| 愛の小部屋 |
魔法部屋の片隅にあるヒカル先生専用のベッド。 他の家人が寝静まった頃を見計らって俺はそこを訪れ、そっと先生の体を抱きしめる。 先生はそんな俺にふわりと微笑み、 「翼」 と俺の名を呼んで、抱きしめ返すように俺の背中に腕を回す。 まるで儀式のように、逢瀬に際しての行動がいつのまにか定着してしまった。 そう。これからの時間は先生と生徒としてではなく、恋人同士としての時間だということ を確認するように。 今日も今日とていつものようにそうやって抱き合って口づけて、その体をベッドへと沈め ながら先生の服に手を掛けたその時、その手を先生に制された。 「・・・なに?」 常にないその仕草に俺は思わず声を低くして先生をうかがった。 訝しげに見つめると先生はそんな俺の心中を他所に嬉しそうにニッコリと笑って言った。 「今日はね、翼に見せたいものがあるんだ」 「はい?」 今の状況を分かっているんだろうかこの人は。 その場の雰囲気にそぐわないこと甚だしいその言葉に戸惑う俺を尻目に、先生はいそいそ とマジチケットとグリップフォンを取り出した。 ますます分からない。それでこれから一体何をしようというのか。 「正確には見せたい場所かな?」 相変わらず俺のことはそっちのけで笑顔でそう言うと、先生はチケットをグリップフォン にはさみ呪文を唱えた。 「ゴー・ゴル・ルルド」 「!!」 眩い光に包まれ、思わず目を閉じる。 「・・・翼、目を開けて」 それは一瞬の出来事で、光が収束すると共に聞こえた先生の声に促され、俺はゆっくりと 目を開けた。 そして。 視界に飛び込んできた光景に俺は目がくらんだ。 我が目を疑うとはまさにこんな時に使う言葉だろう。 「せ、先生これは・・・!!」 「嫌だな翼。今は『先生』じゃないだろ?『ヒカル』って・・・」 「んなこたぁ今はいいんだよ!それよかコレ!どういうことだよ何なんだよコレは!!」 「どうって・・・作ってみたんだけど」 「作っただぁ?」 「うん」 俺の反応が予想外だったのかきょとんとした顔でおずおずと、だがこっくりとはっきり頷 いた先生曰く。 今俺達がいるのは所謂ひとつのマルデヨーナ世界で先生がその魔法力を駆使して作った世 界なのだそうだ。 マルデヨーナ世界はいくつか経験したことがあるがこれはそのどれとも違っていた。 そもそも世界というより部屋なのだ。 問題なのはその部屋の様子が、つい先日俺自身が先生を連れて行った場所に酷似している ことだった。 その場所とは・・・ぶっちゃけていえばラブホテルなのだった。 そうなのだ。 今思うととんでもないことをしたと思うんだが、俺という男はいくら恋人であるとはいえ 恐れ多くも天空聖者である先生をラブホなんぞという低俗な場所に連れ込んだりしてしま ったのだ! だって仕方がないだろう!? 想いを交わして晴れて恋人同士になったはいいが、蜜月を過ごすには現在おかれている環 境ははっきり言って厳しすぎる! なんせ総勢6人+猫1匹+鉢植え1という大所帯だ。 都合よく二人きりになれる時間なんてまずない。 加えて逢瀬に使用できるのは俺の部屋か魔法部屋に限定されるわけだが、俺の部屋は両隣 を兄貴とあのバカに挟まれててとてもじゃないが安心してできやしねぇ! 魔法部屋には鉢植えと猫が居る。だもんでスルときはわざわざ鉢植えと猫に一服盛らせて もらったりしてるんだがそんな手はそう頻繁には使えねぇ。 そんなわけで。 一つ屋根の下で抱きたい体を始終目の前にしながらお預けを喰らいっぱなしで、19歳、 ヤリタイ盛りの若い俺の欲求不満は溜まりに溜まってある日限界を超えた。 どっかネジが一本飛んじまった俺は真っ昼間に先生を強引に連れ出し、まっすぐラブホに 連れ込んだのだった。 勿論先生はラブホテルなんてもののことを全く知らなかった。 バカ正直に俺に連れられるままノコノコついてきて、物珍しそうにそこらじゅうを見回し ながら、 「それでここはどういう場所なんだい?」 と素で聞いてきた先生に俺はなんと答えただろうか。 答えもせずに実地で教えた気もする。(最低だ俺) 先生がそのことについてどう思ったかは知らないが、俺自身は後になって正直少なからず 後ろめたい気分だった。 だって・・・先生には似つかわしくない場所だと思ったのだ。 あんな淫靡な空間は先生には似合わない。 そう思ったからこそラブホに行ったのは後にも先にもその一度きりで二度と行かなかった のに。 それが後々こんな事態を引き起こすことになろうとは! 何考えてんだ全く!どこの世界にマルデヨーナ世界にラブホテルつくる魔法使い、しかも 天空の聖者様がいるんだよっ!! 「ここはね、ほらこの間翼が連れて行ってくれたところを模して作ったんだよ」 あくまでも得意げにそうのたまう先生の脳天気な声に俺はいよいよその場にへたり込んで 頭を抱えた。 んなこた見りゃ分かるっつーの。 見れば見るほどあの時のラブホの部屋にそっくりだ。 何もここまで微に入り細に入り再現しなくても・・・! 「なんて言ったっけ?ああ、そうだ『ラブホテル』だ」 臆面もなく言うなーっ! ああこともあろうに天空聖者の口からそんな単語が・・・って、俺だよ。俺が教えたんだ よ。俺が何も知らない先生に知らなくてもいい世界を教えちまったんだよ。俺の自制が効 かなかったばっかりに・・・俺のバカ! 「地上人は本当にいろんなことを考え付くんだね。あんなトコロがあるなんて思いもよら なかったよ」 はあ、そうですか。どういたしまして。なんかもう・・・俺、どっと疲れてきた。 「僕は感動したよ。あんな風に恋人達が誰憚ることなく密に愛し合う為の場所が用意され ているなんて地上人はなんて素晴らしいことを考えるんだろう」 は!? いや・・・決してそんなご大層なお綺麗なトコロでは・・・。 流石は世間(地上)知らずな天空聖者。ナイス勘違い。 そうか。そういうことなのか。 『恋人達が愛し合う場所』か。 先生はそんな風に思ってわざわざこんなモノをつくって俺を連れてきたのか・・・。 だとしたら・・・ココ頭抱えてる場合じゃなくてもしかして、実はちょっと喜んどくべき トコなんじゃねぇの俺。 目ぇキラキラさせて一点の曇りもなく純粋に微妙に誤解してる先生見てると多少居たたま れないけどでも・・・。 先生は俺のことをちゃんと恋人だって思ってくれてる。 そして先生も俺を求めてくれてる。 なんて・・・ちょっと自惚れてもいいってことなんじゃねーの。 「翼?どうしたんだい?」 ここに来てからというもの内心の動揺を整理するのにいっぱいいっぱいで、ずっと黙った ままだった俺の顔を不意に先生が覗き込んできた。 イキナリのどアップは心臓に悪い。鼓動が落ち着きをなくしてしまう。 「どこか・・・おかしいかな?それとも気に入らない?」 息がかかるほど真近で真っ直ぐ俺を見つめながらそう問いかけてくる先生の真摯な瞳に、 俺は全ての毒気を持っていかれて吹き出した。 「ふっ・・・くくく・・・はは」 「つ、翼?」 「いや別に・・・。なかなか結構なお手前で・・・」 思わず口を付いて出た自分でも意味不明な言葉にまた笑いが込み上げる。 そんな俺につられたのか先生も小さく笑った。 笑いながらどちらかともなく口づけて、俺は先生の好意(?)をしっかり受け止めさせて 頂いた。 |
先生が足りない人でゴメンナサイ。(爆)
マルデヨーナ世界って大抵名前がありますよね。
先生がここに名前をつけてるとしたら・・・
って思ってタイトルをつけてみました。
恥ずかしい奴だな私!(殴)