MOTHER -有閑マダムは見た!・2-



「どうしたの直人」
「どうしたもこうしたもあるか・・・」

うららかな昼下がり。
場所は竜也の実家、即ち天下の浅見財閥邸の台所。
げっそりとした面持ちで現れた直人に、竜也は目を丸くして果物ナイフを動かす手を止め
た。

何故直人が竜也の実家にいるのか。
それは竜也の母・奈美江から竜也への一本の電話に端を発した。
その内容は。
『ぜひ滝沢さんと一度ゆっくりお話してみたいわv今度二人でウチに帰ってらっしゃい
v』
というものであった。
竜也としては異存はなかった。
実の母親が、愛してやまないとはいえあまり世間的に認められたものではない自分の恋人
と親睦を深めようとしてくれていることを、竜也は素直に喜んだ。
がしかし。
例によって直人の方は気乗りしていなかった。
元々人見知りする性質でもあり、尚且つ竜也の父親とはこれ以上ないほど険悪な関係にあ
るため、竜也の母親がどんな人物であれ、竜也の実家を訪ねることに正直あまり気は進ま
なかった。
何よりもその申し出があまりにも突然であった為に直人は何やら悪い予感がしてならなか
った・・・のだが。
毎度の事ながら、すっかりその気で期待に目を輝かせながら上目遣いに自分を見つめる竜
也の無邪気なおねだり攻撃に今回もやっぱり直人は折れた。
そして訪ねた竜也の家。
出迎えた竜也の母・奈美江はそれはもう上機嫌で饒舌だった。
玄関先での挨拶に始まり、直人たちが客間に入り腰を下ろすまでの間から、さらにその後
もひっきりなしに喋り続けるそのさまは、直人に「まさしくこの息子にしてこの母有りだ
な」という感想を抱かせた。
そこまでで既に疲労を感じていた直人だったが、この日間の悪いことに浅見邸には家政婦
が不在であった。
その為。
「あ、今日政恵さんいないんだー。じゃあ俺お茶でもいれてくるから二人でゆっくり話し
ててよ」
などと言って竜也が笑顔で席を立ってしまった日には残された直人は心中本気で泣きが入
っていた。
元来お喋り好きでもなければお喋りな人間も好むところではない直人が竜也のマシンガン
トークに付き合っていられるのは、一重に愛あればこそである。
日々の取りとめのないことまで竜也が相手に話して聞かせるのは、一つの愛情表現だと直
人は思っている。
何を見て、何を聞いて、何をして、何を思ったか。
好意を寄せる相手に自分のことを伝えたいが為のおしゃべりには竜也の真摯な愛情が感じ
られて、だからこそ内容はどうあれ、直人も竜也の言葉に耳を傾けその姿を愛しく思って
いられるのである。
ゆえに。
如何に竜也の母親といえど、有閑マダムの世間話からそこに付随する好奇に満ちた質問攻
めといった内容が延々と続くおしゃべりは直人にとって苦痛以外の何物でもなかった。
しかし相手が相手なだけにあまり露骨に冷たい態度を取るわけにもいかず、直人は愛想笑
いを引き攣らせつつ、「早く戻って来てくれ浅見〜」と心の中で叫んでいた。
そんな時電話の呼び出し音が響き、渋々席を立った奈美江を見送り、やっと訪れた解放感
に直人はへたり込まんばかりの勢いで脱力した。
どうやら相手は奈美江の知人だったようで、長くなりそうな会話の様子に、直人はこれ幸
いと客間を抜け出したのだった。

「あはは・・・ごめんね〜、ウチのオフクロおしゃべりで。嬉しいと余計に止まらなくな
るんだよね」
「ああ、お前とそっくりだ」
「ええ?!ちょっと待ってよ、俺ってあんな!?」
「五十歩百歩だな。間違いなく親子だ」
「それちょっとひどくない?それじゃ俺おしゃべりオバサンみたいじゃん。絶対そんなこ
とな・・・っ痛っ!」
「浅見!?」
お茶請けの果物を切る手を再び動かす竜也の隣に直人は立ち、竜也が客間を出てからのこ
となどあれこれ二人で話していると、突然竜也が短い悲鳴をあげた。
直人が慌てて振り向くと、竜也の指先に小さく赤い珠が溢れ、それは雫となってぽたぽた
とまな板に落ちていた。
「あは・・・失敗。ちょっと切っちゃった」
そう呟いて苦笑する竜也のその手を直人は無言で掴んだ。
「へ?何、なお・・・っ!」
そしてそのまま赤い珠の滲む指先を自らの口内に含む。
直人の突然の行為に驚いたのと、傷口に舌先が触れるピリッとした痛みとで竜也は息を呑
んだ。
振り解くことも出来ずにただされるがままの竜也の指先を直人は繕うように丁寧に舐め、
やがて唇を離す頃にはすっかり出血は止まっていた。
それを確認して直人は小さく安堵の息をつく。
「止まったな」
「う、うん。そんな深くなかったし・・・。あの、ありがと」
直人から視線を逸らして頬を赤らめ、切った手を握り込んでもじもじと胸の前で合わせる
竜也の恥らうような様子に直人は首を傾げる。
「どうした?」
「直人ってさ・・・ホント天の邪鬼だよね」
「あ?」
「俺がさ、アレしてコレしてって言ってもなかなかしてくれないのにさ。自分からするの
はいいんだ?」
くすりと笑って上目遣いに見つめる竜也に、痛い所を突かれた直人は押し黙る。
「しかもいつも不意打ちなんだもん。俺ドキドキしちゃうよ」
「・・・・・・・・・・いつでも誰にでもって訳じゃない」
「俺だから?」
「・・・・・・・・・・」
「ねぇ直人ぉ」
「うるさい。あんまり調子に乗るとその口塞ぐぞ」
「いいよ・・・」
その言葉に直人は竜也を振り向き竜也は直人を真っ直ぐ見つめ、二人の視線が重なった瞬
間竜也は目を閉じた。
誘われるまま直人はゆっくりと竜也に唇を寄せる。
近づいてくる直人の気配に、竜也は己の唇に柔らかなぬくもりが触れるのをじっと待った。
が。
一向に口づけは降りては来なくて、焦れた竜也が窺うようにそっと目を開くと、そこには
至近距離に顔を近づけたまま、驚いたような呆れたような何ともいえない表情で竜也の背
後を睨む直人の顔があった。
「直人?どう・・・っ!?」
竜也に最後まで言わせず、直人は前を睨んだまま竜也の顔を両手でがっと押さえると勢い
よく180度回れ右させた。
不自然な態勢で後ろを向かされた竜也は何事か分からず目を白黒させながらも目の前の視
界に目を凝らす。
そこに見えるのは開け放たれたままの台所の出入口。
一見何の変哲もないかに思われた景色だったが、そこに間違い探しのように有りう可から
ざるモノがあることに竜也は気がついた。
出入口の縁から覗き込むように自分たちに向けられたそれはカメラのレンズ。
そしてその後ろにいるのは・・・。
「な、な、何やってんだよ母さん!!」
「アラ残念。見つかっちゃったのね」
顔を真っ赤にして怒鳴る竜也に、奈美江はさも残念そうに肩を落としつつ姿を現した。
「残念じゃないだろ、何撮ってんの!?」
「いいじゃないのそんな減るもんじゃなし。記念よ記念」
「何の記念だよ!止めてくれよ恥ずかしいなもう!」
「いやあね竜也ったらそんなに目くじら立てて怒鳴らなくたって・・・。ねぇ滝沢さん?」
「直人だって呆れてるに決まってるだろぉ!?もういいから大人しく客間に戻ってて
よ!!」
「ああ、もう分かったわよ。そんなに押さないで頂戴。あ、滝沢さん、お邪魔しちゃって
ごめんなさいね。お気になさらずごゆっくりねv」
「母さん!!」
全く悪びれない奈美江を無理矢理部屋の外に押し出したものの、気まずい沈黙に包まれる
中、竜也はおずおずと直人に向き直った。
「あ、あの直人・・・その・・・ごめん・・・ね?」
「・・・・・いや・・・・・」
『気にするな』と答えてやりたかった直人だったがそれはついに言葉にならなかった。
自分は一生、竜也が望む限り、竜也のそばで竜也を愛し抜くと心に誓った。
しかしながら。
父親は言うに及ばず、好意的であることが救いとはいえ母親ともどうもウマが合いそうに
ない現実を前に、それでも竜也のそばにある限りこの両親と一生付き合っていかねばなら
ない立場にある未来の浅見家婿養子(予定)は、己の今後を思って深い深〜い溜息をつい
たのだった。




御母堂登場第2弾。
スランプ中のリハビリも兼ねていたため
いつにもまして分が荒いです。反省。
お母様はどこら辺から撮っていらしたのか・・・。
このバカップルも有閑マダムの手に掛かれば
いいおもちゃのようです。(笑)

がんばれ直人!


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