| Holiday in horror |
「直人ぉ!次はアレ乗ろ、アレ!!」 休憩と称してベンチに腰を下ろしてから僅か3分。 衰えることを知らないかのように元気いっぱいに嬉々としてそう言いながら竜也が指差し たものを仰ぎ見て、直人は大きく肩を落としてうなだれた。 ここはとある遊園地。 前々から竜也が行きたがっていたこともあって、絶好の行楽日和となった休日を利用して 二人で出かけてきたのだが・・・。 竜也が乗りたがるものといえばそのほとんどがいわゆる絶叫マシーンで、格別恐いわけで も嫌いなわけでもないものの、朝からずっと次から次へと立て続けにそういう類のアトラ クションに付き合わされた直人は少々疲れを感じていた。 「元気だなお前は・・・」 「何年寄り臭いこと言ってんだよ直人!まだまだこれからじゃん!まだコレも乗ってない し〜・・・あ!コレも絶対外せないな〜」 広大な敷地内のマップを眺めながらはしゃぐ竜也に直人は溜息をついて竜也から目をそら した。 その視線の先に直人はふとあるものを発見した。 「浅見、ちょっとそれ貸せ」 言うが早いか竜也の手からマップを取り上げ、それが自分の思った通りのものであることを 確認して直人はほくそ笑んだ。 「何直人?どうしたの?」 直人の様子に竜也は直人の手の中のマップを覗き込んだ。 その途端直人は素早くマップをたたんで言った。 「なあ浅見。次は俺に付き合ってくれないか」 「え?」 「ダメか?」 「ダメなわけないじゃん!いいよもちろん!珍しいね、直人がこういうとこで自分から何 かに乗りたがるなんて」 「乗り物じゃないんだがな・・・」 「そうなの?じゃあ何?」 「行けば分かる」 そう言って立ち上がり歩き始めた直人の後を竜也は素直について行った。 出掛けるといつも自分に合わせてくれて、あまり自分がどうこうしたいと言わない直人が 自身の希望を口にしてくれたことが竜也は純粋に嬉しかった。 一緒に楽しんでいるという感じがして、また直人のしたいことが何なのか楽しみでもあっ た。 前を歩く直人の口元が邪な笑みを浮かべていることにも気付かずに・・・。 「な、直人・・・あの・・・ココ・・・?」 「ああそうだ」 目的の建物を前に竜也は俯きつつ上目遣いに恐る恐るそれを見上げた。 洋館を模した黒塗りの外装におどろおどろしい字体で書かれた『Horror House』の看板。 言わずもがな。それはつまり『お化け屋敷』というものだった。 「さ、行くぞ」 「ちょ、ちょっと待った!!」 入り口に向かって再び歩き出そうとした直人の腕を竜也は勢いよく掴んだ。 「何だ」 「あ、あのさ他のにしない?」 「どうして?」 「ど、どうしてって・・・」 潤んだ目で困ったように言いよどむ竜也を直人はニヤニヤしながら見つめた。 それは直人にとって予想通りの反応だった。 竜也が怪談、お化け、幽霊といった類のものが苦手なことなど直人は百も承知だった。 大学の時、空手部の合宿で皆が集まって怪談話に興じている時も竜也は一人寝たふりを決 め込んでいたし、肝試しに至っては仮病まで使って逃げたことがあるのである。 直接竜也から恐いの恐くないのという話を聞いたことこそないが、分からない方がどうか しているというものだろう。 先ほど偶然このアトラクションを見つけて、朝からずっと絶叫マシーンに引っ張りまわし てくれた竜也に軽い意趣返しを企んだ直人だった。 「どうしてもこれじゃなきゃダメ?」 「何だ今さら」 「だって・・・さ〜・・・」 「・・・今まで散々お前に付き合ってやったってのに俺にはひとつも付き合ってくれない わけか」 「そ、そんなことないってば!!分かったよ・・・直人がそういうんなら・・・っ!よし っ入ろう!」 わざとらしく傷ついたようにうそぶく直人に竜也はころっと引っ掛かり、開き直って逆に 直人の腕をとり大股で歩き出した。 「中は暗くなっておりますので足元に気をつけてお進みください。ではいってらっしゃい ませ〜v」 係員の朗らかな声に見送られつつ、二人は中に足を踏み入れた。 温度調節がなされているのであろう中はひんやりと肌寒く、足元にはドライアイスの煙が 漂っている。 ほの暗い通路は青白い照明にぼんやりと照らされ、壁や天井にほどこされた不気味な装飾 を浮かび上がらせていた。 それらはなかなか精巧に作られていて、どこからともなく聞こえる悲鳴やすすり泣きとい ったお約束のBGMと相まって、かなり五感に訴えかける恐怖感を醸し出していた。 「へぇ、なかなかのモンだな」 周囲を眺めながら予想以上の手の込んだつくりに直人は感嘆の声を漏らした。 「なぁ浅見」 そして竜也を振り返った。 竜也は中に入った時点で既に固まっていた。 「そ、そ、そうだね・・・」 相槌を打ってみるものの声は震え顔は引き攣り視線はせわしなくさ迷い、『恐い』と全身で 物語る竜也の様子に直人は吹き出した。 「おかしな奴だな。ロンダーズの化け物どもは平気なくせにこんな作り物が恐いのか?」 くっくっと喉を鳴らして笑う直人にバカにされたと感じた竜也はキッと眦を吊り上げて直 人を睨んだ。 「ロンダーズは宇宙人であって化け物じゃないの!あーゆー人たちなの!ていうかこの雰 囲気が嫌なんだよ〜。いかにも何か出そうで、それがまたいつどこからくるかわかんない 感じがさ〜」 「『何か』ってお前、分かりきってるじゃないか。作り物かせいぜい脅かし役の人間だろ」 「分かってたって恐いものは恐いんだよっ!!」 「ふ〜ん・・・。で?いつまでそこでそうしてるつもりなんだ?」 「え・・・」 「とにかく先に進まないことには出られないんだぞ。お前が来ないなら俺は先に行く」 そう言ったかと思うと本当に背を向けてスタスタと歩き出した直人に竜也は仰天した。 「わぁっ!!待って待って直人ぉ〜っ!!」 大慌てで後を追いかけようとしたその時。 『ぎゃああああああっ』 という絶叫と共に通路の両側の壁が勢いよく180度回転し、体の半分が焼けただれて凄 まじい恐怖と恨みの形相を浮かべた女性や己の首を手に捧げ持った首のない血まみれの男 性(の人形)が現れた。 「ひ・・・っ」 人間は危険を感じると衝動的に一瞬動きが止まってしまうもので。 ただでさえ恐怖感でいっぱいだった竜也は当然引き攣った声を上げてその場に硬直した。 そして悲しいかな。人間は自分に危険を及ぼした原因を視覚で確認してしまうのが本能な のだった。 頭では見ない方がいいことなど分かりきっているのに本能に逆らうことは叶わずぎこちな く首が回り、いっぱいに見開かれ涙に滲んだ竜也の両目は自分の両脇にあるモノをゆっく りと、しかしはっきりと視界に捕らえた。 「ひ・・・い・・・ぎゃあああああああっ!!」 その瞬間、飽和状態にあった竜也の恐怖心は臨界点を超えた。 めいっぱい膨らんだ風船が弾け飛ぶように、甚だ色気のない絶叫を辺りに響かせて竜也は 闇雲に駆け出した。 「うぉ・・・っと!」 そしてラグビーのタックルを思わせる勢いで直人に抱きつきそのまま力任せに縋りついた。 竜也のように背も高くガタイのいい男に加減容赦なく突進してこられれば、大抵の人間は 受け止めるどころか逆に吹っ飛ばされるかなぎ倒されるところだが、竜也に抱きつかれる ことに慣れている直人は、予想以上のオーバーリアクションに驚きはしたものの難なく竜 也を受け止めた。 そう。直人は竜也に抱きつかれることなど日常茶飯事で慣れたものだった。 しかしである。 日頃不意に懐いてくるのと違い、恐怖に駆られ救いを求めるように必死にしがみついて震 えるその様子は体躯に見合わぬ頼りなさで妙に可愛らしく直人の中の男の庇護欲と優越感 を大いに刺激した。 思わず顔が土砂崩れを起こしそうになるのを何とか堪え、直人はさりげなく竜也の腰を抱 き寄せ普段と趣の異なる新鮮な感触とぬくもりを密かに楽しみつつ、肩口に埋められた竜 也の茶色い髪を撫でた。 「おいおい何やってんだ。ただの人形だろ?」 内心の高揚を押し隠しながら直人がそう言葉を掛けると、竜也は直人に抱きついたまま大 きく何度も首を横に振った。 「やだ!!やっぱやだ!もうやだ!絶対やだっ!!」 「そう言われても入った以上は今さら引き返せないしなぁ」 捲くし立てる竜也に直人はニヤニヤと意地悪く笑う。 完全に調子に乗って状況を楽しんでいる直人であった。 「じゃ、じゃあ直人手つないでよ!俺目つぶってるからさ。出口まで連れてってよお願い!!」 「バカ言うな。見ないとせっかく入ったのに勿体無いだろ」 「どうでもいいよ俺そんなこと〜っ!」 「やれやれ仕方ないな。なら手は繋いでやってもいいが・・・目はちゃんと開けとけよ。 後で何があったかちゃんと聞くからな」 「そんなひどい・・・」 「嫌なら一人で歩くんだな」 「ああ!やだぁ!!待って待って待って〜っ!!」 また置いて行かれそうになった竜也は手を繋ぐどころか自身の両腕を絡めて直人の腕にが しっとしがみつき体を密着させた。 「こら、歩きにくいぞ・・・」 などと言いながら。 暗闇なのをいいことにどうしても鼻の下が伸びてしまうのをもはや直人は堪え切れなかっ た。 そして直人は歩いて5分ほどの短い時間、恋人とお化け屋敷に入る醍醐味、男のロマンを 心ゆくまで満喫したのだった。 「ありがとうございました〜v」 係員の声に送り出されつつ外に出た二人に太陽の光がまぶしく降り注ぐ。 「浅見、ホラもう出たぞ。いつまでしがみついてるんだ」 「誰の・・・誰のせいだと・・・っ!ひどい直人!!絶対面白がってただろっ!?」 恐怖のあまりに半ば腰が抜けた竜也は昔懐かし抱っこちゃん人形よろしく直人の首に縋り ついたままがなりたてた。 「耳元で喚くなよ。いやまさかあんなに恐がるとは思わなくてな・・・」 決して面白がっていたわけではないが当たらずとも遠からず。 実のところ弛みっぱなしな顔を直人は白々しく誤魔化した。 「うう〜俺・・・俺もう一生こんなトコ入らないっ!!絶対頼まれたって二度と入らないっ!!」 「ああ分かった分かった。悪かったな」 「直人!!そんなこと言ったって今日は許さないからなっ!この後はもう徹底的に俺に付 き合ってもらうからね!覚悟しとけよっ!!」 「はいはい。まぁとりあえずは自分で立てるようになってからな」 「うぐ・・・っ。い、いいよもう歩けるよっ!」 「バカほらまだふらついてるじゃないか無理するな。観覧車にでも乗って休むか?」 「え?観覧車・・・vって、ちょっと直人ぉ〜っ!!誤魔化されないからなーっ!! 珍しくもなかなか怒りのおさまらない竜也の喚く声も、目論見を果たしてこの上なく上機 嫌な直人には馬耳東風である。 暗闇にまぎれていた時と違い体を寄せ合ったまま歩く二人のそんな様子はかなり周囲の視 線を集めていたがそれすらも忘れているようであった。 そんなこんなで。 この日お化け屋敷に現れた見目麗しいホモのバカップルの話はその後その遊園地の伝説に なった。 しかしそれが自分たちのことだということなど無自覚な本人達は当然知る由もないのだっ た。 |
実は家族旅行に行く前に書いてました。(笑)
せっかくTDL行ったんだから
TDL書いとけって感じですが
私にあそこを描写する力量はないです。
(言い切るなっ!)
それにですね
TDLには歩いて回るお化け屋敷も
観覧車もないんですもの・・・。
(「それはつまらん」(直人談(笑)))