「浴衣と花火と夏の思い出」



不愉快だ。
俺は今実に不愉快な気分だ。
今日は浅見に誘われて夏祭りに来た。
暑苦しいのも人込みも嫌いだったが、立ち並ぶ露天に目移りしながら、年甲斐もなくはし
ゃぐ浅見を見ているのは悪くなかった。
俺はポロシャツにジーンズという普段とさして変わらない格好で来たんだが、浅見はわざ
わざ仕立てたというこげ茶色の無地の浴衣を着てきていた。
初めて見る浴衣姿はとても新鮮でよく似合っていて・・・。その性質上多少目のやり場に
困るそれはなかなかそそられ・・・いや。
夜空に咲き誇る大輪の花も、久々に真近で見ると想像以上に迫力があり美しくそれなりに
よかった。
しかし俺は今かなり気分を害していた。
それというのも。
「それでね、その時ドモンったらさ」
これだ。
祭の人込みを離れて河原を上流へと歩きながら浅見が話しているのは、かの30世紀の未
来人たちと過ごしたという夏の思い出の数々。
仕事で夏祭りの企画をしたことがあるということに端を発したその思い出話を俺はさっき
から延々と聞かされていた。
やれ誰々がどうしたの、やれどんなことがあっただの。
最後は全て『楽しかった』に集約されるその話は俺にとって非常に面白くなかった。
当然だろう。
側に俺がいるのに。
今日一緒に花火を見たのは俺なのに。
ああ、どうせ俺は連中みたいに一緒にはしゃいではやれないさ。これは性格だ。分かって
るだろう。
「?どうしたの直人」
ずっと黙ったままの俺にようやく俺が不機嫌なことに気がついたらしい浅見が小首を傾げ
て俺の顔を覗き込んだ。
俺はふんと鼻を鳴らして目をそらした。
「・・・随分と楽しかったようだな」
「う、うん楽しかったよ?でもそれが・・・」
「今日よりずっと楽しかったんだろうな」
言ってしまってから即座に後悔した。我ながらガキ臭過ぎる。
一瞬きょとんとした浅見がぷっと吹きだしてさらに顔に血が上った。
「何を笑ってる・・・」
照れ隠しに浅見の額を軽く小突く。
「ごめん。だって直人ってば・・・それってヤキモチ妬いてるみたいだよ?」
そうだとも。妬いてるんだよ俺は。それが分かってて笑うなバカ。
図星を指されてムッツリと黙り込むと、浅見は不安そうに俺の名を呼んだ。
「直人ぉ・・・」
意固地になってそれでも黙っていると、今度は浅見の方が拗ねた。
「なんだよ。そんなの・・・ずるいよ直人」
何だ。俺が何をしたって言うんだ!?
「だって・・・俺には直人との夏の思い出なんてないもの。俺を一人にしておいたのは直
人のくせに、俺に他の人と楽しい思い出作っちゃ駄目なんて・・・ひどいじゃないか」
う・・・それを言われると辛い。
な、なにも思い出を作るなと言ってるんじゃないぞ!?只何も今俺の目の前で思い出に浸
らなくてもいいんじゃないかとだな・・・。
駄目だ。
ここはやっぱり俺が悪いな。くだらないことに嫉妬した俺が悪い。
「浅見・・・」
素直に謝ろうと思って背を向けた浅見の肩に手を掛けた瞬間、浅見は振り向きざま俺に抱
きついた。
驚いて、つい誰もいないはずの周囲をキョロキョロとうかがってしまう。
「あ、浅見?」
俺の首に腕をまわしたまま黙っている浅見を柔らかく抱きしめ返すと、浅見がくすりと笑
った。
「直人・・・。俺直人とこうして夏祭りに行けるなんてこと絶対ないんだって思ってた。
だから今日一緒に並んで花火を見上げてる間、夢みたいに嬉しくて幸せだった。みんな
との思い出はかけがえのない大切なものだけど、直人は俺の特別だもの。他の誰といる
より、直人といる時間は俺にとって特別なんだよ?」
そう言って照れ臭そうに笑う浅見に不覚にも心臓が跳ねた。
「ねぇ直人。また来年の夏も俺と一緒に花火を見てよ。再来年もその次の年も・・・俺の
思い出を直人でいっぱいにして?俺、直人とずーっと一緒にいたいから・・・ね、俺の
こと満たしてよ・・・」
浅見はそのまま俺の肩口に顔を埋めた。
微笑んだ口元が服の布越しに肩に押し当てられて、そこから温もりが広がる。
それを感じた瞬間、俺は両手で浅見の肩を掴んで力任せに引き剥がした。
「へ?」
驚いて目を丸くする浅見に声もかけずに、俺は浅見を傍らの草むらに連れ込んでその辺の
木の幹にその体を押し付けた。
「え、え、え!?」
まだ何が起こったか分からないという風に戸惑う浅見の顔の両脇に手をつき体ごと押さえ
込むようにして唇を寄せる。
「ちょ、ちょっと待った!!」
そこでようやく状況を察したのか浅見は俺の腕の中で暴れ出した。
「何するんだよ直人イキナリ!」
「お前が悪い」
「は!?」
「お前があんな・・・俺を喜ばせるようなことを言うからだ」
浅見が怯んだ隙に再度顔を近づけようとしたがまた押し戻された。
「な、何言ってんだよ!それは直人がヤキモチ妬いて拗ねてたから・・・っ」
「そんな格好で」
チラリと俺が視線を落とすと、つられるように浅見も視線を下に向ける。
「そんなって・・・只の浴衣じゃん」
だからだだから!
お前浴衣ってモノを分かっていないな?
要するに薄布一枚ってことなんだぞ。
人気のない暗闇で二人きりでそんな格好で擦り寄られてみろ。
薄布を通して伝わる肌の感触。体温。はだけた襟元からのぞく項に胸元。頬に触れる柔ら
かい髪とその香り。
加えてあの殺し文句。どれもこれも俺の理性をぶち壊すには十分だ。
「とにかくお前が悪い」
「なんだよそれっ!あ、や、やだ!」
暴れる浅見をきつく抱きこんで耳元に唇を寄せる。
「浅見」
息を吹き込むように名前を呼んでやると、浅見は身を竦ませて大人しくなった。
浅見は耳が弱い。そしてさらに俺の声で名前を呼ばれることにもっと弱い。
「嫌か・・・?」
耳朶を甘噛みしながら囁けば、浅見の顔が耳まで赤く染まる。
「だ、だってこんなトコで・・・。誰か来たら・・・」
「誰も来ない。『満たしてくれ』と言わなかったか?」
「そっ、そんな意味で言ったんじゃないよ、直人のスケベ!!」
「お前にだけだ」
「な・・・」
「くだらないことに嫉妬するのも、側にいることが嬉しいのも、触れたくなるのも全部、
お前だからだ・・・浅見・・・」
「直人・・・あ・・・」
見つめ合ったまま互いの距離が縮まる。
ゆっくりと唇を重ねてその柔らかな感触を何度も啄ばみながら次第に深く重ねていく。
「ん・・・ふ、ぁ・・・」
口腔を味わう俺の舌に浅見のそれがおずおずと絡みついてきて、浅見の体から徐々に力が
抜けていく。
俺はそんな浅見の頬に両手を添えて、頬から耳の後ろ、首筋へと撫でるように手のひらを
同時に滑らせた。
そして辿り着いた浴衣の襟元に両手を差し入れて肩を滑らせるように開くと、薄いそれは
するりといとも簡単にはだけ、健康的なハリのある肌が露わになる。
「や・・・」
恥ずかしげに目元を赤く染める浅見の唇を解放して、顎の先から胸元へと、肌を舌先で辿
り、外気に晒されてつんと立ち上がった乳首に舌を絡ませた。
「あぁ、ん!」
ビクリと体を震わせて敏感な反応を返す浅見に満足しつつ、さらに固くしこってくる赤い
粒を片方は唇と舌で、もう片方は指先で丹念に愛撫した。
「や・・・あ、あ・・・」
いやいやというようにゆるく頭を左右に振る浅見を無視して、胸を味わいながら手のひら
を浴衣のあわせから差し入れ滑らかな太股を撫で回すと、くすぐったいのかもじもじと足
を閉じようとする。
俺は浅見が足を閉じるより一瞬早くその内側に手を滑り込ませて、布越しに中心に触れた。
浅見がひゅっと息を飲む音が頭上から聞こえた。
嫌だと恥らう仕草とは裏腹にそこはもう十分に熱を持っていて・・・。
俺が胸元から視線を上げてニヤリと笑いかけると、浅見は真っ赤になって涙目になりなが
ら俺を睨みつけた。
おいおいそんな目で睨んでもな・・・可愛いだけだ。
顔をあげてそのまま耳打ちすると、浅見はさらに赤くなった。
「ばっ、ばか・・・っ!ん・・・」
憎まれ口を叩こうとする口を塞いで、俺は下着の中に手を潜り込ませ直に浅見の熱に触れ
た。
「ふぁ・・・っ」
そしてそのままやんわりと、しかし確実にその雄の果実を育てていく。
「んん・・・っ、あ・・・ふ・・・!」
目を閉じてカタカタと小刻みに震えながら熱い吐息を吐く浅見。
俺は片手で浅見を追い詰めながら、急速に火照っていく肌に音をてててきつく吸い付いて、
無数に赤い所有の花弁を散らしていった。
首筋に、鎖骨に、胸に・・・。
徐々に下降しながら俺は浅見の足の間に体を入れるように跪き、邪魔な布を取り去って、
俺の愛撫に快感の蜜を湛えるその先端に口付けた。
「ああっ!!」
その瞬間浅見は大きく喘いで、木の幹に後頭部を擦り付けるように仰け反った。
手で十分に育てた果実を今度は口で存分に味わう。
「ああ・・・はああ・・・っ!!」
頭上から聞こえる快感に濡れた浅見の喘ぐ声が耳に心地いい。
もっと乱れさせたくて、俺は浅見の愛蜜に濡れた指先をそっと奥に忍ばせた。
その途端。
「あっ、だ、ダメ!」
俺の行為を拒むように浅見が体を強張らせた。
「浅見・・・?」
不審に思って浅見を見上げると、浅見は困ったような今にも泣き出しそうな顔で俺を見つ
めていた。
「ね・・・やっぱりやめよ・・・?こんなトコで、最後までなんてそんな・・・」
勘弁してくれ。
俺はもう十分その気なんだ。
本音を言えば今すぐにでも抱きたいのを痛いほど我慢してるんだ。
俺もお前もこのままじゃ終われないだろう?
あまりに無体な浅見の言葉に深々と溜息をつく。
「な・・・直人・・・?」
すると浅見は不安そうに俺の様子をうかがって、その体から力が抜けた。
俺はその隙を逃さず一息に奥に指を押し込んだ。
「ひ・・・っ!いやぁっ、直人・・・!!」
突然の俺の暴挙に浅見は抗議の悲鳴をあげる。
「今さら・・・それはないだろう。観念するんだな・・・」
そう宣告して再び中心を舐め上げながら奥をゆるりとかき混ぜ、知り尽くしたイイトコロ
を刺激してやると、苦しげな悲鳴はあっさりと快感を訴える切ないものへと変わった。
「あああ・・・っ・・・く・・・ぅん」
俺の指を拒むように締め付けていた内壁も徐々に収縮し始め、逆にさらに奥へと誘い込む
ような動きへと変化する。
指を2本に増やして注挿を激しくすれば、俺の手の動きを助けるようにしどけなく足が開
く。
もう浅見に拒絶の意思は欠片も見られない。
快楽に・・・いや、俺の愛撫に敏感に従順に。
そう俺が教え込んだんだ。この体に。
恐らくは無意識のその痴態にほくそ笑みながら浅見を見あげる。
赤い花弁を散らした胸を大きく上下させながら快感に悶えるその表情。
帯で腰に止められているだけのただの布切れと成り果てた浴衣が艶を帯びた浅見の肌にま
とわりついて、匂い立つような色香をさらに際立たせ、背筋に震えがくるほど俺を掻き立
てる。
限界だ。我慢できん。
俺は浅見の中から指を引き抜いて立ち上がり、震える浅見を抱きしめそっと口付け、髪を
梳いてやりながら出来るだけ優しく囁いた。
「後ろを向いて幹に手をつくんだ・・・」
浅見は黙ったまま、ぎこちない動作で俺の言葉に従った。
自分で言ったこととはいえ、目の前の浅見の誘うような悩ましいポーズに思わず喉が鳴る。
・・・大概だな俺も。
浅見限定で欲望に歯止めが効かない自分に自嘲気味に苦笑しつつ、俺は浅見の背中に密着
するように覆い被さっていった。
浴衣の裾を腰の上まで大きく捲くり上げて、前だけ寛げて解放したモノを息づくソコにあ
てがった。
「あ・・・」
その感触にふるりと身を震わせる浅見を、はだけた裸の肩に何度もキスを落としてなだめ
ながらゆっくりと押し入った。
「あ、あ、あ」
絡み付いてくる肉を掻き分けて腰を進めるたびに浅見の口から苦痛と快感の入り混じった
ような嬌声が漏れる。
その声に煽られて一息に埋め込んでしまいたい衝動にかられるのを堪えつつ、時間をかけ
て根元まで銜え込ませた。
そして間をおかず今度は逆にゆっくりと引きずり出す。
「あぁー・・・」
詰めた息を吐き出すのと同時に響く鼻にかかった甘い声。
一度ギリギリまで引き抜いてまた同じ様に中に進入する。
そのたびに浅見の声は快感だけに染まっていって、俺は俺自身の存在を知らしめるように
何度もそれを繰り返して、俺自身も浅見と繋がっているリアルな感触を堪能していた。
熱く柔らかく俺を受け入れ、俺を満たすその存在。その全てが。
愛しくてたまらない。
「浅見・・・浅見・・・」
想いのままに何度も名前を呼んで耳元に口付ける。
俺のモノだと思う。
不思議な話だ。
今やこいつは『浅見』を自分なりに受け止め正面から向き合っていて、ただ逃れたがって
いた昔よりずっと『浅見』に近いはずなのに。
あの頃はどんなに言葉を交わしても、体を繋いでも、俺自身『浅見』の重圧を背中に感じ
て、自分のモノだと実感することなど一度もなかったというのに。
「は・・・あ、なお・・・とぉ・・・」
いつもと違う抱き方に焦れたのか浅見の腰がねだるようにくねる。
そんな淫らな姿さえ愛しくて、俺はそれに応えるべく片手を浅見の腰に添えて支え、余っ
た手を前にまわしてそこを梳きあげつつ浅見を穿つ律動を早めていった。
「あっあっ!ん・・・あぁ・・・い・・・ぃ・・・っ!!」
肉のぶつかり合う音が響くほど奥深くを何度も強く突き上げてやると、浅見は茶色い髪を
左右に振り乱して喘いで、そのたびに玉のような汗が周囲に飛び散った。
項から背中の窪みへと滴り落ちる汗が俺の目にとても扇情的に映る。
「あふっ・・・ああ・・・なおと・・・なおと・・・ぉ!」
浅見が俺の名前を何度も連呼し始めるのは限界が近い合図だ。
だがまだ・・・足りない。
体中に所有の痕を残して奥深くに俺自身を穿ってもまだ・・・。
もっともっと刻み付けたい。お前に俺の存在の証を。
「あさみ・・・っ!!」
身の内から膨れ上がる衝動のままに俺はおもむろに汗のつたう日に焼けた首筋に噛み付い
た。
「ああうっ!」
浅見は悲鳴をあげて首を仰け反らせ、勢い中の俺を食いちぎらんばかりにきつく締め付け
る。
「う・・・っ」
襲い掛かってくる波に身を任せるように俺は浅見の最奥に欲望の全てをたたきつけた。
「あ・・・あああああ―――――っ!!」
俺が達するのとほぼ同時に、浅見もまた感極まった声を上げて俺の手を濡らした・・・。

「直人のバカ」
「・・・・・・・・・・」
「スケベ、ヘンタイ、ケダモノ、エロオヤジ」
「・・・・・・・・・・」
浅見が俺の背中でぶつぶつ文句を言い募る。
俺はそれを黙って聞いている。
無理な体勢でコトに及んだ上に思わず中出ししてしまったため、行為の後浅見は腰が抜け
て立てなくなってしまった。
そして俺は自分とさして体格の変わらない男をおぶって人目を忍んで歩くハメになったわ
けだ。
まぁ我ながら調子に乗りすぎたと少々反省していたりもするので、この状況も並べ立てら
れる文句も甘んじて受けているんだが・・・。
「信じらんないよ。あんなトコで・・・あんな・・・」
言っていて恥ずかしくなったのか、浅見は最後まで口にせず、代わりに俺の首をゆるく締
めた。
「悪かったよ・・・おい、苦しいぞ」
お前だってかなり燃えてたくせに・・・とはあえて言わない。
が、俺の考えたことが伝わってしまったのか、頭をぽくっと叩かれた。
「もう絶対直人と夏祭りなんか行かない!」
おまけにそんな出来もしないことを言って拗ねる。
まったく・・・どこまでも可愛い奴だ。
「そうか・・・それは残念だな。来年は俺も浴衣を着てみようかと思ったのに」
「え、ほんと!?」
わざと大仰に溜息をついて言うと、浅見はころっと引っ掛かって期待に満ちた声で身を乗
り出してきた。
相変わらず現金なというか・・・お手軽な奴。
「直人にはねぇ、青が似合うと思うんだよね。濃い色の奴。柄物よりはやっぱり無地かな。
う〜ん、そうすると帯はぁ・・・」
さっきまでの不機嫌さは何処へやら。
嬉しそうに俺の浴衣について想像を巡らす浅見に、単にご機嫌取りに言ったつもりだった
俺も段々その気になってきた。
ああ、そうだな。
二人で浴衣を着て、来年もまた一緒に花火を見上げよう。
そうやって思い出を作っていこう。
これからはずっと・・・側にいるから。




本当はもっとこう・・・30世紀の未来人達の思い出に浸りつつ
ちょっとせつなくなってみたり・・・
みたいな話にする予定だったんですが。
こんなになってしまいました。(笑)


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