| ロマンチスト・エゴイスト |
1月1日。元旦。 何とか無事に新年を迎えた夜まだ明けきらぬ早朝。 俺は暗い道を海岸に向けて歩いていた。 「翼、翼」 数歩後ろを俺を追いかけるように歩く同行者の声に俺は立ち止まって振り向いた。 ダッフルコートとマフラーに身を包んだ常とは違ういでたちの天空聖者がそこにいた。 「どうして今日に限ってわざわざ日の出を見に行くんだい?」 と先生は言った。 そうなのだ。何をこんな早朝に二人して歩いているかといえば、初日の出を見に行こうと しているのだ俺たちは。 眠っていた先生をわざわざ起こして誘ったのは俺だけど、何も言わずにほいほいついて来 たから分かっているのだと思っていたのに、実は全く理解していなかったらしい。 ま、らしいと言えばらしいけど。 「元旦の日の出は初日の出って言ってな。その年最初の日の出だから特別なんだよ」 「へえ」 俺は肩をすくめてまた歩き出しながら解説した。 すると先生は小走りに駆け寄ってきて、今度は俺の隣に並んで歩き出した。 「その年一番最初の日の光を拝んで願掛けすると一年無事に過ごせるとかさ、そうい う・・・」 「そうか、分かった。縁起物なんだね」 「よくできました。てか、どこで覚えたんだよそんな言葉」 そんな会話を取り留めなく交わしているうちに目的地の海岸についた。 そこには既に、同じ目的であろう人たちが少なからず訪れていた。 「まだ暗いのに人がたくさんいるね」 「バカだな先生。暗いうちに来て日の出の瞬間を見ねぇと意味無いだろ。だから俺たちも 来てんじゃん」 「ああ、そうか。それもそうだね」 「あっち行こうぜ先生」 「うん」 人のいるところを離れて、誰もいないところまで波打ち際を砂地を踏みしめて歩く。 また、前を歩く俺の数歩後を先生はついてくる。 「翼は毎年見にくるの?」 「そうでもねぇよ・・・何となく今年は見たくなったっつーか・・・」 不意の問い掛けに俺は歩みを止め、まだ薄暗い水平線を見つめながら答えた。 昔は家族で来たりもしたが、成長して皆それぞれに予定ができるようになった最近ではご 無沙汰だった。 どうしてまた突然そんな気になったのか。 「『願掛け』って言ってたね。何か願い事をするのかな」 見透かされているような先生の言葉にドキリと心臓が跳ねる。 「別に。俺はそんなロマンチストじゃねぇよ」 「そうかい?」 口をついて出たそっけない言葉は我ながら認めているようなものだと思う。 でも先生はそれ以上追及してこなかった。 見透かされて・・・るのかな、やっぱり。 「先生は・・・」 「ん?」 「いや・・・何でもない」 バカバカしい。太陽が太陽に願い事してどうするんだ。 そうだ・・・バカバカしい。 何をやってんだろな俺は。 こんなことをしてみても何も変わるわけはないのに。 いつか終わりがくるこの戦い。 最悪な結末は考えたくない。そんな結果にしてはならない。 けれど・・・例えば無事に戦いを終えたとしても、天空聖者である先生はきっと地上にと どまることはできないんだろう。 帰ってしまう。マジトピアに。この戦いが終わったら。 どちらにしてももう・・・先生には会えなくなる。 それはきっと揺るがない現実なんだろう。 戦いが終わらなければいいなんて・・・そんなことは思わない。 だけど・・・でも・・・。 ふと先生を振り向くと、先生はいつのまにか水平線を真っ直ぐ見つめる格好で浜辺にしゃ がみ込んでいた。 薄闇の中、体育座りで体を丸め、白い息を手のひらに吐きかけては擦り合せるその姿に目 を細める。 なんだか儚げで。今にも消えてしまいそうで。 「寒い?」 「え?」 声をかけながら、俺は先生の返事を待たずに真正面から先生を抱きしめた。 俺と先生の体格差からするとむしろしがみついているように見えるかもしれない。 どちらも正解だ。 寒そうだと思ったから抱きしめた。 いなくなってほしくないからしがみついてる。 回した腕に力を込めると、先生がかすかに微笑むのが分かった。 時が止まればいいと思った瞬間、背中から光が射した。 「翼」 先生の声。 「うん」 「日が昇ったよ。初日の出だ」 「うん」 「綺麗だ」 「うん」 「そうしてたら見えないだろう?」 先生の答えに短く相槌を打ちながらも、俺は相変わらずその体を抱きしめて肩口に顔を埋 めたままで、日の光に背を向けていた。 そんな俺に先生は苦笑まじりにそう言った。 「見えるよ」 即座にそう答えて顔を上げた俺を、先生は不思議そうに見上げた。 「よく見える。凄ぇ綺麗だ」 目の前には瞳に清浄な光を映した何よりも眩しい太陽の化身。 戦いが終わらなければいいなんて・・・そんなことは思わない。 だけど・・・でも・・・。 願わくば。 願わくばもう少し。 そばにいて。 |
ありがちな感じ。(爆)