Like a virgin




隣で眠っていた浅見が小さく身動ぎする。
その鼻先がヒクヒクと動いたかと思うと、不快そうに眉が顰められた。
そしてその表情のまま薄く目を開ける。
「・・・起こしたか?」
声を掛けても返事が返ってこない。
まだ意識が覚束ないのだろう。
それでも、俺の声に促されるように大きく瞬きをして軽く頭を振る。
緩慢な動作で上半身を起こし顔を上げたその視線が俺の指先に止まる。
その途端虚ろだった目がはっきりとしたものに変わり真ん丸に見開かれた。
「直人・・・何してんの?」
寝起きで(そればかりのせいじゃないが)掠れた声に少なからずそそられる。
そんなことを思う自分に苦笑しながら、俺は俺自身の指先で火を灯した先端から独特の臭
いを燻らせ薄く紫煙を立ち上らせるソレを口元に運び軽く吸い込んで、口内に広がった煙
をわざと浅見の顔に吹きかけた。
浅見は派手に顔をしかめ、大仰に両手を振ってその煙を払う。
子供みたいなその仕草に俺は笑って、もう一度指に挟んだモノを咥えた。

抱き合った後そのまま床を共にして眠って、浅見より先に目が覚めた。
割といつものことだが、今日に限って何となくそのまま起きる気にももう一度眠る気にも
なれず俺は一人時間を持て余して、手持ち無沙汰に浅見の寝顔を見つめていた。
情事に見せる艶めかしさを微塵も感じさせない、ともすれば年齢よりも幼く見えるあどけ
ない安らかな寝顔。
じっと見つめていると、ふと規則正しく呼吸を繰り返す薄く開かれた唇に視線が吸い寄せ
られた。
瞬間鼓動が跳ねる。
ほんの数時間前に飽きるほど貪ったというのに、今またどうしようもなくその唇に触れた
い衝動に駆られた。
普段は少しかさついているのに触れると熱をはらんでしっとりと潤み、薄い割には弾力の
ある、赤く色づくその唇に。
そして重ねたそこから舌を差し入れて熱く甘い口内を味わって・・・。
そこまで思って俺は我に返り、大きくかぶりを振ってその衝動を打ち消した。
いかんいかん。
そんなことをしたらきっと浅見は目を覚ましてしまう。
せっかくこんなにも気持ち良さそうに眠っているものを起こすのも悪い。
そう思ってはみたものの。
一度膨らんだ欲望はなかなか消えてはくれなかった。
何せ求めるものは無防備に目の前にあるんだからそれは致し方ないというもんだろう。
疼く唇を片手で押さえつつ、なるべく浅見を見ないように目をそらした先にあったサイド
ボードに、俺はあるモノの存在を思い出した。
普段滅多に口にしないモノだが、確か最近買った奴がまだ残ってたはずだ。
そう思って簡単に手が届くところにあるその引き出しを開けて中を探った。
・・・あった!
思わずホッと安堵の息がもれた自分が少し情けない。
何を一人で切羽詰ってんだ俺は。
気恥ずかしさに苦虫を噛み潰しつつ、俺は一本だけ取り出したその先に火をつけた。

「だが結局はこの臭いで起こしちまったみたいだな。悪かった」
事の成り行きを話している間からずっと、浅見は物珍しげにまじまじと俺とそれとを交互
に見つめていた。
「それはいいんだけどさ・・・直人って・・・煙草吸うんだ」
そういえば浅見の前で吸ったことは一度もなかったか。別に隠す気はさらさらなかったん
だが・・・タイミングの問題だな。
「まぁたまにな。大体がその時だけで、大抵一箱吸いきらずに湿気らせて捨てちま
う程度だ」
「俺吸えないんだと思ってたよ。お酒と同じで」
「・・・こっちは吸わないだけだ」
酒を引き合いに出されて少しムッとする。
悪かったな飲めなくて。
「お前は吸えないんだろう?」
酒のことを言われた仕返しにわざと嫌味たらしくそう言うと、俺の意図を察したらしく浅
見は頬を膨らませた。
「いいんだよ、そんなもん吸えなくっても!体に悪いんだからなー」
そう言ってそのままぷいっと横を向く。
煙草が吸えないことより何より。
そういうところが子供っぽいんだと心で思って、堪え切れずに喉で笑う。
「ねぇ」
「何だ」
「さっきの話だとさぁ、直人今それ吸ってるのって口寂しかったからなんだよねぇ?」
「あ?ああ、まぁな・・・」
「ならさ・・・もういらないんじゃないの?」
「は・・・?」
一瞬言われた意味が分からなくてうかがうように浅見を振り向くと浅見は笑っていた。
シーツの下で立てた片膝に両手を乗せ、方頬をそこにつけるように小首を傾げて上目遣い
に俺を覗き込んで。
悪戯っぽく、誘うように。
無邪気に、艶然と。
・・・・・やられた・・・・・。
何度抱いてもまるで処女のように純情な素振りを見せるくせに、不意に何もかも見透かし
た小悪魔のような顔を見せる。
これが本当に無意識だというのならお前は相当たちが悪い。
そんなお前に心底嵌まりきってる俺も大概なもんなんだろうけどな。
「ああ・・・そうだな・・・」
誘われるままに目を閉じて顔を寄せれば、浅見は俺の頬に片手を添えて自分から唇を重ね
てきた。
触れ合わせたそこが笑みを形作っているのは見なくても分かる。
そして。
俺はもう必要のなくなった煙草を灰皿へと押し付けた。









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