| PAPA Don't preach !-2- |
はあ。 竜也のあの衝撃の告白から数ヶ月。 私は溜息が絶えない。 手塩に掛けて育てた一人息子がまさか男と恋人関係にあろうとは。 しかも相手はあの男だ。 滝沢直人。 並々ならぬ野心を持ち、かつてこの私に煮え湯を飲ませてくれたあの男。 あの大事件のあと、一時は死亡と伝えられていたがどうやら一命を取り留めていたようだ。 だがしかし。 正直、竜也が親しく付き合うことを私は以前から快く思っていなかった。 そう。 単純に私はあの男が嫌いなのだ。 とはいえ二十歳も過ぎた息子の友人関係に、親が自分の感情で口出しするのも如何なもの かと口を憚っていたのだが、それが今となっては仇となってしまった。 はあ。 ああまた溜息が出てしまった。 何故よりによってあの男なんだ。 いや、滝沢以外なら男でも構わないというわけでは決してないんだが。 同性愛など私にはさっぱり理解できない。 理解はできんが・・・。 竜也は・・・浅見グループの後継者だ。 日本の経済の一翼を担うまでに巨大になった浅見財閥の頂点に立つ人間なのだ。 昔はその名前を忌み嫌い逃げ回っていたが、今では竜也なりに『浅見』を受け入れ前向き に関るようになった。 その仕事振りは少なからず耳に入ってきてもいる。 喜ばしいことだ。 今はまだ浅見のほんの末端に関るに過ぎないが、将来的には当然責任ある仕事と地位につ くこととなり、その果てに浅見グループの全てという重責を双肩に担うことになる。 そういう道を歩んでいく者にとって、支えとなる存在というものは必要不可欠だ。 なぜなら、トップに立つ者とは常に孤高の存在であるからだ。 部下に慕われ敬われ、しかし決して馴れ合わず、常に毅然と上を向き、信頼に足る導き手 とならねばならない。 その重圧と孤独はとてもではないが一人で背負いきれるものではないのだ。 寄りかかる場所を持たない権力者はいつか必ずどこかに破綻をきたす。 私と妻は政略結婚だったが・・・。 仕事一辺倒な私を妻はよく理解し、見守り、支えてくれている。 その事実に私がどれだけ助けられ救われていることか。 言葉にしたことこそないが私はいつも心から妻に感謝している。 いや私のことはどうでもいい。 そうそう竜也のことだ。 つまりだ。 同性愛など全く理解できないし、相手といえば私にとっては不愉快極まりない男ではあるが、 竜也にとってそういう存在であるべき人間が滝沢以外ではありえないというのなら。 真実そうなのであれば。 同性だということにも、過去の遺恨にも、全てのことに目をつぶって・・・認めてやるべ きなのだろうか。 竜也は滅多に家に帰ってこないし、私も多忙であれからというものろくに顔さえ合わせて いない。 このことについては一度心を落ち着けてきちんと話し合うべきだ。 そうだ。まずはそこからだ。 そんなことを思い、私は今竜也の家の玄関の前に立っている。 今日は午後からの会議以外は特に急を要する仕事は入っていない。 かといってあまり余裕があるわけでもないので、随分早い時間に訪ねてしまったのだが、 先程から何度チャイムを押しても返事がない。 今日は竜也は休みのはずだが・・・まだ寝ているのだろうか。 ちらりと時計を見やり、時刻を確認してもう一度チャイムへと手を伸ばしたその時だった。 「竜也くんならまだ寝てると思いますよ?」 唐突に声を掛けられそちらを振り向くと、問題の張本人が立っていた。 「た、滝沢・・・」 「ご無沙汰してます浅見会長」 わざとらしく頭を下げるも、目は挑戦的な色を浮かべている。 相変わらず鼻持ちならん男だ。 大体何故貴様がここにいるんだ。 「ああ、うん。しばらくだな。ところで君も竜也に何か用かね?こんな朝早くから・・・」 内心の動揺を押し隠して努めて冷静に訊ねると、滝沢は一瞬きょとんとした顔をしたもの の、すぐに得心したようにニヤリと笑う。 ええい、何だその含みにある笑いは!腹の立つ!! 「いえ。俺は昨晩から泊まってまして。朝食の買い物に出ていただけです」 言いながら、手にしたコンビニエンスストアの袋を掲げる。 「泊ま・・・」 「何か?」 何かじゃないだろう! 普通であれば男同士で友人同士で互いの家に泊まり合うことなど何でもないことだが、貴 様の場合はわけが違うだろうが! よくもいけしゃあしゃあと・・・はっ!よもや竜也に妙なマネをしてはいまいな!? そんな私の胸の内を知ってか知らずか、滝沢は扉を開けて言った。 「どうぞ。今起こしますよ」 そして勝手知ったる風に中に入っていく。 何故貴様に招き入れられねばならんのだ!ここは竜也の家だろう! どこまでも不遜なその態度。気に入らん。全くもって気に入らん!! 竜也・・・お前は本当にこんな男のどこがそんなにいいんだ・・・。 能力的には切れ者かもしれないが人間的には欠陥だらけにしか思えないこの男のどこが っ! それでも渋々中に入ると寝室らしき方から声が聞こえた。 「浅見。おい、起きろ浅見」 「う・・・ん・・・」 竜也を起こしているらしい滝沢と寝ぼけているような竜也のやり取りが数回交わされた かと思ったら、途端に静まり返ってしまった。 「?」 不審に思ってついうっかり寝室を覗き込んで私は・・・私は卒倒しそうだった。 いやいっそ失神してしまえた方が幸せだったかもしれない。 目の前で、竜也と滝沢が口づけ合っている。 竜也はベッドに横になったまま滝沢に縋りつき、滝沢はそんな竜也を支えるようにして、 しっかりと抱き合いながら朝っぱらから濃厚に口づけ合う二人の姿に頭の中が真っ白にな る。 頭で色々思い描くのと実際に見るのとでは衝撃の度合いがまるで違うものだ。 私は今この瞬間まで、竜也と滝沢の関係が何かの冗談であることを心のどこかでまだ信じ 願っていたのかもしれなかった。 入り口で固まっている私の存在などまるでないもののように尚もそれは延々と続けられる。 いい加減に離れんか!! 竜也はともかく滝沢!貴様分かっていてわざとやっているだろう!? ショックのあまり遠くに追いやられていた怒りが徐々に湧き上がり始めた頃、ようやく二 人は体を離した。 と思ったら、あろうことか竜也の方が滝沢に縋りついた。 「や・・・もっと・・・」 おまけに聞いたこともないような甘い声で口づけをねだる。 どこの世界に・・・自分の一人息子がベッドで男にしなだれかかって甘える姿を見て喜ぶ 父親がどこの世界にいるというのかっ!! 「おいおい朝からどうした?」 まったくだ。 「いいじゃない。久しぶりだもん・・・」 いいわけあるか! 「見せつけようってのなら、俺は構わんが?」 ふざけるな!! 「へ?見せつけるって誰に・・・っ!?」 滝沢の視線につられてこちらを向いた竜也はようやく私の存在に気がつき、滝沢から飛び のいた。 「お、お、お、親父!?な、なんでここに・・・って、ちょ、直人!何でもっと早く言っ てくれないんだよっ!」 「言う前にお前が仕掛けてきたんだろうが」 「またそうやって俺のせいに・・・ああ、もう!とにかく服・・・ぅわっ!?」 シーツで身を隠すようにしてベッドを降りようとした竜也は動転するあまりか盛大にこけ た。 「いったぁ・・・」 竜也が体を起こしたその拍子にシーツがするりとはだける。 シーツの下から現れた竜也の姿に私はさらに打ちのめされた。 竜也は全裸だったのだ。 そしてその体のいたるところには、明らかにそれと分かる鬱血の痕が・・・想像するもお ぞましい情事の痕が無数に刻まれていた。 既に頭に血が上りすぎて目の前は真っ赤だったが、それを煽るかのように、滝沢は座り込 んだままの竜也をシーツに包みつつその耳元に囁きかけた。 「大丈夫か?久しぶりだったからつい・・・な。無理させちまったか?」 聞こえとるぞ貴様ぁっ!! 聞こえよがしに何という破廉恥なことを!! 「ば、ばか・・・」 そんな私の怒りも知らず、竜也はそんな滝沢の言葉に目を潤ませ頬を朱に染めて恥らう。 男子にあるまじきその仕草に頭に上りきった血液は沸点を超えた。 「さっさと服を着んかこの大馬鹿者!!」 怒髪天を突くとはまさにこのことだろう。こんな大声を出したのは我ながら久しぶりだ。 私の怒声に居住まいを正した竜也に私はさらに畳み掛けた。 「着替えたらすぐに荷物をまとめろ!家に帰るんだ!!」 憤怒のあまり呼吸も整わないままそう怒鳴りつけた私に、色を無くしていた竜也は一転し て目を吊り上げて噛み付いてきた。 「何だよそれ、どういうことだよ!何でそうなるわけ!?」 「何故だと!?当然だろう!自分の息子が夜毎いいように慰み者にされているのを黙って 見過ごす親がどこにいる!!」 「なっ、なんってコト言うんだよ失礼な!!俺と直人はねぇ好き合ってるの愛し合ってる の!いーじゃないか休日の朝くらい恋人とイチャイチャしてたって!」 こ、こいつ開き直りおって!いい歳をした男が何が恋人とイチャイチャだこの大たわけ者 めが!! 「ええい黙れ!口答えは許さん!!」 「絶対ヤダ!」 「竜也!!」 「うるさーい!!大体なんでここにいるんだよ!何しに来たか知らないけどもう帰ってく れよ馬鹿親父!!」 竜也の声が頭の中で反響する。 今何と言った? 馬鹿・・・親父? ば、ば、馬鹿?馬鹿だと!? 実の父親に向かってなんという暴言! 何ということだ・・・。 私に反抗することはあってもそんなことを言う子ではなかったのに。 それもこれも全部付き合っている人間が悪いせいだ。 諸悪の根源のくせにさっきからまるで他人事のように涼しい顔をして傍観しているこの男 が・・・!! 一時でも認めてやるべきかなどと考えた私が間違っていた。 やはり認めん! 絶っっっ対に認め――――――――――んっ!! |
意外に好評な渡パパ再び。(笑)
滝沢さんはどうやら居直った模様。
竜也がほんと御令嬢状態ですが・・・
この親子書くの結構楽しいです。