ONE DAY


とある映画館のロビー。
折りしも上映が終わった直後のそこは入れ替わりの人々でごった返していた。
その片隅。
行き交う人々は興味深そうな視線を送り、中にはくすくすと小さく笑う者もいる。
「いい加減に泣き止め浅見!」
直人は人目を気にしつつ低い声でそう言った。
直人の前では、椅子に腰掛けた竜也がハンカチを涙で濡らしていた。
「だって・・・だって直人ぉ〜。ぐすっ」
身長180cm以上、見るからに体育会系な体格の男二人の不自然な佇まいは、人目を引
くに十分な空間を作り出していた。
こんな状態がかれこれ10分以上。
直人は一刻も早くこの晒し者状態から逃げ出したかった。
そもそも。
「映画のチケットをもらったから一緒に行こう!」
と言ってきたのは竜也の方で、直人は最初から乗り気でなかった。
それを、見た目によらず強引ぐマイウェイな竜也に押し切られ引っ張ってこられて・・・。
さらにその内容に直人は眩暈を起こしそうだった。
陳腐な三流ラブロマンス。
何が悲しくて大の男二人で恋愛映画を見なくてはならないのか。
そこに全く疑問をもたず無邪気にはしゃぐ竜也に直人は抵抗をあきらめた。
が、しかし。
思った通り全く興をそそらない内容に直人は終始居眠りを決め込んだ。
そしてエンディングのBGMに目を開けた直人の目に映ったのは、画面を食い入るように
見つめながら、切れ上がった茶色い目から大粒の涙をこぼす竜也の姿だった。
そして今に至るわけである。
さわりを見れば全てが読めてしまうお約束の悲恋ドラマにこれだけ泣ける浅見竜也という
男の精神構造が直人には理解できなかった。
次の上映が始まりロビーに人もまばらになった頃、竜也はようやく涙を止めた。
「だって、だってさ、死んじゃうんだぞ」
涙は止まったもののまだしゃくりあげるような状態で竜也は話し出した。
「本当は好き合ってるのに・・・誰よりもお互いのこと大事に思ってるのに・・・。誤解
したまま憎み合って死んじゃうなんてあんまりじゃないかぁ!」
そこまで言ってまた感極まったのか、わぁっと泣き出す竜也に直人は頭が痛くなった。
20歳をこえた成人男子の発想とは思えない。
竜也が浅見財閥の御曹司で純粋培養で育ったことを直人は知っているが、だからといって
こうなるものか疑問が直人の頭の中を巡った。
とにかく。
半ば無理矢理付き合わされた上に、好奇の目に晒されながら図体ばかりでかい男のお守り
をさせられているこの現状は直人にとって理不尽極まりなく、直人はほとほと愛想を尽か
したい心境だった。
けれど直人にはそれが出来ない。
これが浅見竜也の人徳ゆえなのかどうかは分からないが、どれほど頭の痛い思いをしよう
と、結局直人は竜也を突き放せないのだった。
それがまた竜也が直人に懐くのを助長させる結果を招いているのだが。
「・・・言うほどかわいそうじゃないだろう」
「え?」
溜息と共に呟かれた直人の言葉に竜也は顔をあげた。
「二人一緒に死ねたんだからな。あの世で誤解を解きあってよろしくやってるだろうよ」
あまりにも直人らしからぬ台詞に、竜也は目を丸くしてそっぽを向いた直人の横顔を見つ
めた。
本人もらしくないと思っているのか、心なしか直人の頬が赤い。
「何だ」
自分を見上げて呆けたままいつまでも言葉を発しようとしない竜也に、居心地の悪くなっ
た直人は竜也を睨んだ。
「すごい・・・。直人って結構ロマンチ・・・いってぇ!!」
最後まで言わせずに直人の鉄拳が竜也の頭上に落ちる。
「お前がいつまでたっても泣き止まないから言ったまでだ!もういい、行くぞ!!」
そして直人は今度こそ竜也を置き去りに歩き出した。
「あ!ま、待ってよ直人ぉ!」
慌てて立ち上がり竜也は直人を追いかけた。
ほどなく追いついて、映画館を出て、二人並んで歩く間竜也は一転して嬉しそうに笑って
いた。
「何だ。さっきまで泣いてたと思ったら今度はニヤニヤと」
「ん〜、えへへへへ。俺直人のこと大好きだって思って」
「・・・気色悪いことぬかすな」
「ひどっ!俺本気だよ。俺何があっても直人のことずーっと好きだから!」
小声とはいえ往来でいきなり何を言い出すのかと直人は眉間に皺を寄せて歩き続けた。
そんな直人にお構いなく竜也は続けた。
「いくらあの世で分かり合えてもやっぱりダメだよ。生きてるうちに幸せにならなきゃ。
だから、いつ死んでも後悔しないように、誤解されたりしないようにちゃんと言っとく
の!俺は直人が好き!」
「・・・縁起でもねぇ」
聞いているほうが恥ずかしくなる台詞に、知らず直人は早足になった。
竜也はそれに追いすがってさらにまとわりついた。
「分かんないじゃん明日がどうなるかなんてさ。ねぇだから直人も言ってよ」
「俺はお前みたいな泣き虫お坊ちゃんは嫌いだ」
「もう直人ってば素直じゃないんだから〜。後悔しても知らないぞ〜?」
「安心しろ。偽らざる本心だ」
「直人ぉ〜・・・(ぐすっ)」

それはまだ。
二人が己の運命を知らず。
お互いがそばにいる平凡な明日が続くことを。
信じて疑わなかった頃の。
とある日の出来事。



一応大学時代の二人ということなんですが
この二人はどこまでの関係なんでしょう。
友人以上恋人未満・・・てトコか?
(自分で書いといてあんた・・・)


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