MOTHER -有閑マダムは見た!-



ほぅ・・・。

運転をお抱えの運転手に任せた自家用車の後部座席で、窓の外を眺めながら浅見奈美江は
溜息をついた。
奈美江の視線の先では、寄り添い合い、またある者は腕を組み談笑しながら歩いている若
い男女が何組も通り過ぎる。
本来であれば我が息子も同様に歩いていてもおかしくないことを思うにつけ、また奈美江
は溜息をこぼす。

はぁ・・・まだ信じられないわ・・・。
竜也が・・・あの子が殿方とお付き合いしているなんて・・・。

自分の息子の口から自分の好きな人は男性で、しかも既に浅からぬ付き合いをしているな
どと聞かされたときには、混乱と動揺のあまり思わず赤飯など炊いてしまった奈美江だっ
た。
それから数ヶ月。
それなりに落ち着いては見たもののやはりにわかには受け入れられず、母として戸惑う
日々が続いていた。

滝沢直人さん・・・といったかしら、相手の方は。
竜也とは大学の同期で、シティガーディアンズの隊長をなさってた方なのよね。
私確かお会いしたことがあると思うのだけれど・・・思い出せないわ。
どんな方だったかしら。
・・・・・・・・・・。
ああやっぱりダメ。どうやっても想像できないわ。
だってあの子、その辺の男性より並外れて背も高いし逞しいし・・・そりゃあ顔は少し童
顔だけれど、どこからどう見ても立派な成人男性よ?
そんなあの子が殿方となんて・・・想像力の限界だわ。

眩暈を覚えて片手でこめかみを押さえようとしたその時、奈美江の視界に見知った人影が
映った。
「!ちょっとごめんなさい。止めて頂戴!!」
慌てて顔を上げ運転手に車を止めるよう指示し、奈美江は車を降りた。
周囲を見渡すと幸いにもすぐに目的の人物は見つかり、どこか店の中に入っていくそれを
追って奈美江もまた店内に入っていった。

ああ、やっぱり竜也!

落ち着いたムードの喫茶店のカウンター辺りで、何かを探すように店内をキョロキョロと
見回す息子の姿を認めて、奈美江は久しぶりに会った息子に声を掛けようとした。
「たつ・・・」
しかしそれは最後まで声になることはなかった。
奈美江が声を掛けるより一瞬早く竜也はぱっと顔を輝かせ駆け出したのだ。
竜也はどうやら待ち合わせだったらしく、一人の男性が座っている席に向かい合うように
腰を下ろした。
それを見て奈美江は思わず身を隠した。

もしかして・・・あの方が?

そう直感した奈美江はそっと移動して観葉植物に遮られて見えない隣のボックス席に座り、
その大きな葉の隙間から隣をうかがった。
満面に嬉しそうな笑みをたたえ、席についた瞬間から止まることなく相手に話し掛ける息
子の様子に奈美江は確信した。

んまあぁ竜也ったら!
なんて嬉しそうなのかしら。こんな顔母親の私でさえ見たことないわ。蕩けそうな顔って
きっとこういうののことをいうのねぇ。
本当によっぽど好きなのね。
そう・・・この方が・・・。

ひとしきり息子の様子を観察した奈美江は、向かいに座る男性に視線を移しまじまじと見
つめた。

この方が滝沢直人さん・・・。
体格なんかは竜也とさして変わらないわね。なかなか逞しい方だわ。
あら足も長いわね。立ったら背丈も竜也と同じぐらいねきっと。
なんていうかこう・・・男っぽくて精悍な方ねぇ。
ちょっと目がきつ過ぎて恐持ての印象を受けるけど美形だし・・・。
いやだあの子ったら面食いなのかしら。誰に似たの。
ああでもやっぱり想像できないわ。
この方と竜也がその・・・(ゴニョゴニョ)・・・なんて、ねぇ?
それにしても無口な方ね。
さっきからずっと竜也ばっかりしゃべってるわ。
竜也・・・あなたはちょっとしゃべり過ぎよ。いい歳をしてみっともない。
あらでも・・・。
この方何も言わないけれどちゃんと竜也の話を聞いているのね。
竜也は気付いてるのかしら?
右から左へ聞き流して適当に相槌を打っているようでいて、実はちゃんと滝沢さんが竜也
のことを見てること。
それに時折とても優しい目をするの。
まるで竜也のことが可愛くてしょうがないみたいに・・・。
・・・・・・・・・・。
い、いやあね。殿方同士で何なのこの雰囲気。
なんだかこっちが恥ずかしくなってきてしまうわ。

二人の間に漂うえもいわれぬ甘い空気に奈美江は思わず頬を染め、居心地悪くグラスの水
に口をつけた。
その時隣の席では竜也が注文したらしいケーキと紅茶のセットが運ばれてきて、奈美江は
気を取り直してまた様子をうかがい、今度は聞き耳を立てて二人の会話に聞き入った。

「相変わらず好きだなお前・・・」
「うん!俺ここのケーキ特に好きなんだよね〜。あ、そうだ。これはあんまり甘くないヤ
ツだから直人もいけると思うよ?食べてみる?」
「いらん」
「そんなこと言わないでさ。ここのホント美味いんだって!ほらア〜ンv」
「あのな・・・」
「ほんとに甘くないから大丈夫だってば〜。遠慮するなよ〜」
「・・・・・・・・・・」

竜也・・・。
我が息子ながらあなたって子は一体いくつなの!?
滝沢さんが困ってらっしゃるのは別に味を疑ってるからじゃないのよ!
その行為にあなたは何の疑問も持たないの!?

奈美江が己が息子のずれた感性に頭痛を覚えつつそう思っていると、いつまでもフォーク
を引っ込めない竜也の手を見つめつつ視線を泳がせて逡巡していた直人が、仏頂面のまま
おもむろにフォークの先に食らいついた。

っっ!!

その直人の行動に奈美江は驚いた。
外見の第一印象から、自分の意に沿わないことは頑として受け入れない硬派なタイプだと
奈美江は直人のことを思っていた。
恐らく他人の手からモノを食べるなどという行為は決してしないタイプだとも。
それがである。
しかしやはり気恥ずかしいのか、もぐもぐと口を動かす直人の頬がわずかに赤い。
相手が竜也だからこその行為だということが如実に伝わってきて思わず奈美江も赤面する。

まぁまぁ・・・。
この方・・・こんな顔して実は結構甘いのね。
それともやっぱり愛のなせるワザなのかしら。

「な?そんなに甘くなくって美味いだろ?」
「・・・・・まあな」
「気に入ったなら俺今度作ってあげるよ。ここのほど美味くは出来ないと思うけどさ〜」
嬉しそうにそんなことを言いつつ残りのケーキを口にする竜也に、直人の意外な(と思わ
れる)一面に密かに胸ときめかしていた奈美江はがくっと肩を落とした。

どうして・・・どうしてあなたはそうなの竜也!
恋人に手作りケーキだなんてあなたそれは乙女の発想よ!
ああもう・・・興味をもったからって料理を教えたのはやっぱり間違っていたのかしらね・・・。

「そろそろ行くか?」
「うん、そうだね」
大きく溜息をつく奈美江を他所に二人が席を立つ気配を見せ、奈美江ははっと見を縮めて
隠れようとした。
その瞬間ふと目に入った竜也の口元に、ケーキに添えられていた生クリームがついている
ことに奈美江は気がついてしまった。
しかし当の竜也は全く気がついていないようで、コートを手に席を立とうとしている。

まあどうしましょう、竜也ったら子供みたいな・・・。
で、でも声をかけたら見つかってしまうし・・・。

気になるもののどうしようもなくて奈美江は一人オロオロと焦る。
その時。
「おい浅見。口元についてるぞ」
直人がそれに気がつき指摘したことに奈美江はほっと胸を撫で下ろした。
がしかし。
「え?どこ?」
などと言いながら竜也が手を触れたのは反対側でクリームはなかなかとれない。
竜也のその様子に直人はフッと笑うと、竜也の顎を指先で捕らえて顔を寄せ囁いた。
「こっちだ」

!!!!!!!!!!

そして目にした光景に奈美江は目を剥いて固まった。
直人が離れると竜也は真っ赤になっていて、俯き加減でぼそりと呟いた。
「・・・俺、直人の基準がよく分からないよ」
「何だと?」
「だってさ・・・ア〜ンするのより今のがよっぽど恥ずかしいと俺は思・・・ッタァ!!」
「行くぞっ!!」
「いちいち殴んないでよ!何だよ何だよそんな耳まで赤くして照れるぐらいなら最初から
やんなきゃいいじゃん!今さらだろ〜?」
「うるさい黙れ!!さっさと来いっ!置いて行くぞ!」
「ああ!待って、待ってよ直人ぉ〜」
バカップル極まりない会話を交わしながらバタバタと二人が店を後にした後も奈美江はま
だ固まっていた。

何・・・今の・・・。
竜也の口元にクリームがついてて・・・。
それを・・・それを滝沢さんが・・・その・・・な・・・舐め・・・っ。
そう・・・そうなのだけど・・・そうなのだけど!
キ、キ、キスしてるようにしか見えなかったわっ!!
最近の若い人は大胆だって聞いてたけど、やだ、どうしましょう!!
い・・・意外と絵になるわっ!
殿方同士なんて想像も出来なかったのになんてことなの・・・。
お似合いじゃないの!!素敵だわっ!!
ああ、だめよそんな、いけないわ。
浅見奈美江ともあろう者がはしたない・・・。
ああ、でも・・・でも・・・!
もっと見たいかもvvv

カルチャーショックから一転、新しい世界に開眼してしまった奈美江だった。



「え?マジで!?でもどうしたの急に・・・。うん。うん。分かった、話しとくから。う
ん、近いうちにきっと。うん、じゃあね」
「何だ」
「うん。母さんからでさ。今度直人連れて家に帰って来いって」
「はあ!?」
「何かね、一度直人と会ってゆっくり話してみたいんだって。何なら泊まりでもいいって
言ってたよ」
「イキナリだな・・・何だってんだ」
「さあ・・・。でも親父がああだから、俺としては母さんがそう言ってくれるのは嬉しい
な。ねぇいいよね直人ぉvいつにしよっか?」
「・・・・・・・・・・俺は何か嫌な予感がするぞ」


その頃。
直人が本能的な悪寒を背筋に感じていた頃。
浅見家のリビングでは取扱説明書を手に、ウキウキとビデオとデジカメの準備に余念がな
い奈美江の姿があった・・・。





御母堂登場。
キャラがよく掴めてないので
おかしな人に・・・。(爆)
まあでも何はともあれ
良き(え?)理解者になってくれそうで
良かった良かった♪


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