大迷惑



「何しやがるっ!!」
昼食を求める学生達で賑わう学生食堂に、突如落雷のような怒声が響き渡った。
学生達は皆一様に驚いて動きを止め、声のした方向に視線を向けた。
その先には、色々な意味で有名な大学きっての名物コンビ(実はカップル(笑))の姿があ
った。
滝沢直人と浅見竜也。
それぞれにランチメニューののったトレイを置いたテーブルを挟んで、直人は肩を怒らせ
て仁王立ちしたまま竜也を睨みつけ、竜也は椅子に座ったまま目を丸くしてポカンとそん
な直人を見上げていた。
「おい!黙ってないで何とか言ったらどうなんだ!!」
反応のない竜也に焦れた直人が再び口火を切った。
「な、何!?どうしたの直人?」
「これは一体何のマネかと聞いてるんだ!!」
本心から直人の怒りの原因が分からず戸惑いながら訊ねた竜也に直人は自分のトレイを
指差した。
「何って・・・ハムエッグ・・・?」
「この赤い液体は何だ?」
「え、と・・・ケチャップ・・・?」
「何で俺のハムエッグにケチャップがかかってるんだ!?」
「え?だってハムエッグってケチャップかけて食べるでしょ?」
「アホかお前は!目玉焼きには醤油に決まってるだろうが!!」
「は!?あの直人、これ目玉焼きじゃなくってハムエッグだよ?メニュー洋食だよ?醤油
はないでしょ」
「百歩譲ってメニューが洋食だってんなら塩コショウだ。ケチャップなんてものは論外な
んだよ、論外!!」
「ええっ、そうなの!?俺いっつもケチャップで食べるから・・・」
「だからって何で俺のにまでかける必要がある!?お前の異常な味覚を俺に押し付ける
な!」
「異常な味覚って何だよ!!俺は俺なりに気を利かしたつもりで・・・っ大体さぁ!その
言い方だと直人ケチャップで卵食べたことないんだろ!?」
「あるか気色悪い!!」
「食わず嫌いのくせに偉そうに言うなよな!!この際食べてみろよ絶対美味いから!」
「論点をすり替えるな!自分の非を認めないつもりか!?」
「そんな・・・そんなこと・・っ!」
「人の昼飯台無しにしやがって・・・俺はお前みたいなボンボンと違って昼飯代一つも切
り詰めなきゃやってられねぇんだよ!一言素直に謝ったらどうなんだ!!」
周囲を全く無視した幼稚極まりない二人の口論はそこで途切れた。
直人の剣幕に竜也が言葉を失い押し黙ってしまったからだった。
相変わらず立ったまま無言で竜也を見下ろす直人を上目遣いに見つめ、唇を噛みしめてい
た竜也の口元が一瞬戦慄いたかと思うと、その直後おもむろに瞳が潤み、それは瞬く間に
溢れてそこから零れ落ちた。
「な・・・」
嗚咽を堪えるように肩を震わせながらポロポロとその双眸から涙を流し始めた竜也を前に
直人は一転してうろたえた。
「お、お前それは卑怯だろ」
直人がそう言うと、竜也は手の甲で目元を拭いつつしゃくり上げた。
「何がだよ〜直人のバカ〜」
それでも涙は一向に止まらず、拭った側から零れ落ち続けている。
「ちょ・・・落ち着け浅見!何も泣くほどのことじゃないだろう?」
「何だよ・・・っその・・・ヒック、泣くほどじゃないことで・・・う・・・怒鳴り散らしたくせに〜」
「う・・・。そ、それはお前が悪いんだろうが!おい止めろ!まるで俺が悪いみたいじゃ
ないか人聞き悪い!!」
「だって・・・ふ・・・だって直人・・・まだ怒ってる・・・っ」
「だからそれは・・・っ!ああもうとにかく泣き止め!!な?大の男がみっともねぇぞ」
「ふぇ・・・ック、み・・・っとも・・・っなく・・・ったって・・・グス・・・とま・・・止まん、ないもん」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っくそっ!!」
いくら宥めても泣きやまない竜也に直人は乱暴に吐き捨てると、どかっと椅子に座り箸を
握った。
そして目の前のハムエッグ(ケチャップ付)を真ん中で二つ割にするなり一つずつ口の中
に放り込んだ。
「え・・・」
直人のその突然の行動を竜也は驚きつつまだ潤んだ目で見つめた。
仏頂面のままハムエッグを二口でたいらげ箸を置くと、直人は腕を組んでふんぞり返り鼻
を鳴らした。
「ふん。やっぱり目玉焼きには醤油か塩コショウだ」
そう断言してしばらく黙った後、直人はそっぽを向いてぽつりと付け加えた。
「だがまぁ・・・。ケチャップも思ったほど悪くはない」
「直人・・・」
言葉以上に態度で示してくれた直人の最大級の譲歩に竜也はとっさに言葉が出ず、呆然と
彼の名前を呟いていた。
「・・・呆けてないで泣き止んだなら顔ぐらい拭け。この恥知らず」
そしていつのまにか涙が止まっていたことに、直人に言われてようやく気がついた竜也は
慌てて泣き腫らしたその顔をおしぼりで覆った。
そうしている間にどんどん頭が冷えて、自分がどんな醜態を晒して直人にどんな迷惑をか
けたかをまざまざと自覚して、竜也は恥ずかしい気持ちでいっぱいになった。
「直人・・・あの・・・俺・・・その・・・ごめん・・・」
おしぼりから目だけのぞかせて直人を伺いつつ、竜也は今度こそ謝罪の言葉を口にした。
羞恥の為かか細い声だったが、それはちゃんと直人の耳に届き、直人は不貞腐れていた表
情を和らげ溜息をついた。
「もういいからさっさと食っちまえ。午後の講義始まるぞ」
「う、うん。ねぇ直人・・・」
「何だ」
「ホントごめんね。もう・・・さ、こんなことしないからさ絶対。だから・・・またお昼一緒させてよ
・・・ね?」
おずおずとそう言う竜也に直人は答えず、しかしその代わり、テーブル越しに手を伸ばし
て竜也の茶色い髪を柔らかく撫でた。
竜也はそれに照れ臭そうに、嬉しそうに笑ったのだった。

その日の午後。
医局には胸焼けを訴え胃薬を求める学生が続出したという。





「ふらいんぐきゃっと」のあさねこさまから頂いた
相互リンク記念のイラストのお礼SSとして
リクを頂いて書きました♪
(なのに挿絵つけて頂いちゃって・・・エビでタイを釣った気分です!
ほんまありがとうございます〜vvv)
私は卵にケチャップ結構好きなんですけどね〜。
(↑お子様味覚)醤油よりは塩かな・・・。
それにしてもリクは『直人と喧嘩して泣いてる竜也』だったのに
小学生かはたまた幼稚園児か!?
ってな感じの二人になってしまって・・・。(笑)
なので壁紙も思いっきりおバカっぽくしてみましたv
楽しかったです〜vvv


<<<BACK