」 「だから謝るなって!あの時はそれで当然なんだからさ!それに・・・あの時のセンちゃ ん・・・カッコ良かったし」 「えっ!?」 またまた伴番の口から飛び出した意外な言葉に仙一はまた目を見開いた。 そんな仙一に伴番はほのかに頬を赤らめはにかむように言った。 「センちゃんすごく一生懸命でさ・・・フローラのこと信じてて・・・。ほんとにすっげ ぇ優しいんだなって。知ってたけど再確認っていうかその・・・」 「何?」 まるで告白のような伴番の言葉を擽ったくも嬉しく思いつつ聞いていた仙一は、突然もじ もじと言い淀み始めた伴番の顔を先を促すように覗き込んだ。 「えっと・・・あの・・・」 「ん?」 一瞬仙一と目があってしまった伴番はさらに顔を赤く染めて視線をそらした。 伴番のその様子に是が非でも続きを聞きたくなった仙一はすっかり調子に乗ってにっこり と人の悪い笑みを浮かべて笑った。 「言ってくれないと・・・次はアレだよ?」 と仙一は窓の下のとあるアトラクションを指差した。 つられて窓の下を覗きこんで仙一の指し示したアトラクションを確認するや、伴番は体を 強張らせ一転してキッと仙一を睨んだ。 「何だよそれっ!!チックショー、センちゃんってやっぱ意地悪だ!惚れ直したなんて思 って損したっ!!」 「え・・・・・」 「あ・・・っ」 きょとんと目を瞬いた仙一に伴番は両手で口を塞いだが後の祭り。 一度口から出てしまった言葉を引っ込めることも出来ず、伴番は自分の失態と言ってしま った言葉の恥ずかしさに座席で身を縮こまらせた。 一方の仙一は伴番の言葉を聞いてから、何も言わずにまた足を組んで腕を組み難しい顔で 顎に手を当てたまま窓の向こうを見つめていた。 恥ずかしかったけれどそんなに悪いことを言ったつもりはない伴番は、黙ったまま一向に 口を開かない、どころか自分の方を見ようともしない仙一が何を考えているのか分からず 不安になった。 しかし、形容し難い沈黙に包まれた空間は声を出すことも憚られる感じで伴番もまた何も 言えずに窓の外を見つめた。 そうこうしているうちに二人を乗せたボックスは昇降口まで降りてきて、近づいた係員の 手によってその扉が開かれた。 降りようと伴番が腰を浮かせたその瞬間、仙一はその手をがしっと握った。 「え・・・わぁっ!?」 そしてその手を思い切り引っ張り、伴番を引きずるようにボックスを出たかと思うと手を 握り締めたまま大股で歩き出した。 「ちょ・・・センちゃん・・・!?」 戸惑う伴番が後ろから声をかけても仙一は振り向くこともなく無言で歩き続けた。 どんどん人気のない何のアトラクションもない外れまでやってきて、さらに人目につかな い建物の裏へ回りこんで、そこで突然仙一は振り向きざま伴番を抱きしめた。 「せ、せせせセンちゃん・・・っ!」 突飛過ぎる仙一の行動に驚き、暗がりで人気もないとはいえいつ誰が来るかも分からない 場所で抱きしめられて伴番は慌てて仙一の腕の中でもがいた。 「ごめん、ちょっと・・・」 「・・・?」 抱きしめてくる腕の力強さにそぐわない切羽詰ったような仙一の声に伴番はもがくのを止 めた。 そんな伴番を仙一はさらにきつく抱きすくめ、その耳元に囁いた。 「ちょっと・・・抱きしめたくなっちゃって・・・」 「・・・っ!」 仙一のその言葉に伴番は一気に首まで赤くして、どう答えていいか分からずに俯いた。 「バン・・・」 耳に口付けながら名を呼ばれる甘い感覚に伴番はびくりと体を強張らせた。 「好きだよ」 さらにそこに熱い吐息とともに愛の言葉を囁かれ、伴番の胸は無意識にも高鳴った。 「『惚れ直した』って・・・バンがそんな風に思ってくれてたって・・・凄く嬉しい・・・」 「センちゃん・・・」 少し体を離して真っ直ぐに目を見つめられて、伴番はそんな仙一の真摯な眼差しに吸い込 まれるようにうっとりと見つめ返した。 見つめ合いごく自然に唇が重なる。 柔らかく重ね合わせて何度も啄ばんで、昂ぶる思いのままにさらに深くお互いを求め合う。 「ん・・・ふ・・・」 いつしか伴番も仙一の背中に腕を回し、二人は時間も場所も忘れてしばし抱き合い口付け あった。 「は・・・」 ようやく唇を解いて余韻に浸りながら大きく息を吸い込む伴番のこめかみに仙一は口付け、 腰に腕を回しながら囁いた。 「出ようか」 「うん・・・」 伴番はぼんやりと答えた。 「帰る?」 「うん・・・」 「俺の部屋?バンの部屋?それとも・・・どこかによってく?」 「う・・・ってセンちゃんっ///」 仙一の意味深発言に伴番は一気に正気付き、真っ赤になった。 そんな伴番に仙一は微笑んだ。 「たまにはよくない?」 ニコニコといかにも人畜無害そうな笑顔でさらにそんなことをのたまう仙一に、伴番は耳 まで赤くして俯いた。 「バン?」 答えを促す仙一に伴番はこくんと小さく頷いて。 そして二人は遊園地のネオンに背を向けて歩き出し、月灯りの照らす甘やかな夜の闇の中 に消えていった。 |
15話の遊園地デート(違)があまりに萌えだったのでつい。
いやあ、あの緑の人とフローラを見守る赤い人の眼差しは
緑の人に惚れ直してるとしかね!
見えなかったんですよ私には!!
ビバ緑赤!!(笑)
『どこかによってった』二人のお話(大笑)は隠してますので
ご希望の方はどうぞ探してみてください。
だいぶ派手にヤラカシテますのでくれぐれもご注意を。(爆)