sexual harassment
何でも屋、トゥモローリサーチ社は基本的にその日暮しな会社である。
ゆえに社員揃って仕事がないという日も多々あったりする。
そんな時は各々適当に暇をつぶすのだが、今日は皆で揃ってとある暇つぶしに取り組んでいた。
「俺がやる」
「いーえ僕です。絶対譲りません」
共有スペースでシオンとドモンが取り合っているのはいわゆるクリーム等の搾り出し器。
ケーキを生クリームでデコレーションする際の器具である。
そう。本日の暇つぶしのお題は『ケーキを焼こう!』であった。
誰が言い出したかは既に謎。
しかし、普段料理などしない面々はそれなりに盛り上がっていた。
スポンジも焼き終わり、後はデコレーションするだけという段階で、滅多にお目にかかることのない器具に興味津々、そして思うままにデコレーションしてみたいという童心をくすぐられた好奇心旺盛な約2名が、先程から熾烈な争いを静かに続けていた。
「お待たせ〜。出来たよ〜♪」
そんな中、メインシェフである竜也がキメ細かく泡立てられた生クリームの入ったボウルを手にキッチンから出てきた。
次いで冷ましたスポンジを持ったアヤセ、そしてビデオカメラを手にファインダーを覗きながらユウリが後を追うように出てきた。
「いつ見てもいい手際ね。どうしてそんなに上手く出来るのかしら」
ぶつぶつ言いながらユウリが撮っているのは、レシピを見ても今ひとつつかめない部分を補うための実演ビデオであった。
「お前らまだやってんのか?」
搾り器を取り合う二人に呆れたように溜息をつきながらアヤセがスポンジをテーブルに置く。
一瞬それに気をとられたシオンの隙をドモンは見逃さなかった。
「隙あり!」
素早く搾り器を奪うとドモンは竜也の元へダッシュした。
「ああ!?ドモンさんずるいです!」
「はっはっはー♪油断大敵だシオン。で、竜也。これどうすんだ?」
「え?ああ、適当にクリーム入れてこう上から搾って・・・」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
目を輝かせながらやり方を聞いてくるドモンに竜也が説明しようとすると、シオンが慌てて飛んできた。
「ドモンさんひどい!僕もやりたいです〜」
「早い者勝ちだろ。こら離せよ」
「そんなのないですよぉ。僕にもやらせてくださいってば〜」
そして今度はボウルごと生クリームの取り合いになる。
その様子をアヤセはソファに座りながら眺め、ユウリは相変わらずビデオを回し続けていた。
「よせよ、二人でやればいいじゃないか」
見かねた竜也が二人を止めようとしたその瞬間だった。
「「あっ!!」」
「うわぁっ!?」
引っ張りすぎて二人の手がすべり、シオンとドモンの間を往復していたボウルは二人の手を離れ勢い良く宙を舞い、竜也の頭上へと落ちた。
とっさに手で払ったために直撃は免れたものの、竜也の髪も顔も今や生クリームまみれであった。
「だ、大丈夫ですか竜也さん!!」
「わ、悪ぃ竜也」
「も〜何てことするんだよ〜!」
自分たちが引き起こした予想外の事態にオロオロするシオンとドモン。
とりあえずタオルをと立ち上がるアヤセ。
心配しつつもビデオは止めないユウリ。
その前で竜也は口元についたクリームをぺろりと舐めた。
一瞬で全員の動きが止まる。
上唇から下唇へ一回りした舌の動きに目を奪われ、視線はそのまま竜也に釘付けになる。
「ああもうベタベタ・・・」
そう言いながら竜也は顔をぬぐって、手についたクリームを舐め始めた。
手の甲から手首をなぞって手のひらへ・・・猫がグルーミングをするようにぺろぺろと舐める。
竜也の端正な顔が白く汚れた様はどこかアンバランスで艶っぽく、不快そうに眉をひそめ少し目を潤ませた表情とちらちらと覗く赤い舌が、男の本能を十分に刺激するほど色っぽい。
「ん・・・」
さらに竜也は中指をぱくりと付け根まで咥えてゆっくりと引き出すようにしゃぶり、最後に指先を一舐めする。
次に人差し指も。
本人は全く無自覚だが、その仕草はとてつもなく卑猥でエロティックだった。
竜也から目をそらせない男三人の咽喉が同時にごくりと鳴る。
「あーっもう!やっぱり気持ち悪い!!俺シャワー浴びてくる!ドモン、シオン、ちゃんと片付けろよ!?」
ひとしきり手や顔のクリームを舐めとってみたもののやはり根本的な解決にはならず、竜也はエプロンを外しつつ、バスルームへと足音荒く消えていった。
残された空間には気まずい空気が漂っていた。
誰一人動くことも出来ずにいた中で、最初に動いたのはドモンだった。
前屈みの姿勢でそろそろと歩くドモンの肩をシオンが掴む。
「・・・どこ行くんですかドモンさん」
「いや、その、ちょっとトイレ・・・」
「僕が先です」
言うが早いかシオンはドモンを押しのけるようにして歩き出そうとした。
そのシオンの腕を今度はドモンが掴む。
「ちょっと待てよ、俺が先だ!」
「早い者勝ちです」
「俺が先に動いたんだから俺が先だろ!!」
「そんな理屈ないですよ!離してください〜」
「そうはいくか・・・って、アヤセてめぇどこ行くんだよ!?」
「・・・早い者勝ちなんだろう」
「あっ!アヤセさんずるい!」
「待てコラ、アヤセェ!!」
男三人が前屈みのまま情けないトイレ争いをしているのを背中で聞きながら、ユウリは録画したビデオを巻き戻し、それを確認してほくそ笑んだ。
(いい画が撮れたわ・・・vvv)
その日の夜。
滝沢直人は珍客を迎えることとなった。
「何か用かタイムピンク」
インターホン越しに直人はぶっきらぼうに応対する。
いかにも「こちらに用はない」と言いたげな直人の態度を気にも留めず、ユウリは言った。
「いいビデオがあるんだけど・・・5万で買わない?」
その台詞に一瞬頭が白くなりかけたが何とか持ち直して、直人はユウリの言葉を鼻で笑った。
「金に困ってとうとう裏ビデオの訪問販売までするようになったのか?ご苦労さん」
そう言ってそのままインターホンを切ろうとした直人の手が続いたユウリの言葉に止まった。
「主演は竜也よ」
それを聞くなり、直人はインターホンを投げ出してドアを開け放った。
自分を睨む直人に悠然と微笑んで、ユウリはビデオテープを差し出した。
「見てから決めてくれてもいいわよ?ここで待ってるから」
直人は二度三度、ユウリの顔とビデオテープを交互に見つめてテープをひったくりドアを閉めた。
数分後、ドアは開けられることなくインターホンから返事が返ってきた。
「・・・・・・いくらだと?」
「5万円」
「・・・・・・倍額払ってやる。だからマスターテープも全部よこせ」
「流石ね。でもそれなら倍額程度じゃ安すぎるんじゃない?」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!いくらでも出してやるから他に流すなよっ!?」
かくして交渉は成立。
その日から少しだけ豪華になった食事に竜也は首をかしげ、さらにロンダース襲撃の際には直人に訳のわからない説教をされ、竜也はますます首をひねった。
そんな竜也を30世紀の未来人たちはナマあたたか〜く見守ったのだった。
おお!絶対出ることはないと思ってた30世紀の未来人たちが!
いや・・・出たくもなかったろうこんな話。