停電の夜に




バチンッ!という何かが弾けるような音と共に突然視界が闇に閉ざされた。
「うわ!何!?ブレーカー?」
風呂上りにドライヤーで髪を乾かしている最中だった竜也は、既に用を成さないドライヤ
ーを手にしたまま慌てて周囲を見回した。
「待て。今そこに行くから動くな」
リビングの方から直人の声がしてから程なく、懐中電灯を手にした直人が竜也のいる浴室
までやってきた。
「俺のせい・・・かな?」
懐中電灯の明かりに照らされた竜也は申し訳なさそうに手元のドライヤーを弄った。
「そんなもんつけたぐらいでブレーカーが飛ぶか。ちょっとこっちに来い」
そう言って直人は竜也の手をとり、リビングからベランダへの窓辺へと導いた。
「見てみろ」
言われるままに外をうかがった竜也は絶句して目を見開いた。
外はどこまでも闇だった。
普段であれば夜まだ浅いこの時間、街灯なり家々の窓からこぼれる電灯の明かりなり、様々
な光が夜の街並を照らし出しているというのに今やそれは一切存在せず、周囲一帯が夜の
闇に塗り潰されていた。
「すご・・・。停電かぁ・・・すぐ点くかな」
「さあな。見たところ随分広範囲にわたって落ちちまってるようだし、事によったら時間
がかかるかもな」
「テレビ・・・はダメなんだよね。ラジオは?」
「携帯ラジオは常備してない」
「ダメじゃん直人〜。災害時の必需品だよ?常識じゃん」
「・・・悪かったな」
結局情報を得る術もないまましばらくは大人しく様子をうかがっていたものの全く復旧す
る気配はなく、直人の言葉通り停電は長時間に及びそうな様相を呈していた。
懐中電灯の明かりが唯一の光源である薄暗い部屋の中で、竜也は大きな溜息をついた。
「あ〜あ。せっかく今日は徹夜でDVD見ようと思ってたのにな〜。楽しみにしてたのに・・・」
「仕方がないだろ。DVDなんていつでも見れるんだし・・・飯も風呂もすんでたのが不幸
中の幸いだと思え」
「そうだけど・・・。はぁ、電気がないって本当に不便だよねぇ」
「全くだ。することもないし・・・もう寝るか?」
「え〜やだ〜まだ早いよ〜。ってアレ?なんか懐中電灯・・・光弱くなってない?」
「ん?ああ・・・まずったな。電池が切れかけてるんだろう」
「ええ!?そんなぁ・・・換えの電池ないの?」
「滅多に使うもんじゃないからな・・・」
「俺ちょっと探してみるよ。借りるね」
竜也はそう言うと、切れかけた懐中電灯の心許ない光を頼りに色々と引き出しを探り始めた。
「あ」
「どうした?あったか?」
そんな竜也の背中を後ろから眺めていた直人は、不意に竜也が発した声にその手元を覗き
込もうとした。
しかし直人が動くより早く、竜也は懐中電灯で下から自分の顔を照らしながらニッコリ笑
って振り向いた。
そのビジュアルに直人は一瞬引く。
「いいもの見つけちゃったv」
直人のリアクションにお構いなく竜也が掲げた手の中には、蝋燭の入った箱があった。

「こんなものがうちにあったのか」
「夏に花火やった時の残りだと思うよ。俺も忘れてたけど・・・」
そんな会話を交わしながら、ガスコンロで火をつけた蝋燭を三本ほど小皿に立ててテーブ
ルに置く。
揺らめく炎の輝きは、ともすれば懐中電灯のそれよりも明るかった。
「結構明るいね。それに意外とあったか・・・っくしゅっ!」
折りしも季節は冬である。
直人の部屋にある暖房器具といえばエアコンとホットカーペット。あと出してはいないが
出そうと思えば赤外線コタツ。以上。
どれもこれも電気の供給がない今使えないものばかりで、停電からの時間の経過と共に随
分と部屋も体も冷えていることに、竜也のくしゃみで今さらながら二人は気がついた。
「着てろ」
直人はクローゼットを探り、厚手の上着を竜也に渡した。
「うん。ありがと」
「それからこっちに来い」
「え?」
「ここだ」
言いながら自分が座っている隣を手のひらで叩く直人にその意味を察し、竜也は嬉しそう
に笑っていそいそと直人の隣に腰を下ろした。
「眠るならベッドへ行くが・・・」
「まだ眠くないよ」
「そうか」
竜也は直人に寄りかかるようにコトンと頭を直人の肩口にのせて、目の前の蝋燭を見つめ
た。
オレンジ色の光が暗闇にぼんやりと寄り添い合う二人の影を照らし出す。
「えへへ」
「何だ」
「電気がないのって不便だけどさ、たまにはこういうのもいいかなぁなんて思ってさ」
「何がだ」
「だって・・・なんか直人が優しいもん」
「何言ってんだ馬鹿」
「ねぇ直人ぉ・・・ぎゅってして」
直人はふんと鼻を鳴らしながらも竜也の求めるままに竜也の体に両腕をまわした。
自分とさほど変わらない体躯を、腕におさめるとまではいかないまでも包み込むように抱
きしめる。
「これでいいか」
「もっと」
「痛くないか?」
「うん、平気・・・直人」
「ん?」
「好きだよ」
「・・・っ!」
「?直人?」
それは直人にとって不意打ちだった。
どれほど聞いたか分からないその言葉に瞬間胸を突かれて直人は小さく舌打ちする。
暗闇でよかったと直人は思った。
きっと少なからず赤面してしまっている顔を今ならば気付かれずにすむ。
「どうしたの?なお・・・っ!」
黙ったまま様子がおかしい直人に顔を上げようとした竜也だったが、それを阻むように直人
にさらにきつく抱きすくめられて口元を直人の胸で塞がれてしまった。
とくとくと音を打つその胸の鼓動に竜也は直人の言葉にしない想いを感じて口元を綻ばせ
た。
そして直人の腕の中、竜也も甘えるように直人の背に腕をまわす。
寄り添い合っていた影はぴったりと一つに重なって、暗闇に煌く蝋燭の灯火にゆらめいて
いた。





とある台詞を竜也に言わせたくて書いたお話。
どの台詞かは・・・ばればれですよね。(笑)


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