| 指輪物語 |
街中がイルミネーションにきらめき、そこかしこからクリスマスソングが流れる12月の 最中。 竜也は立ち寄った行き付けの貴金属店のショーケースにへばりついていた。 食い入るように見つめる視線の先にはひとつのシルバーリング。 太めの帯部分に、揺らめく炎をイメージさせるような模様が全体的に刻まれていて、シンプ ルなデザインながら重厚な質感を醸し出していて、その辺りが実に竜也好みだった。 竜也はシルバー系のアクセサリーが好きで、結構色々と持っているし暇なときには一人で 店を見て回ったりもする。 もちろん今日もめぼしいものがあれば購入するつもりで店をのぞいたのだが、今竜也がそ れから目を離せないでいるのは自分のためではなかった。 (すっげぇ似合いそう) 一目見たときから、竜也の脳裏には己の恋人がそれをつけた様が思い描かれていた。 折りしももうすぐクリスマス。 プレゼントと称して贈って目の前でつけてもらいたいという衝動が竜也の中でむくむくと 湧き上がる。 しかし悲しいかな。 竜也の恋人は竜也と違ってそういったアクセサリー類に全く興味がなかった。 むしろ敬遠しているといってもよく、まず身につけることなどありえなかった。 堂々巡りの考えがそこに及ぶ度に竜也は肩を落として溜息をついた。 (だよね〜。直人こういうの嫌いだもんね〜。つけるわけないし・・・貰っても困るよね きっと。ああ、でもな〜・・・絶対似合うって思うんだよな〜・・・) ショーケースにへばりつくこと数十分。 『やはり贈り物はその人が貰って嬉しいものをあげるべきだ』という信条が勝った竜也は、 それを買い求めることなく店を後にした。 そこにたっぷりと後ろ髪惹かれる思いを残しつつ・・・。 それから数日というもの、竜也の後ろ髪は惹かれっ放しだった。 ことあるごとにあのリングをつけた直人の指先と竜也の大好きなあの端正な顔がちらつい てどうしようもなく、とうとう竜也は贈る贈らないは別問題にしてとにかく買ってしまお うと決心した。 こんなに未練が募るなら最初からそうすればよかった・・・などと思いながら、のぞき込 んだショーケース。 ありがちといってしまえばそれまでだが、焦がれて求めたリングの姿は既にそこにはなく。 お約束過ぎる展開に竜也はしばし呆然とそこに立ち尽くした。 そんな一件からあっという間に時間は過ぎて、迎えたクリスマスイブ。 「はい直人!クリスマスプレゼント!」 訪れた直人の部屋で、竜也はクリスマスカラーの包装紙できれいにラッピングされた手の 平サイズの小箱を差し出した。 「ああ・・・」 ニコニコとことのほか嬉しそうに笑う竜也に苦笑しながらも直人はそれを受け取る。 「ね、開けてみて!」 「あ?今か?」 「うん、そう!」 目を輝かせてそう詰め寄る竜也に直人は自分からのプレゼントを出すタイミングを失い、 取りあえずは竜也の望み通り素直に包みを開くことにした。 包装紙を解いて箱を開けて・・・そこにあったのはシルバーのリング。 それを見た瞬間直人の動きが止まった。 表情まで固まって、直人は無言で手の中のリングを凝視した。 包みを開いていく直人の一挙一動を祈るような思いで固唾を飲んで見守っていた竜也は、 直人のその反応に一瞬色をなくし慌てて言い募った。 「あ、あのさ!分かってはいるんだよ?直人こーゆーのつけないっていうか、むしろそ の・・・っていうか・・・。だから一回はね、やめようと思ったんだよ、うん!やっぱプ レゼントってさ、相手が貰って嬉しいものを送るべきかなーなんて思って、それで何か他 のものにしようって・・・。でも、俺これ見たとき絶対直人に似合うって思ってさ。そう 思ったらもう止まらなくて・・・どうしても直人につけてほしくって・・・」 そこで一旦言葉を切って直人をうかがったものの、直人は相変わらず難しい表情のまま無 言で、竜也はさらに続けた。 「それでね!それでもう一回その店に行ったらそれ・・・売れて無くなっちゃっててさ・・・。 ほら!ないとますます何が何でも欲しくなるってあるじゃん!俺もうこれ以外考えられな くなっちゃってさ!もう都内中の店舗探し回っちゃったりしてさ〜・・・なんて・・・。 はは・・・やっぱ・・・気に入らなかった・・・?」 何を言っても無反応な直人にとうとう最後には勢いをなくし、竜也はおずおずと上目遣い に直人を見つめた。 直人はそんな竜也に困ったように視線をさ迷わせ小さく溜息をついた。 その瞬間、最後通告を受けたような気分で竜也はがっくりとうなだれた。 結局は独りよがりだった自分の失敗が恥ずかしくて申し訳なくて、後悔の波が押し寄せた。 「ごめん、悪かったよ・・・。今度またちゃんとするからさ・・・これは忘れて・・・」 そう言って直人の手からリングを取ろうと竜也が手を伸ばすと、直人はそれを阻むように その手を握り込んだ。 「違う」 「は?」 「そうじゃないんだ・・・」 そう呟いてまた溜息をつく直人に竜也は小首をかしげる。 そんな竜也の目の前に、直人は同様にクリスマス用にラッピングされた小さな紙袋を差し 出した。 見覚えのあるその包装紙の柄に竜也は目を瞬いた。 「あ・・・れ?直人、これってひょっとして・・・」 「俺からだ。開けてみろ」 そう言われて紙袋を開け中身を手の平に転がして、竜也は先ほどの直人同様、絶句して目 を見開いた。 竜也の手の平に転がったのは竜也が直人に渡したものと全く同一のシルバーリングだった。 「うそ・・・」 「そういうことだ・・・」 何の因果か。 偶然にも二人は同じモノをお互いに贈り合おうとしていたのである。 「信じらんない・・・。こんなことってあるんだね」 「まったくだ。男同士でペアリングなんてシャレにならんってのにな」 お互いにリングを指先で弄りながらそう呟きあって、同時に可笑しくなって吹き出した。 ひとしきり笑った後、竜也ははっと思い出したように言った。 「あ!じゃあ・・・俺が悩んでる間にあの店でこれ買ってったのって直人だったんだ!」 「そういうことだろうな」 「ひっどいな〜。俺あの後すごい苦労したんだから・・・」 「ちょっと待て。俺が悪いのか、それは」 「嘘だよ、冗談。でも直人こーゆーの興味ないのに何でわざわざ?」 「お前が好きだろ。こういうのも。あの店も」 「え?あ、ああ、うん」 「プレゼントにするなら相手が喜ぶものを・・・ってお前もさっき言っただろう。俺は確 かにこういうものはさっぱり分からないが、お前がよく行く店や好きそうなデザインぐら い分かる。たまたま目に入ったそれがお前好みそうだったからそれにしたんだ。・・・値段 も手頃だったしな」 「・・・・・・・・・・」 直人の言葉に竜也は心密かに感動していた。 確かに二人で出掛けた時などにその店に立ち寄ったことはあったが、自分が無理矢理つき 合わせただけで直人は終始所在なげで退屈そうで、そんな風に気に掛けてくれていたなん て思いもしなかった。 おまけに竜也の好みまで・・・。 それはつまり。 そういうものに興味がない直人がそれを分かるほど、直人がいつもちゃんと竜也を見てい るということで。 その事実に竜也は愛されている幸せをかみしめた。 「お前こそ、よく俺にこんなもの贈ろうと思ったな」 直人がそう言うと、幸せに浸っていた竜也は弾かれたように直人に向き直り詰め寄った。 「だってホント似合うと思ったんだもん!!俺なんかより絶対似合うって!な。今だけで いいからつけてみてよ、お願い!!」 そう言いながら顔の前で手を合わせる竜也に半ば気迫負けした直人は、渋々そのリングを 右手の人差し指に嵌めた。 そんなアクセサリーなどつけたことはついぞなく、似合う似合わない以前に、リングがお さまった指に感じる慣れない異物感に何だか落ち着かなくなって、直人は手持ち無沙汰に 前髪をかきあげた。 その仕草に竜也は息を呑む。 光を弾いてきらめく銀の輝きに刻まれた炎の模様が揺らめいているようで、直人の黒髪に 映えるその様はあまりにも竜也が思い描いたイメージ通りで、竜也はうっとりと溜息をつ いた。 「・・・かっっっこいい・・・っvvv」 「・・・アホか・・・」 見惚れる竜也に照れも手伝ってますます居心地が悪くなって、無意識に顔が熱くなり直人 は竜也から視線をそらす。 そんな直人に竜也はすっかり調子付いていた。 「へへへ〜vじゃ、せっかくだから俺もつけよっかな♪」 「おい・・・」 「いいじゃない。何も普段の日にペアリングしたいなんていうほど俺も神経太くないよ。 今だけ。でも、そのかわり・・・さ。クリスマスだし・・・お願いしてもいい・・・?」 そう言って竜也は直人にリングを差し出した。 暗に「つけて欲しい」という竜也の申し出に、直人はやれやれという風に軽く肩をすくめ てそれを受け取った。 しかし、差し出された竜也の手に動きを止めた。 竜也が差し出したのは左手だった。 その意味するところは考えるまでもないことで。 直人は思わず竜也を睨んだ。 すると竜也は、悪戯を咎められた子供のように決まり悪く笑った。 「・・・だめ・・・?」 それでも、そう言って手を引っ込めようとしない竜也を見て、直人は竜也の左手とリング を交互に見つめ心の中で舌打ちした。 こんなのはただのお遊びで、竜也だって少し悪ノリしてふざけているだけだと直人は承知 していた。 けれども、その裏で竜也が未だに心のどこかで不安を抱えているのもまた事実だというこ とも分かってしまった。 先ほど。 直人が自分ひとりでは絶対行かない店に足を運んだことを竜也は心から不思議がった。 自分のためだとは露ほども思っていなかった。 直人が竜也の好きな店やアクセサリーの好みをちゃんと知っていることに初めて気がつい て喜んでいるようだった。 それはつまり。 直人がどれほど竜也を見ているか。どれほど思っているか。 それが竜也にははっきりと伝わってはいないということだ。 自分は直人に気に掛けてもらえなくて当り前。 自分が一方的に直人を好いている。 今もってまだ竜也はどこかでそんな風に思っているのではないかと思って、直人は少し悲 しかった。 過去にそれだけのことをした前科があるとはいえ、思いを伝え切れていない自分が不甲斐 無くも腹立たしく、直人は竜也の悪ノリに付き合うことにした。 真剣に。 直人は差し出されたままの竜也の手をおもむろに握ってぐっと引き寄せた。 「うわっ!」 突然のことに竜也はバランスを崩して直人の胸に倒れ込んだ。 顔を上げると直人の真摯な眼差しと視線がぶつかって竜也の心臓は大きく跳ねた。 「あ、あの・・・直人・・・?」 戸惑う竜也の左手をそっと握り直して、直人はその薬指にリングをゆっくりと嵌めていっ た。 竜也がドキドキしながら声もなくそれを見つめていると、直人はさらにそこに口付けを落 として言った。 「・・・病める時も健やかなる時も・・・」 直人の口から飛び出した言葉に竜也は面喰い、真っ赤になって慌てた。 「ちょ、ちょ、ちょっと直人!なにもそこまで・・・っ」 あわあわと言い募る竜也を視線で制して、竜也が黙ったのを見計らい直人は続けた。 「生涯変わらず愛し抜くことを誓う」 はっきりと力強く言い切った直人を竜也は呆然と見つめた。 直人がふざけてなどいないことははっきりと分かった。 自分ではちょっとした悪ふざけを仕掛けたつもりで無防備だった竜也の心臓は、思いもか けない直人の言葉に鷲掴みにされ止まってしまいそうだった。 苦しいほどに胸が熱くてたまらなくて、無意識に目の前が潤んだ。 「お前は・・・?」 そんな竜也を優しく抱きしめながら直人が耳元に囁く。 少し照れたようなその口調に竜也は詰めていた息を吐き、はにかむように笑って言った。 「そんなの・・・決まってるじゃん・・・」 「じゃあ・・・『誓いの口付け』・・・だな」 「うん・・・」 そして二人はどちらからともなく目を閉じ口付け合い・・・聖夜に想いを確かめ合った。 翌朝。ひとつのベッドで体を重ねて眠る二人の左手は絡めるように握り合わされ、その薬 指にはお互いが贈りあった揃いのシルバーリングがカーテンの隙間から差し込む朝日にき らめいていた。 |
またクリスマスでどーもすいません。
お互いにプレゼントを贈りあう記念日っつったら
クリスマスしか思い浮かばなかったので・・・。
他に何かありますかね?
しかしどうしましょう。
結婚しちゃいましたよ。(笑)