Romance



「ねぇ直人。クリスマスの予定って・・・」
「バイトだ」
「・・・言うと思った」
「そういうお前こそ暇じゃねぇんだろ?え?お坊ちゃま」
「やめろよそれ!うん・・・でもそう。毎年恒例の社交パーティー。ホントは行きたくな
んかないんだけど・・・」
「ま、せいぜいがんばんな。お坊ちゃん」
「だからやめろってば!何なんだよもう・・・。ところで、直人バイトって何するの?も
しかしてサンタのカッコしてケーキ売ったりとか?」
「違う!百貨店のクリスマスディスプレイの撤去だ」
「え!?24日にもう外しちゃうの?」
「らしいな。最近はそんなもんだろ。クリスマスが終われば年末正月と行事が立て込んで
るからな。おかげで俺も金に困らない」
「ふ〜ん・・・。ディスプレイってツリーとかもあるの?」
「そりゃあるだろうな」
「百貨店のだったら大っきいだろうね・・・。俺さぁ、子供の頃ツリーのてっぺんの星が
すっごく欲しくてさぁ」
「・・・一言言えば山ほど貰えたんじゃないのか?浅見財閥の御曹司の願い事なら」
「あのね直人・・・。はぁ・・・もういいや。ううん、全然逆だよ。言えなかった。そん
なこと言おうものなら『下らないことを言うな!』って親父に怒鳴られるのがオチだった
からさ」
「ふん・・・。ツリーの星・・・ね。まぁ分からなくはないがな。俺もガキの頃、家では
ツリーなんか飾らなかったから、店先のツリーの星が本当の星みたいにやけに綺麗で眩し
く見えたもんだ」
「・・・・・・・・・・」
「どうした?」
「いや、あんまり意外で・・・。俺絶対バカにされると思ってたのに・・・直人でもそん
な風に思うことあるんだね」
「・・・お前は一体俺を何だと思ってるんだ。大体がガキの頃の話だろうが。今は別に何
とも思っちゃいない・・・どうせお前は今でも欲しいとか思ってるんだろう?」
「うっ!な、何だよ悪い!?」
「・・・ガキ」
「何だよ何だよ!いいじゃないか〜っ!!」

そう言いながら顔を赤らめ、頬を膨らまして拗ねた竜也の顔が直人の脳裏をよぎった。
12月24日。
予定通り直人はバイトに励んでいた。
次々と取り外されていく煌びやかなオーナメントの数々。
その中で、もうほとんど丸裸になった巨大なツリーの頂上で輝く星のオーナメントが外さ
れるのを直人はぼんやりと見上げていた。
サッカーボール大の安っぽい真っ黄色なそれは、ツリーから下ろされてしまえば当然使い
古されて所々傷の入ったただの星型のプラスチックだったが、無造作にダンボールに投げ
込まれるのを見つめる直人の脳裏には照れ臭そうに無邪気に笑う竜也の顔がちらついて。
「あの・・・すみません。良ければそれ・・・頂けませんか?」
直人は思わずそう声を掛けていた。
ダンボールごと倉庫に運ぼうとしていたアルバイト主任が固まって目を丸くするのに、直
人は心で舌打ちした。

「おつかれ〜」
そうこうしているうちに作業はつつがなく終了し、バイトたちが声を掛け合いながら三々
五々その場を後にする中、直人は大きな白い包みを手にその中身を思って大きく溜息をつ
いた。
自分は一体何をやっているのかと直人は自嘲する。
いい年した男がこんなモノを貰って本当に喜ぶものか。
大体からして相手は大金持ちのボンボンだ。
自分ごときがわざわざプレゼントなんてしてやる義理はないはずだ。
それなのに何をいらぬ恥をかいてまで・・・。
あいつが下らないことを嬉しそうに言うからだ。
だから妙に気になって・・・。
そうだ。あいつが悪いんだ。
こんなモノ・・・さっさとくれてやってスッキリするに限る。
頭の中でグルグルとそんな言葉を並べ立て、直人は携帯を取り出すと買ったときに半ば無
理矢理に登録させられた番号を呼び出し、耳に押し当てた。
数回の呼び出し音の後、繋がった向こう側からは本人の声よりも先にバックに流れる華や
かなクラシック音楽と大勢の人間が笑いさざめく声が聞こえた。
その一瞬で立っている場所の違いを思い知らされ、直人は無意識に唇を噛み携帯を握り締
めた。
『はい、もしもし?』
ややあって、携帯の持ち主の慌てたような声が聞こえ直人は我に返った。
「浅見か?」
『え?もしかして直人!?嘘!どうしたの?バイトは?』
矢継ぎ早に聞いてくるいつもと変わらぬ調子に直人の口元が少し弛む。
「ああ、今終ったトコだ。あのな浅見・・・」
『え!?何・・・!?』
電波が遠いのか周りの喧騒のせいなのか、よく聞こえないらしい竜也が声を荒げる。
その声を聞きながら一息ついて直人は言った。
「今日少し・・・会えないか・・・?」
『え・・・』
小さく息を呑んだような声からは聞こえなかったのかそれとも驚いているのか区別がつか
なくて、直人がもう一度言おうと口を開いたその時。
『竜也さん?どうなさったの・・・?』
携帯の向こうから慕わしげな女性の声が聞こえた。さらに。
『何をしてる竜也!大切なお嬢様をほったらかしにするとは何事だ!!』
と叱責する、恐らくは父親の声。
それを聞いた瞬間、直人の心は凍りつき目の前が赤く染まった。
もうそれ以上何も耳には入ってこなくて、直人は無言で携帯を耳から外すと躊躇うことな
く通話を切り電源も落とした。
静寂の中、風が吹き抜けていく足元に視線をさ迷わせ、直人は白い包みを指先が白くなる
ほど握り締めた。
「おーい滝沢―っ!」
不意に遠くから呼びかける声に虚ろに振り向くと、直人に今日のバイトを紹介した男が手
を振りながら駆け寄ってきた。
「よかった、まだ近くにいて・・・。なぁ、お前これから暇?主任がさぁ、メシ奢ってく
れるって言ってんだけどどう?」
彼は直人と同じくスポーツ推薦で大学に入学した同期で、学内で直人とそれなりに気が合
う数少ない人物だった。今回のアルバイト先の担当主任とは旧知の仲で、人手が足りない
と泣きつかれたとのことで直人にお鉢が回ってきたのであった。
その彼の誘いに直人は静かに頷いた。

それから直人が自宅アパートに帰って来たのは24日も過ぎた深夜になってからだった。
遠慮なくたらふく食事をご馳走になって、酒を飲まないまでもそれなりに楽しいと言える
ひと時を過ごして、直人は気分良く帰路についていた。
しかし、二階に続くコンクリートの階段に足をかけた瞬間その足が止まった。
階段の向こうに常日頃のように、自室のドアの前で自分を待っている竜也の姿が思い出さ
れてしまったから。
つられるように視線が左手の捨てられなかった白い包みに落ち、直人はそれを睨みつけた。
この期に及んでまだ何か淡い期待をしている自分が反吐が出るほど嫌だった。
せっかくのいい気分に水を差されたようで、直人はその思いを振り払うように二度三度頭
を振り改めて階段を上った。
一段一段コンクリートを踏みしめるように上る。
そうして上りきった先で、俯いていた顔を上げた直人の目に信じられないモノが映った。
一番奥にある直人の部屋のドアの前に蹲る人影。
長い脚を折り曲げて両腕で抱え込み、立てた膝に癖のある茶髪を埋めて、寒さを凌ぐよう
に小さく縮こまるその姿に直人は声をなくした。
「あ・・・さみ・・・?」
それはまるで幻のように思えて、直人は無意識にその名前を呟いていた。
その声に反応してピクリと肩が揺れ、伏せられていた顔が上がる。
「・・・直人・・・っ」
不安げなその瞳が直人を見つけた途端安堵したように輝いて、竜也は立ち上がった。
都合のいい幻ではないことは理解したものの、その姿に直人はまた違う意味で呆然とし立
ち尽くした。
立ち上がった竜也は何とタキシードを身に纏っていた。
クリスマスという日にタキシードを着て出席するパーティなど直人には想像も出来ない。
いかにも御曹司然としたその佇まいにまたはっきりと世界の違いを思い知らされ、直人は
眩暈がしそうだった。
しかし、それ以上に直人の心を強く揺さぶることがひとつあった。
それはそんな竜也が今ここにいるという事実。
「・・・?直人?どう・・・っ!?」
黙ったまま身動ぎもせずただ自分を睨みつける直人をいぶかしんで近寄った竜也の腕を直
人はおもむろにきつく掴んだ。
「ちょっと来い!」
そしてそのまま有無を言わさず、直人は竜也を引きずるようにして元来た階段を駆け下り
た。
しばらく引きずられるまま歩いて竜也が連れて来られたのは近くにある公園だった。
真冬の深夜の公園は当然誰一人いるわけもなく、か細い街灯の灯りだけに照らされてひっ
そりとしていた。
ずっと竜也の手を引きつつ背中を向けていた直人は、公園に入ってやっと振り解くように
手を離した。
しかし相変わらず振り向こうとしない直人に竜也はおずおずと声を掛けた。
「あの・・・直人・・・?」
「何してんだ・・・」
「え?」
「何やってんだお前・・・」
「だって・・・直人電話くれただろ?『会えないか』って。だから俺・・・」
『聞こえていたのか』と直人は内心舌打ちしつつさらに続けた。
「聞いただけだろ。無理ならそれで別に・・・。大体何時間前の話だ!?この寒空にそん
な格好で・・・俺がいなかったら帰りゃよかったろうが!」
段々語気の荒くなる直人に竜也は彼の真意が掴めず困惑しながらも懸命に口を開いた。
「ご、ごめん。でも俺嬉しくて・・・。直人が電話してくれたのが嬉しくて・・・思わず
そのまま飛び出しちゃってさ。直人いなかったけど・・・電話も繋がらなかったけど・・・
俺、どうしても直人に会いたくて・・・っ」
「・・・『大切なお嬢様』とやらはよかったのかよ・・・」
「は?何それ誰のこと?あんなトコ・・・俺初めて会う人がほとんどで知らない人ばっか
りだよ。なぁ直人・・・何で・・・?何でそんなに怒ってるんだよ!?俺・・・俺が待っ
てたの・・・そんなに迷惑だった・・・っ!?」
今にも泣き出しそうな竜也の声を背中で聞いて直人は天を仰いだ。
怒っているわけではなかった。
むしろ全くその逆で・・・。
縋るような竜也の言葉にその思いは膨らむばかりで、今まで厳重に戒めてきた箍が外れて
しまいそうで直人は自分を抑えるのに必死だった。
「直人・・・」
答えてくれない直人に悲しくなってうなだれる竜也の前に白い包みが差し出された。
「・・・?」
「用事はそれだ・・・」
竜也から目を逸らしながら呟く直人の手からそれを受け取り包みを開いて、竜也は目を見
開いた。
それきり絶句したまま何も言わない竜也に居心地が悪くなって直人は口を開いた。
「何のことはないただのプラスチックだ。いい年してそんなモノ欲しがるなんてな。お前
って奴はよくよく下らないことが好きな・・・」
照れ隠しから無意識に皮肉を並べ立てていた直人は、ちらりと竜也を横目でうかがった瞬
間からそれ以上言葉を発することが出来なかった。
包みから取り出したプラスチック製の大きな黄色い星を抱きしめるように胸に抱いたまま、
竜也は泣いていた。
ポロポロと真珠のような涙が次から次へと溢れてはこぼれ落ちていく。
やがて竜也は流れる涙もそのままにその星を愛しそうに見つめて指先でなぞり、頬をすり
寄せて目を閉じ口元だけで微笑んだ。
「・・・うれ・・・しい・・・っ」
しゃくり上げるように呟いたその声は幸せに満ちて、うっとりとしたその表情は例えよう
もなく美しく、直人は自分の中で何かが崩れ落ちる音を聞いた。
そして気が付いた時には直人はその腕の中に竜也をきつく抱きしめていた。
「ただの・・・プラスチックだ・・・」
「うん・・・」
「使い回されてボロボロなのをただ貰っただけだ・・・っ」
「うん・・・。でも・・・俺のために貰ってくれたんだよね・・・?」
「・・・っ」
「直人がくれた俺だけの星だよね・・・。ありがとう。俺、すっげぇ嬉しい・・・一生大
事にするから・・・」
「・・・バカだお前は・・・」
きっとパーティでこんなもの比べ物にならない贈り物をそれこそ山のように貰ったはずな
のに。
それが竜也の心からの言葉だということは直人にだって痛いほど分かった。
だから。直人は自惚れそうになる自分が恐かった。
今日一日で、普段は忘れがちな立場の違いを・・・住んでいる世界の違いというものを嫌
というほど思い知った。
それでも。
自分の電話ひとつで竜也はその世界を飛び出してきて。
この真冬の夜中に何時間も自分を待って。
ちっぽけな贈り物に涙を流して、今自分の腕の中にいる。
その事実を前に自惚れない人間がこの世にいるだろうか。
たとえ竜也の思いがどうであろうと、全てを自分のものになど決して出来ない存在である
ことは最初から分かっていた。
自分は欲が深い人間だ。
望めば全てが欲しくなる。
中途半端なものはいらない。
そう分かっていてなお、自分の気持ちから目をそらすことも手離すことも出来なくて、直
人はそんな矛盾する思いに縛られたまま竜也に接してきた。
けれど今この瞬間だけ、何もかも忘れて目の前にいる竜也を抱いていたいと直人は思った。
自惚れでも何でも、たとえ一時の夢でも、愛しいと思うその心のおもむくままに竜也を自
分の中に閉じ込めてしまいたかった。




「浅見・・・」
「ん、何・・・?」
「お前これ・・・自分で脱ぎ着できるんだろうな?」
「へ・・・?」
自分を抱きしめて肩口に顔を埋めたままぼそぼそと呟く直人の言葉の意味が分からず、竜
也は一瞬頭を捻ったが、直人が服をぎゅっと掴むのに、直人の言う「これ」が「タキシー
ド」のことだと竜也はすぐに理解した。
かといって直人が何を言いたいのかまでは相変わらず分からなかったが、とりあえず竜也
は聞かれたことに素直に答えた。
「う、うん、出来るよ?でもそれが?」
間があって、直人は息苦しくなるほどより一層竜也を強く抱きしめ、隠すように肩に深く
顔を埋めくぐもった声で囁いた。
「・・・帰したくない気分だ・・・っ」
耳元で聞こえたその言葉にその意味を悟り竜也は一気に真っ赤になった。
直人の息遣いを感じる肩が熱くて、ドキドキと心臓が早鐘を打つ。
チラリと直人をうかがえば直人もまた耳まで赤く染まっていて、竜也はますます胸が熱く
なった。
目を閉じ、ほうっと詰めていた息を吐いて、竜也は答えるかわりに腕を回して直人の背中
を抱きしめた。
ひとしきり固く抱きしめ合い直人が顔を上げる。
今日初めて竜也と正面から顔を合わせた直人に、目元を赤く染めた竜也が柔らかく微笑む。
「何か夢でも見てるみたい・・・。俺、こんなに幸せなクリスマス・・・初めてだよ。
全部・・・直人がいるからだ。直人・・・サンタクロースみたいだね」
臆面もなくそう言ってのける竜也に照れ臭さのあまりむず痒い思いをしつつも、直人もつ
られて苦笑した。
「よく言うぜ。俺がサンタならお前は・・・」
そこまで言って、直人はあまりにもらしくない、自分とさして変わらないでかい図体をし
た男に到底不似合いなその発想に慌てて言葉を切る。
我ながら不審なその言動にふと竜也をうかがうと、竜也は続きを促すでもなくきょとんと
した顔で小首を傾げ、上目遣いに直人を見つめていた。
その様が自分の馬鹿げた発想に実によく嵌っていて、直人は思わず吹き出した。
突然笑い出した直人に竜也が眉を顰めていると、直人はもう一度竜也に腕を伸ばしそっと
引き寄せた。
至近距離に寄せられる直人の顔は竜也が初めて目にするような優しい表情で、竜也は思わ
ず見惚れた。
そんな竜也に直人は小さく囁いた。
「俺がサンタなら・・・お前は天使だな・・・」
そしてそのまま竜也に何も言わせないように唇を重ねる。
言われた言葉にまた顔に熱が上りかけた竜也も、与えられる柔らかい口付けにいつしか目
を閉じ身をゆだねた。
抱き合う二人の間で、竜也の胸には直人から贈られた黄色い星がしっかりと抱きしめられ
ていて。
その星は、クリスマスの夜空を彩り綺羅星の如く瞬く冬の星座の星々のように美しく輝い
ていた・・・。






キリバン50000ゲッター・あさねこさまからのリク。
「直人の部屋の前で直人の帰りを待つ竜也というシチュエーションを絡めた直竜(in学生時代)」
何故かクリスマス・・・。
「ツリーのてっぺんの星」を欲しがる竜也とそれをプレゼントする直人が書きたくって。(笑)

それにしても何というか二人とも若いというか青いというか・・・。
でも大学時代なわけだから青臭い恋愛でオッケーですよね!(居直り)
アマアマラブラブ度だけは当社比5割増!って感じになりましたが
リクにちゃんとお応えできてるでしょうか?(汗)
今回またエビでタイを釣らせて頂いて
こーんな素敵な挿し絵を頂いちゃいましたvvv
あさねこさまリク共々ありがとうございました〜vvv


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