Checkmate



「チェックメイト」

夜更けの静寂な魔法部屋にヒカルの淡々とした声が響く。
チェス盤越しにヒカルと向かい合っていた翼は椅子に持たれて大きく溜息をついた。
そんな翼にヒカルは穏やかに微笑む。
他の家人は既に眠りにつき、そこには二人だけだった。

「翼はなかなか強いね」
「それ嫌味?」
「どうして?」
「さっきから1回も勝ててないんですけど俺」
「いやいや十分強いよ。こんな手応えは久しぶりだ」
「あ〜クソ。いいトコまではいくんだけどなー」
「詰めが甘いってことだね」
「う・・・はっきり言ってくれるじゃん」
「ははは。じゃあ次は何か賭けようか」
「賭け?」
「その方が勝負に対してよりシビアになれるだろう?」
「まあね」
「そうだなぁもしも翼が勝ったら・・・一つだけ何でも言うことを聞いてあげるよ」
「何でも?先生が?」
「そう。僕にできることで他の人を巻き込まないことなら何でも」
「ふ〜ん・・・じゃあもしも俺が勝ったら・・・」
「うんうん」

「キスしていい?」

「え・・・?」

「唇に」

「・・・・・・」

「どう?」

「・・・いいよ」

「・・・マジで?」

「うん」

「・・・言ってる意味分かってる?」
「そのつもりだけど」
「負けるわけないって思ってるだろ」
「そんなことはないよ」
「OK。じゃあ・・・始めようぜ」

それきり二人は黙ってチェス盤を見つめた。
お互いに目を向けることもなくただ黙々と盤上の駒を動かしていく。
そんな中不意に翼がチェス盤に視線を落としたままぽつりと呟いた。

「先生」
「なんだい?」
「もしかして手ぇ抜いてる?」
「まさか。どうして僕がそんなことを?」
「・・・・・・」

それきり翼は再び押し黙り、ヒカルもそれ以上何も言おうとしなかった。
そして勝負は決まった。





「チェックメイト」






その言葉を発したのはヒカルだった。





「やっぱり詰めが甘かったね翼」
「・・・・・・」
「翼?」
「先生」
「ん?」
「聞かねぇの?」
「何を?」
「・・・いいや、何でもない。今日はここまで、だろ?」
「そうだね」
「勝てなかったけど面白かったぜ。また相手してくれよ」
「勿論、喜んで」
「それじゃ、おやすみ先生」
「ああ、おやすみ翼」

翼は席を立ってそう言いながら、背中越しにひらひらとヒカルに手を振り魔法部屋を後に
した。
ヒカルはその後姿をじっと見つめ、翼が魔法部屋から姿を消した瞬間大きく息を吐き、緊
張を解くように全身の力を抜いた。
背中をイスに預けて天井を仰ぎひとしきり目を閉じる。
やがて溜息と共に独りごちた。

「参ったな・・・」

そして机の上にそのままになっているチェス盤に視線を移し、おもむろに自らが詰んだ翼
のキングを指先で摘み上げ目の前にかざした。

「不覚にもドキドキしてしまった」

そんな言葉と共にそこに柔らかく唇を押し当てながらヒカルはくすくすと笑った。





「ちょっと・・・残念だったかな?」





先生は内心密かに期待してました。
でも甘やかすことは出来ません。
だって先生だから。(笑)


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