「Love of Lifetime」 |
ふいに、不安になる事がある。 竜也は本当に自分の物になったのだろうか。 「浅見………――。」 低くくぐもった声で名前を呟き、直人は衝動的に台所で食事 の準備をしていた竜也を引き寄せた。 「えっ!なになに!?」 突然の事に驚いてはいるものの、これといった拒絶は無かっ た。直人に身を任せて少しずつ体の緊張を解いていく。 自分と同じ目線の硬い体。 はっきり言って抱き心地は悪い。しかし、血の通った温かい 体だ。 布越しに、あるいは直接触れ合った肌と肌から、ぬくもりが 行き来する。ふいに、竜也の髪からひなたの匂いがして、直人 は何だか泣きたくなった。 いくら顔を見て、こうして触れ合い、竜也を抱いてみても埋 められない虚無感があった。何度身体を重ねようと、長年巣食 った腫瘍のような孤独は簡単に消せやしない。日常のふとした 瞬間に甦っては、直人の現実感を酷く曖昧な物にした。 この平穏な日々は幸せな白昼夢で、本当の自分はやはりもう 死んでいるのではないだろうか。 そんな妄想に取りつかれる。 「直人……。どうした?」 気遣わしげな声がして竜也が背中にゆっくりと手を回した。 そのままぽんぽんと肩を叩く。まるで泣き止まない子供をあや すように。 ――大丈夫、大丈夫。直人は大丈夫だから。 そんな囁きが聞こえてきそうだ。 守るような、安心させるような、慈しむような竜也の手。長 い間、この手を探してきた気がする。もう思い出せない位、ず っと前から。 首筋に顔を埋め、直人は両眼をつぶった。 何も見えない深淵の闇の中で竜也の感触だけが唯一リアルだ 。直人はより一層強く竜也を掻き抱く。ふさふさとした髪の感 触を、一分の無駄も無く鍛えられた滑らかな身体のラインを、 真っ直ぐな背骨を、引き締まった細い腰を。脳に、身体に完璧 に刻み付ける為に。 ふと、頭上に軽い感触があった。いつの間にか竜也に頭をよ しよしと撫でられている。 「ん……。どう?落ち着いた?」 我に返り、思わず憮然とした。 (俺は幼児か……?) 「直人……?」 一息吐いて、直人は瞬時に着慣れた不遜な態度と言う名の鎧 で武装する。注意深く声音から弱気な色を閉め出して、静かに 答えた。 「大丈夫だ…………――。」 いつの間にかこんなにも竜也に依存している自分がいた。何 だか無性に悔しくて、わざとすました顔で言ってやる。 「ちょっと、欲情しただけだ。」 「よく………っっ!!」 思わずうめいて絶句する。腕の中の竜也の身体が大げさな位 に強張った。拍子抜けさせられたのと羞恥心が手伝って、どう やら二の句もつなげないらしい。 「……からかってんの?」 くるりと回れ右して竜也は直人の手から抜け出そうとする。 両腕を捕らえてそれを阻止しながら、直人は背けられた竜也の 顔を眺めた。せっかく顔を隠しても赤く染まった耳が見えてい ては、何の意味もない。 「からかってなんかないさ。おまえのエプロン姿についムラッ とした。」 「――!!?」 「台所に立つ後ろ姿ってのも、なかなかそそるモンだぞ?」 「直人、あのさぁ……。」 「何だ。」 「この手はナニ……??」 「分からないならいい。そのままじっとしてろよ。」 「うわーっ!ストップストップ!!俺、まだ夕食作りかけなん だからなっ!!」 「なら、食前に運動しないとなあ。」 「なんか………直人性格変わってない!?」 「変わったといえば、そうだな………。」 きょとん、と目を見開く竜也に顔を寄せて、直人は何事か耳 打ちする。すると、途端に竜也は、うぅ〜っとうめき、悔しげ にしかしどこか嬉しそうに顔を伏せた。抵抗がやんだところを 見ると、どうやらその答えで満足だったらしい。 いつの間にかとっさの冗談が本気になっていた。いや、もし かしたら最初から無意識の内にそれ狙っていたのかもしれない 。まあ、それも今となってはどうでもいい事だった。 人間なんて案外簡単なものだ。 こうして触れ合ってお互いのぬくもりを感じて、相手が自分 の些細なわがままを聞いてくれる。それだけでひどく幸せな気 持ちになれた。 いつかは、胸の腫瘍ともうまく付き合えるようになるかもし れない。 「何……?どうかした?」 直人の首に腕を回したまま竜也が首をかしげる。 その抱き心地の悪い身体を力いっぱい抱きしめて、直人は無 情に言い放った。 「浅見。やっぱりおまえはもうちょっと太れ。」 えぇっ!? 目を見開き、やがて竜也は困ったように微笑んだ。 「それで、食前には運動するの?」 「そうなるな。」 直人〜っ、矛盾してるってー! テーブルの上に押し倒されながら、竜也が情けない声を出す 。 直人は喉を震わせてくつくつと笑いながら、口の中で自分の 言葉を噛みしめた。我ながらよく言う。 変わったといえば、そうだな………、 ――おまえのせいかもな。 ―THE END― |
| タイム1周年記念に頂きましたv はう〜vvv 甘く切なくビタースィートな直竜〜vvv 竜也が直人のマリアのようですね! (注:腐ってます) この後ってやっぱこう裸エプロンで・・・。 (注:ぶち壊しです) 大橋五月さま、ありがとうございました〜vvv |