『向日葵と金木犀』



よく晴れた日中でも肌に感じる温度が徐々に冷たくなってきた秋のある日。
本日の買い物当番は俺と先生。
つつがなく買い物を済ませて帰る途中、不意に少し後ろを歩いていた先生が俺の首筋辺り
に鼻を近づけてきて俺は激しく動揺した。
「な、なんだよイキナリ!」
「ああ、ごめんね。う〜ん翼の匂いじゃないのか。じゃあ何だろう?」
目線を上にして首を傾げる先生に俺も首を傾げる。
「匂い?」
「うん。翼は感じないかい?この・・・甘い花のような香り。ずっとしてるから翼が香水
でもつけてるのかと思ったんだ」
先生の言葉に意識的に周囲に鼻を利かせてみて、俺はその香りの正体に気付いた。
この季節、外に出れば何処からでも香るので気にもしなくなっていたけれど、天上暮らし
だった先生には新鮮なもののようだ。
「先生、これはズバリ花の香。ほらあそこにも咲いてる」
通りがかった公園の植え込みに並ぶ、無数に小さなオレンジ色の花をつけた木を俺は指差
した。
先生は俺の指先を辿るようにゆっくりと植え込みに近づいていった。
「やあ本当だ。花はこんなに小さいのにすごいね。近づくとむせかえるようだ」
そう言いながらも先生は香りを楽しむように鼻先を近づけたり、花をひとつひとつ指先で
摘んでみたりしている。
そうしている間に上部にある花がひらひらと先生の髪や肩に落ちる。
買い物の荷物を持ったまま花の観察に熱中する先生は全然それに気付かなくて、俺はその
姿に苦笑した。
「なんだい翼?」
「先生、あっちこっちくっついちゃってるぜ?」
「え?あれ?いつの間に・・・」
俺は、そう呟いて花を払おうとする先生の手を取った。
「翼?」
「・・・勿体無いよ。似合ってんのに」
言いながら俺は先生の肩からオレンジの小花をひとつを摘み上げた。
「『金木犀』って言うんだこの花。名前も色も先生にぴったりじゃね?」
「二つ目だね」
「は?」
意味不明な発言に顔を上げると先生は目を細めて柔らかく微笑んでいた。
「翼が僕に似合うって言ってくれた花だよ」
「・・・そうでしたっけ?」
覚えがなくて眉を寄せる俺に先生は可笑しそうに笑った。
「そうだよ。一つ目は蒔人の農場に咲いていた・・・確かそう、『向日葵』だ」
ああ、そういえば。
夏の暑い日。兄貴の手伝いをしてたとき、俺から見て丁度先生のバックに向日葵が重なっ
て見えてそんなことを呟いた気がする。
「『向日葵』は『太陽の花』だから、僕にぴったりだって」
そんなこと・・・覚えててくれたんだこの人。
そう言われてもしょうがない。似合ってしまうこの人が悪い。
とはいえ一つならいざ知らず二つ目となるとなんだか節操がないみたいでバツが悪いっつ
ーの。何で俺そんなこと思っちゃうかな・・・。

あ。
ああ、そうか。
そうなんだ・・・参ったな。

「翼?どうしたんだい?」
「先生、訂正」
「え?」
「『向日葵』は・・・俺にぴったりな花だ」
「どうして?」
「だって・・・」

『向日葵』はいつも・・・『太陽』ばかり見てる。





やってしまいました。黄金。
金木犀が先生に似合うな〜って
思ったところから妄想が広がったわけですが
よもやこんなところに落ち着こうとは。(笑)
密かに両想いだけど今はまだ片想い
みたいな感じかな?


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