| PAPA Don't preach !-3- |
「ねぇ母さん。黒豆ちょっと甘すぎるかなぁ」 「そう?母さんそのぐらいで丁度いいと思うけど・・・」 「そっかな・・・あ!いっけね!お煮しめそろそろ火止めないと!」 「まぁまぁ竜也。そんな慌てなくても大丈夫よ。それより先にお寿司を巻いてしまった ら?」 「ああ、そうだね。そっちも片付けなきゃ・・・。は〜、おせち作るのって大変だね。あ れもこれも・・・やることが多すぎて目が回るよ」 「まあ竜也ったら・・・」 年末も押し迫った大晦日。 そんな会話がもれ聞こえる我が家の台所は実に賑やかだ。 常日頃は年末正月もなく忙しい身の私だが、今年は珍しく家でゆっくりと過ごしている。 居間のソファで寛ぎつつ、妻の奈美江と息子の竜也の二人が明日の為のおせち料理に奮闘 する声を遠巻きに聞いていると、年の瀬の一家団欒を絵に描いているようでいかにもほの ぼのと心地よく心癒される気分だ。 『男子厨房に入らず』で育った私にとって、息子が母親と一緒に料理に精を出す・・・と いう構図はいささか複雑な心境だがこの際目をつぶろう。 うむ。たまにはこんな風に家族で年を越すのも実にいいものだ。思い切って休みをとって 本当に良かった。 「出来たーv」 そんな風にしみじみと感慨に耽っていると、台所の方から完成を告げる竜也の声が聞こえ、 私はソファから腰を上げた。 「出来たのか?」 そう声をかけながら戸口から覗くと、テーブルの上には美しくお重に盛り付けられたおせ ちの品々があった。 「如何?あなた。初めてにしてはなかなかの出来でしょう?」 「うむ。悪くないな」 「は〜つっかれた〜。でもちゃんと出来て良かった〜。全部母さんのおかげだよ。ありが と」 「どういたしましてv竜也こそ良く頑張ったわねv」 ああ、なんと微笑ましい会話だ。まさに理想的な家族の肖像だ。 「疲れただろう。終わったのならこっちに来て休みなさい」 「え?ああ、うん」 「奈美江、お茶を頼む」 「はいはい」 微笑む妻。そして素直に私の後をついてくる息子。 素晴らしい! 居間に入り私と竜也は向かい合うようにソファに腰を下ろした。 すると竜也の方から口を開いた。 「でも珍しいね。親父が年末家にいるなんてさ」 「ああ・・・。このところ何かと忙しくてろくに家にも帰ってなかったからな。たまには ゆっくりと落ち着いて家族で年を迎えるのもいいかと思ってな。お前も帰って来てること だし・・・」 「ふ〜ん・・・。でもさぁ、俺もう少ししたら出かけるよ?」 な・・・何だと!? 「ど、どこへ行くんだ?」 「え?どこってそれはぁ・・・そのぉ・・・」 問われた竜也の目元がほのかに赤く染まり、恥らうような仕草で俯き加減に言いよどむ。 この態度・・・っ嫌な予感がする・・・っ!! 「滝沢さんの所よねーv竜也vvv」 絶妙のタイミングで居間に現れた奈美江の単刀直入な発言に一瞬固まりつつも一縷の望み を持って視線を竜也に向ければ、竜也は照れ臭そうな素振りで「うん・・・」と頷いた。 やっぱりか――――――――――っ!! おのれあの男め!! どこまで我が家の平穏を邪魔すれば・・・っ!! はっ!!もしやまさか・・・っ! 「おせち、ちゃんと包んでおいたわよ」 「あ、サンキュ。直人・・・喜んでくれるかなぁv」 やはりそうなのか――――――――――っ!? 朝からほとんど一日中台所に立ちっ放しで・・・。 甲斐甲斐しく丹精込めて作られていたあのおせち料理の数々は・・・全てあの男のためだ というのかっ!! 何ということだ・・・。 理想的な家族団欒のひとコマが・・・心癒される家族の情景が・・・音を立てて崩れてい く・・・。 「迎えに来てくださるの?」 「うん。もうそろそろだと思うんだけど・・・。初日の出見て一息ついたらまた顔出すか らさ」 「その必要はないっっ!!」 竜也の言葉尻を遮るように私はソファから勢いよく立ち上がり拳を握り締めて怒鳴った。 突然の私の怒号に奈美江と竜也はそろって呆気にとられたように私を見上げた。 「お・・・親父・・・?」 「あ、あなた・・・?どうなさったの突然」 「ええい、うるさいっ!」 二人揃って訳が分からないというような顔しおって!私の気持ちが分からんのかっ!! 「私は明日から仕事だ!だからもう帰ってこんでいい!!」 「ええ!?だってあなた大晦日と元旦は休みをお取りになったって・・・あら、あなた? どちらへ!?」 「私はもう寝る!明日早いんだ!お前たちも好きにするがいいっ!」 「ちょっとあなた・・・あなた!?」 追いすがる奈美江の声を振り払って私は居間を後にし、二階の書斎へと階段を足音荒く上 っていった。 ちょうど階段を上りきった辺りでチャイムの音が聞こえた。 恐らくは・・・竜也が言っていた『迎え』なのだろう。 あんな男など・・・顔も見たくなければ声も聞きたくないわっ! 私は階下の声を聞きたくなくて足早に書斎に入り勢いよくドアを閉めた。 はぁ・・・。 嘆かわしい・・・。 親の心子知らずとは正にこのことだ。 何が「一息ついたら顔を出す」だ。 親のことをまるでついでか何かのように言いおって。 せっかくの年末正月・・・私は・・・家族水入らずで過ごそうと・・・。 そんなにあの男の側がいいのか・・・。 ふ・・・父親など悲しいものだな・・・。 消沈する気分の赴くまま私はグラスにウィスキーを注ぎ、一口二口口を付けそのままそれ を手にしてテラスのカーテンを開け・・・次の瞬間激しくそれを後悔した。 眼下の路上には、停車された車の助手席に今まさに座ろうとする竜也と助手席のドアを開 けまるで竜也をエスコートするような滝沢の姿があった。 何だまだうろうろしとったのか。 ええい、くそっ!何をもたもたと・・・っ! どうせ行ってしまうのならとっとと行ってしまえ! ムカムカと腸が煮える思いで思わず二人の姿を睨みつける。 そんな私の視線など全く気付かず、助手席におさまった竜也は膝におせちの包みを乗せ、 実に嬉しそうに滝沢にひっきりなしに何事か話し掛けているようだった。 途切れることのないその様子に助手席のドアを閉めるタイミングを計りかねているようだ った滝沢が不意に動いた。 「!!!!!!!!!!」 その光景を目にした私は思わず手にしたグラスを取り落としそうになった。 心持ち身を屈めた滝沢が助手席に頭をもぐりこませること数秒。 竜也の姿は滝沢の背中に完全に覆われて見えなかったがその向こうで何が行われたかは火 を見るよりも明らかだった。 その証拠に身を起こした滝沢の向こうに見えた竜也は先ほどまでとは打って変って黙り込 み、恥ずかしげに頬を染めて目を潤ませ、手にしたおせちの包みを抱え込むようにしてそ こに顔を埋めていた。 あ・・・あ・・・あ・・・あの男めっ!! こ、こんな住宅地の往来で! 天下の浅見財閥邸の玄関先でその御曹司に! なんという大胆かつ不埒!破廉恥極まりない行為を〜〜〜〜〜〜っ!! 恥を知れ恥をっ! 誰かに見られでもしたらどう責任をとるつもりだ貴様っ! 思ってもどうすることも出来ない憤りに唇を噛み、ワナワナとグラスを持つ手を振るわせ る私の眼前で、滝沢は素知らぬ素振りで何事もなかったかのように助手席のドアを閉め自 分は運転席へと回った。 そのドアを開きそのまま乗り込むものと思われた滝沢は、ふと何事か思い出したように動 きを止めあろうことかこちらを見上げた。 はっきりと意図を持った視線が私を捕らえたその瞬間、滝沢は私を見据えたままニヤリと 口元を上げて目を細め勝ち誇ったように笑ったのだ。 一瞬で全身の血液が沸騰し、手の中のグラスが砕け散った。 しかし、そんな私にお構いなく車は静かに発進し後には街灯に照らされたひっそりとした 路面があるばかりだった。 私は足元にグラスの破片を飛び散らせたまま、手の平から琥珀色の液体を滴らせたままそ こに立ち尽くし心に誓った。 滝沢直人。 私は生涯貴様と打ち解けることなど決してありはしないだろう。 たとえ奈美江が、竜也がどう言おうと私は貴様を許さん。 絶対に何があろうと許すものか! 私は・・・私は・・・っ! 貴様が大っっっ嫌いだ――――――――――っ!! |
またまた時期外れですが勘弁してやって下さい。(殴)
久々の更新がまたこのシリーズ。
結局また渡パパ救済はなりませんでした。(笑)
だってやっぱ
このシリーズの渡パパはいじめてなんぼ!
(じゃ何なら救われると?)
がんばれパパ!