プリクラ〜LoveLoveSHOW・4〜



現像の終わった写真を受け取り支払いを済ませて店を出ると竜也の姿がなく、直人は戸惑
った。
キョロキョロと辺りを見回していると唐突に腕を引かれ、直人は店先にあったパステルカ
ラーのフードで仕切られたボックスの中に引きずり込まれた。
「な・・・っ!?」
驚いて腕を振り払おうとした先に笑顔の竜也がいて、直人は動きを止めた。
「ねぇ直人、これやろv俺前から一度やってみたかったんだよね〜」
嬉々として竜也が指差した先にはゲームのような画面があり、その機械の操作方法が延々
と繰り返されていて直人は徐々に青褪めた。
そして竜也に目もくれず無言で逃げようとする直人の腕に竜也は抱きついた。
「どこ行くんだよ」
「帰る」
「何言ってんだよ、まだ撮ってないじゃないか」
「俺がいつ撮ると言った!?誰が撮るかこんなもん!!」
直人曰く『こんなもん』とはいわゆる『プリクラ』というものであった。
一般的に考えると大の男二人が顔を寄せ合って撮るようなものではない以上直人の反応は
至極当然であると言える。
しかし無敵のお坊ちゃま、竜也は違うようだった。
「いいじゃないか、誰も見てないし」
「見られてるも同然だろうが!大体なんでこんな女子供がするようなもんやりたいんだ」
「だって・・・俺直人と二人で撮った写真欲しいんだもん」
唇を尖らせてそう言った竜也に直人は表情を曇らせた。
「それだって結局二人で撮った写真一枚もないんだよ!?せっかく二人で出掛けたのにさ
〜・・・」
『それ』と竜也が示したのは、直人の手にあるたった今現像されたばかりの写真であった。
過日、お互いにスケジュールを繰り合わせて初めて二人だけでちょっとした旅行をした時
のものだった。
直人はもともと写真を撮られるのが好きではない。
しかも二人で撮るとなると、当然タイマーか、誰か他の第三者に撮ってもらうことになる
わけで、後者は言うに及ばず、前者であっても周囲に他人がいることに変わりなく、恥ず
かしすぎて直人にはどうしても出来なかったのである。
不満そうではあったもののあまり駄々をこねなかった竜也に直人は内心胸を撫で下ろして
いたのだが、こんなところでそのツケが回ってこようとは直人も思っていなかった。
考えてみればいつも一緒について回る竜也が今日に限って店の外で待ってるなどと言った
のは、最初からこれを狙っていたに違いないことに思い至って直人は舌打ちした。
「直人ぉ」
閉口して眉間に皺を寄せる直人を竜也は腕に抱きついたまま上目遣いに見つめた。
その表情に直人は極めて弱かった。
駄々をこねてワガママを言って人を散々振り回すくせに嫌われたくはなくて・・・不安そ
うに自分に取りすがる表情。
これが計算ではないと言うのだから性質が悪いと直人はさらに舌打ちした。
「・・・・・分かった。ただしこれが最初で最後だ」
「本当!?いいの!?」
直人の言葉を聞いた途端にぱあっと明るくなる竜也の現金さに、今度こそ直人は怒鳴りつ
けた。
「いいからやるんならさっさとしろ!!」
「うん♪」
そんな直人の怒鳴り声を馬耳東風と聞き流して竜也は画面に向き直った。
嬉しそうに説明に従って画面に触れて操作して、たまに「あ、失敗」などと呟く竜也をじ
っと見ていた直人はふと嫌な予感に襲われた。
その予感はあまりにもリアルに現実味を帯びていて、直人は思わずそのまま口に出してい
た。
「おい・・・」
「ん?」
「これ・・・シールになるんだよな?」
「え?ああ、うん。そうみたいだね」
「お前・・・それどうするつもりだ・・・?」
半ば死刑宣告を待つ受刑者のような心境で尋ねた直人に竜也は明るく答えた。
「貼るよもちろん。せっかく撮ったんだから肌身離さず持ち歩こうと思ってv」
分かっていた答えとはいえさも当り前のように断言されて、直人は目の前が一瞬ブラック
アウトし眩暈を覚えた。
貼る?
持ち歩く!?
男二人のプリクラなんてハタから見れば異様以外の何物でもないようなものを!?
腐っても浅見財閥の御曹司が!?
誰かに見られたらどうするんだアホかお前は!!
お前はいいかもしれないが俺は嫌だ。
変人バカップル扱いのスキャンダルなんぞ絶対にごめん被る。
貼られてたまるか!!
直人の頭の中をそんな考えがぐるぐる回っている間に、準備が出来たらしい竜也が画面を
見つめたまま直人の袖を引っ張った。
「ここがカメラらしいからここ見て直人。それじゃ撮るよ〜」
「・・・浅見」
「え?」
地を這うような低い声で名前を呼ばれてふと直人を振り向いた竜也の視界は、一瞬にして
黒い影に覆われた。
そして・・・。
1、2、3、ばさっ!!
きっちり3秒後、竜也はパステルカラーのフードから飛び出した。
顔を真っ赤に染めて口元を両手で押さえながら。
肩で息をして呼吸を整え涙目でプリクラのボックスを振り返り睨み付ける竜也の視線の先
で、直人がフードから顔を覗かせ、出来たらしいプリクラのシートをひらひらとひらめか
せた。
「出来たぞ浅見。どうした?貼るんじゃないのか?」
形勢逆転とばかりにニヤニヤと意地悪く笑う直人に竜也は再び顔を赤くして言った。
「は、貼れるわけないだろそんなの!直人のバカぁ!!」
そう叫んでその場から逃げるように走り去る竜也の背中をみつめながら、直人は満足そう
に笑って改めてシートに目を向けた。
「ふん・・・よく撮れてるじゃないか」
直人は小さくそう呟いてシートをポケットに仕舞うと、逃げた竜也の後を追ってゆっくり
と足取り軽く歩き出した。



それ持ち帰ってどうするつもりですか滝沢さん。
バカップルなのは二人だけの秘密なんですか滝沢さん。
・・・ばればれですよ滝沢さん。(笑)


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