私をラブホに連れてってv



世を忍ぶ仮住まいのアパート。
六畳一間のその一室で、椎名鷹介は共に地球を守る仲間であり今や恋人でもある男、霞一
鍬に組み敷かれていた。
灯りも落とさないまま性急に畳の上に押し倒され深く唇を求められる。
「んん・・・は、ん・・・」
一鍬の首に縋り、角度を変えるわずかな隙間からなんとか呼吸しつつ鷹介も積極的に口づ
けに答える。
想いを交し合ってまだわずか。
いわゆる蜜月にある二人だった。

一鍬の唇が首筋に移動し、アンダーウェアのシャツを指がたくし上げる。
「・・・っ!」
皮膚をきつく吸い上げ痕を残すのと同時に赤く色づく胸の飾りを片方やんわりと摘まれ、
鷹介は思わず声を上げそうになって唇を噛む。
その鷹介の様子をチラリと上目遣いにうかがって、さらに一鍬は胸元に唇を落としもう片
方の飾りに舌を絡めた。
「んぅ・・・っ」
胸にほどこされる愛撫に鷹介の体はビクビクと跳ね、噛みしめた唇が解けそうになって鷹
介は両手で口を押さえて眉を寄せる。
また一鍬はそんな鷹介をうかがいつつ余った手を腹からゆっくりと撫で下ろし、布越しに
鷹介の足の中心に触れそこを撫でさすった。
「あ・・・っ!や、だ、ダメ・・・っ」
背筋を電流のような快感が駆け上って、鷹介は首を仰け反らせ、解けた指の間から堪えき
れない嬌声を漏らす。
鷹介はその声を押し殺そうと、手近にあったクッションに手を伸ばし顔を埋めようとする。
その途端、突然一鍬は鷹介から体を離した。
怒ったように自分を見下ろす一鍬に、鷹介の目が困惑に揺れる。
「一鍬?何だよ、どう・・・」
「俺に触れられるのが嫌ならばはっきりそう言え」
吐き捨てるように言って一鍬はそのまま鷹介に背を向けてしまう。
「な・・・っ、何だよそれっ!?俺がいつそんなこと言ったんだよ!」
見に覚えのない怒りをぶつけられ、鷹介は着衣の乱れもそのままに体を起こして怒鳴った。
「おい一鍬!!」
黙ったまま答えない一鍬の肩を鷹介が引っ掴んで自分の方へ向き直らせると、一鍬は相変
わらず怒ったような、けれどどこか悲しそうな表情をしていた。
「不愉快だ」
「だから何が!?」
「お前が声を抑えようとするのがだ!!」
「んな・・・」
「まるで無理矢理犯しているようだ・・・」
「そ・・・れは・・・。だって、しょーがねーじゃん。ここ、壁薄いんだからさ・・・」
思いもかけない一鍬の言葉に鷹介は一転してしどろもどろに口ごもる。
鷹介が必死に声を抑えようとしていたのは決して一鍬に聞かれたくないからではなかった。
仮住まいゆえに安さのみを追求した鷹介のアパートは国宝級に古い造りだった。
部屋を隔てる壁はこれ以上ないというほど薄く、テレビやオーディオの音が聞こえること
など当り前。
下手をすれば壁越しに隣と会話が出来る勢いである。
そんな中でセックスなどすれば当然最中の声は隣り近所に丸聞こえになるわけで。
普通のカップルであっても相当恥ずかしいところ、まして自分たちは男同士で。
しかも主に聞かれるのは自分の声で。
それを鷹介が嫌だ恥ずかしいと思うのを一体誰が責められるだろうか。
「俺のところではダメなのか」
きまり悪く俯いた鷹介に一鍬が問うと、鷹介は視線だけを上げて上目遣いに言った。
「お前んトコって迅雷の谷の洞窟だろ?やだよ。だって・・・さ・・・」
言いにくそうに語尾を濁す鷹介に、一鍬は眉間に皺を寄せた。
「兄者が・・・気になるのか・・・?」
ぼそりと呟いた一鍬の言葉に鷹介は眉を吊り上げた。
兄・一甲には敬愛の念を抱いているのと同時にそれに等しいコンプレックスも抱いている
一鍬である。
ことあるごとに一甲と鷹介の仲を杞憂する一鍬の女々しい態度は時に鷹介を苛立たせた。
衝動のままに、うなだれた一鍬の頭を鷹介は拳骨で殴りつけた。
「何をするっ!?」
「うるせえバーカ!!一甲は関係ないって何度言えば気がすむんだよ!?あんなトコほと
んど外じゃねーか、外!汚れるし岩だらけで背中痛てーし、その・・・青姦みてーでやな
んだよ!!大体なぁ!一甲だろうと吼太だろうと七海だろうと他に誰かいたら気になるの
は一緒なの!!」
一息に捲くし立てて、鷹介は「文句あるか」と言わんばかりに鼻を鳴らしてふんぞり返っ
た。
そんな鷹介をじとっと睨んで一鍬は唇を尖らせる。
「・・・ではどうすればいいと言うんだ」
「う。そ、それはぁ、そのぉ〜・・・」
不満も露わにそれきり黙りこむ一鍬と結局何も言えなくて視線をさ迷わせるだけの鷹介と。
気まずい空気の中、「はぁ〜」という深〜い溜息がどちらともなく響き、二人とも釈然とし
ないままその夜はふけていった。
翌日、なんだか険悪なまま別れてしまい重〜い気分で基地のソファに寝そべりながら、鷹
介は大きく溜息をついた。
「どうしたんだ鷹介。元気ないな」
ふとソファの後ろから鷹介に声を掛けてきたのは吼太だった。
鷹介はがばっと起き上がると救いの神を見つけたように吼太に詰め寄った。
「吼太〜聞いてくれよ〜。あのな〜一鍬がな〜」
鷹介の口から一鍬の名前が出た瞬間、吼太は藪をつついて蛇を出し、あまつさえ地雷を踏
んだことを直感したが後の祭り。
鷹介と一鍬のことはもちろん知っている。
それを咎める気などさらさらないが、至ってノーマル・ストレートな吼太としては、男同
士、しかも身内同然の二人の恋愛相談などできれば関りたくないのが本音であった。
しかし。
手を拝み取りにしてうるうると瞳を潤ませて自分を見上げる親友を突き放すことなど、ど
こまでもいい人な吼太に出来るはずもなかった。
そして聞かされた内容に吼太は滂沱の涙を流し、自分のお人好し加減を呪った。
「そりゃあさ、俺だってさ、やりたくてそうしてるわけじゃねぇんだけどさ。でもやっぱ
恥ずかしいし・・・しょうがねーじゃんか。なぁ?」
同意を求められたところで自分に何が言えるのか。吼太はひたすら心の涙を流し続ける。
「はぁ。どっか二人っきりになれて気兼ねなくできるトコってないかなぁ・・・」
実は結構キワドイことをさらっと言ってのける鷹介に吼太はテーブルに突っ伏し、もうと
にかく早く解放されたい一心で開き直る決意を固めた。ヤケになったと言ってもいいかも
しれない。
「手っ取り早いトコだと・・・アレじゃん?」
「アレ?」
「アレだよ」
「アレって何だよ。あ!忍者の究極奥義ってヤツに何か関係あんのか!?」
「あるわけないだろ!!そうじゃなくてほらアソコだよ!」
「何処だよ。何だよ。分っかんね〜よっ!!」
「だからぁ〜っ!」
「そらラブホっきゃないやろ」
どうしてもそのものズバリの単語を口に出来ない吼太と察しの悪い鷹介のじれったい会話
に突如乱入してきた関西弁は誰あろう、日向おぼろその人であった。
「「お、おぼろさん!?」」
「いや〜ええな〜。若き青春の悩みっちゅうやっちゃな〜。な、鷹介v」
いつから話を聞いていたのか、一人うんうんと大きく頷きつつ何故か嬉しそうに鷹介の肩
を叩くおぼろに二人は困惑する。
「あ、あの〜おぼろさん?」
「何や?」
「今、何て?」
「ああ。せやから、二人っきりになれて気兼ねなく甘〜い時間を満喫できるトコ言うたら
ラブホテル!これに尽きるやろ。吼太かてそれが言いたかったんやろ?」
「は、はぁ・・・まぁ・・・」
仮にも女性にあまりにもあけすけに言い切られて、吼太は顔を赤らめる。
そして鷹介も。
吼太相手になら言えることでも、内容が内容だけに女性相手では流石の鷹介も勢いをなく
していた。
「でも・・・あんな人目につくトコ・・・。それに俺そんな金ないし・・・」
もじもじと手を前で合わせる鷹介に、おぼろはずいっと万札を差し出した。
「ちっちっち・・・アカン。アカンで鷹介。こんな明日をも知れんご時世に芽生えた恋は
もっと大事にせなぁアカン。ましてやあんたら二人は地球を守る忍びでもあるんや。そな
いな状態で満足に戦えへんかったらどないするねんな。これはウチからの心ばかりのカン
パや。人目なんか気にせんと思いっきり!心ゆくまで仲直りしてきいや♪」
最後にバシッと鷹介の肩を力強く叩き、言うだけ言っておぼろは去っていってしまった。
鷹介は手に握らされた万札を見つめ、そのままモノ言いた気に吼太に視線を向ける。
それに気付いた吼太は微妙に頬を引きつらせ、極力鷹介と目を合わせないようにしながら
その肩をぽんぽんと叩いた。
かくて数日後。
バカ正直にもとあるラブホテルの一室に来ている鷹介の姿があった。
もちろん一鍬も一緒に。
おぼろに資金まで渡され、他に自分でいい案も浮かばずとりあえず納得した鷹介だったが、
自分の方からそんな目的のはっきりした場所に誘うのは抵抗があった。
しかしなぞなぞも知らなかった一鍬がラブホテルなどというものを知るはずもなく、仕方
なく鷹介は、それこそ清水の舞台から飛び降りる覚悟で一鍬を誘い出したのだった。
その一鍬は見慣れない部屋の様子に所在なげにあちこち見渡している。
淡いピンクで統一された内装の狭い室内にこれまたピンクのシーツが掛けられたダブルベ
ッドが一つ。照明はムードを醸し出すように落とされ、ベッドの枕元にはティッシュの箱
と避妊用具。
紛うことなきラブホテルの様相に、話に聞いたことはあるものの実際に入るのは初めてな
鷹介は無意識に緊張していた。
(うわやべぇ。なんかドキドキしてきた)
今さらながら急に恥ずかしくなって鷹介は思わずベッドから視線をそらして後ずさった。
するとすぐに何かにぶつかり、それが一鍬だと認識するのと同時に後ろからその肩を掴ま
れ鷹介はぎくりと体を強張らせた。
「鷹介・・・」
耳元で囁く一鍬の声に鷹介の心臓が跳ね上がる。
緊張に固まる鷹介にお構いなく、一鍬はそのまま鷹介をベッドに押し倒しその上にのしか
かった。
「ちょ、待って!待った待った待った〜っ!!」
「・・・なんだ」
突然慌てふためいてじたばたと暴れ出した鷹介に一鍬は不満気に眉を顰める。
「え、えっと、あの、その・・・こっ、心の準備っていうか、その、まだ入って何分もた
ってないんだからもうちょっとゆっくりっていうか・・・」
「何故だ。ここはそういうコトをするところなのだろう」
「そ、そりゃそうなんだけど・・・あ、そう!風呂!な、風呂使わせてくれよ」
「いつも使ってないだろうが」
「それは俺ん家にないからであってあるんならやっぱ使った方が〜・・・」
「必要ない」
「や・・・っ!ちょっと、ヤダ!な、なにそんながっついてんだよぉ!!」
「鷹介」
性急な一鍬に気持ちがついていかず焦りまくる鷹介がそう叫んだ瞬間、一鍬は静かに鷹介
の名を呼んで動きを止めた。
恐る恐る鷹介が見上げると、一鍬は今にも泣き出しそうに顔を歪めていた。
「嫌なのか」
声を震わせてそう問い掛ける一鍬に鷹介は言葉に詰まる。
「俺は・・・嬉しかった」
「え・・・」
「いつも・・・求めるのは俺の方で、俺ばかりがお前を欲しているのかと思っていた。だ
が今日初めてお前の方から誘ってくれて、俺はお前に求められたのだと思って嬉しかった」
「いっしゅ・・・」
「そうでは・・・なかったのか?俺の思い違いだったのか?」
一鍬はそっと鷹介から体を離して立ち上がると俯いたまま背を向けた。
「嫌ならそう言えと前にも言ったはずだ。同情なら・・・いらん」
そのまま足を踏み出す一鍬の腕に鷹介は慌ててしがみついた。
「ま、待てよ。待ってくれ!俺・・・俺・・・その・・・ゴメン」
鷹介の一鍬の腕を握る手に力がこもる。
「ゴメン。俺・・・俺の態度がお前を不安にさせてたんだな・・・」
「・・・・・・・・・」
「一鍬。な。こっち向いてくれよ」
腕を引く鷹介に一鍬はゆっくり振り返り、引かれるままにベッドに腰掛ける。
すると鷹介の腕が首にまわりそっと唇が触れた。
「鷹介・・・?」
「好きだぜ一鍬。そうだよな。恥ずかしがってる場合じゃないよな。お前はこんなに真っ
直ぐ俺に気持ちぶつけてくれてるのに失礼だよな」
そう言いつつも照れて頬を朱に染めながら、鷹介は一鍬の目を真っ直ぐ見て言った。
「しよ・・・。俺・・・今すごくお前が欲しい・・・」
「鷹介・・・っ」
一鍬はそんな鷹介をきつく抱きしめ、その勢いのまま二人してベッドに転がった。
じゃれ合うように服を脱がせ合い素肌を重ね合う。
想いを込めたキスを交わして、一鍬の唇が鷹介の肌をさ迷う。
「あ・・・っんぅ・・・っ!」
胸の突起に辿り付いた唇がそこをちゅ、と音を立てて吸い上げると、鷹介は仰け反って喉
を震わせた。
もはや癖になっているのか、鷹介は思わず唇を噛んで洩れそうになった喘ぎ声を押し殺す。
一鍬はそんな鷹介の噛みしめた唇にそっと啄ばむようなキスを落とす。
その感触に鷹介ははっと目を見開いて、目の前で微笑む一鍬を見つめた。
「よせ。ここでは必要ないはずだろう」
「あ、そっか・・・そうだよな・・・」
自分の無意識の行動に照れ臭そうに笑う鷹介の耳元に一鍬は囁いた。
「声を聞かせろ。お前が・・・俺を欲しがる声が聞きたい・・・」
一鍬らしからぬその台詞と掠れた声音に鷹介は真っ赤になる。
「何か・・・今日のお前メチャメチャエロい」
「言っていろ」
一鍬は鷹介の照れ隠しの軽口を鼻で笑い、再び鷹介の肌に唇を落とし侵略していった。
「あっ、ああ・・・いっしゅう・・・」
鷹介も思うさま一鍬を感じて、二人は夢中で交わりあった。



「・・・なるほど。こんだけハデな喘ぎ声出しとったら、そらあんな安アパートじゃ不都
合やろなぁ」
イヤホンに耳を傾け、手元の機械で音量を調節しつつおぼろはしみじみ溜息をついた。
「いや〜ん、すっごい!信じらんない、色っぽい〜!!鷹介じゃないみた〜いvvv」
その隣で七海は同じくイヤホンを耳に楽しげに身悶える。
「ほんまやなぁ。一鍬ちゃん・・・あれでなかなかのテクニシャンとみたで!いや〜ハリ
ケンジャイロにマイク仕込んどいてよかった!大枚はたいた甲斐あったわ〜vvvええモ
ン聞けたな七海〜vvv」
「はいっ!!さっすがおぼろさ〜んvvv」
キャアキャアと黄色い声ではしゃぐ女二人から少し間を置いて。
「女って・・・女って恐ぇ〜よ〜」
「一鍬・・・大人になったな」
同様にイヤホンを耳にしながらそれぞれに違った意味の涙で頬を濡らしつつ、吼太と一甲
は呟いた。



その光景をガラス越しに見つめつつ、
「鷹介・・・不憫じゃのう・・・」
ポツリとそう呟いたハムスターの言葉は誰も耳にすることはなかった。






最初で最後の(つもりだった)ハリケン・鍬鷹。
何気に一応オールキャラ。(笑)


<<<BACK