甘いワナ



反町誠。25歳。カメラマン。
グランセイザー・水のトライブの一人、セイザーゴルビオン。

その俺のすぐ隣で同じくグランセイザーの一人である天馬が今眠っている。
朝目が覚めてまず目に飛び込んできたのが天馬の寝顔だった。
その健やかであどけない寝顔とは対称的に、規則正しい呼吸を繰り返しながら上下する
裸の胸元には、昨夜の情事の名残を残す赤い花弁が無数に散っていてなんとも艶めか
しい。
そっと乱れた茶色い前髪をかき上げれば指先に柔らかなぬくもりを感じる。
夢にまで見た光景。
だがしかし。
現実にその光景を前にして俺は焦っていた。
何故となれば・・・覚えていないからだ。
一体何がどうなってこんな状況に陥っているのか俺には全く記憶がない。
覚えがあろうとなかろうと何があったかは状況証拠だけで十分明白なわけで、俺はショッ
クにふらつく頭をフル回転させて昨日の出来事に思いを馳せた。

昨夜・・・。
昨夜は辰平と天馬と三人で飲んでいた。
俺は・・・以前から仲間としてではなくそれ以上の意味で天馬のことが好きだった。
愛しているといってもいい。
しかしこれはいわば禁じられた恋。
男同士という不毛さもさることながら、グランセイザーとして地球を守る立場にある者同
士その関係に亀裂を生じさせるわけにはいかなかった。
だから俺は伝えることのないこの想いをずっと胸に秘め、地球を守るのと同じように天馬
の側で天馬を守っていこうと心に決めていた。
それなのに。
なぜか俺のそんな秘めた恋心を見抜いた辰平が余計なお節介をやいてくれた。
(辰平曰く同じ立場にある者の直感だそうだが・・・。そうかこいつまだ愛のことを諦め
ていないのか・・・)
天馬と俺がごく自然に親密になれるようにと奴なりに作戦を立ててセッティングしてくれ
た(らしい)のが昨夜の飲み会だったわけだ。
店で飲んでいるうちは特にどうということはなかったはずだ。
辰平の奴もわざとらしく恋愛話に話をもっていくようなこともなく、ただ普通に飲んで食
事をして他愛もない話に取り留めなく笑いあった。
思えば天馬とあんなにも打ち解けて話をしたのは本当に初めてかもしれなくて、俺は内心
密かに辰平に感謝していた。
問題はその後だ。
二次会と称して辰平はなんと俺の家で飲もうなどと言い出した。
これには流石に俺も焦ったが無邪気にもすっかり乗り気な天馬に押し切られ、まぁ辰平も
いることだし・・・と思って俺は渋々了承した。
ところがだ!
俺の家に向かう道すがら、三人分にも過ぎるほどの酒とつまみを買い込み、通りの向こう
に俺のアパートが見え始めた頃突然辰平は言った。
「あ!俺急用思い出しちまった。悪ぃけど俺帰るわ。俺の分も二人で飲んでくれよ。じゃ
な!」
不自然すぎる棒読み台詞と共に辰平は風のように走り去った。
思えばここまでが辰平の描いたシナリオだったんだろう。見事に思惑に嵌った自分が情け
なくも恨めしい。
本当に巨大なお世話な辰平の行為を詰ってみても後の祭り。
今さら引き返すわけにもいかず、俺は自分の部屋で天馬と二人きりになることを(しかも
アルコールつきで)余儀なくされた。
どれほど理性に言い聞かせようと意識するなという方が無理な魅力的なその状況下におい
て、俺はそれでも必死に理性に喝を入れ、襲いくる誘惑と欲望をねじ伏せた。

はずだったのに・・・っ!!
なのにこれは一体どういうことなのか。
どう思い出してみてもことここに至った経緯がどうしても思い出せない。
認めたくはない・・・。認めたくはないが様々な要因を考えるに最も可能性が高いのは・・・!
酔って理性の箍が外れた俺が、本能のおもむくままに嫌がる天馬を無理矢理手込めにした
ということに・・・っ!!
いや可能性も何もそれしかないだろう・・・。
そうに違いない!
俺は・・・俺はなんてことをしてしまったんだ!!
「う・・・ん・・・」
頭を抱える俺の横で天馬が身動ぎして、俺は一気に血の気が引き、思わず固まった。
ぼんやりと薄目を開けた天馬と目が合う。
その瞬間、天馬は大きく目を見開いて飛び起きた。
「・・・っ!」
しかしその動きは途中で止まり、天馬の顔が歪んだ。
苦悶を滲ませたその表情に俺は反射的に腕を差し出していた。
「だ、大丈夫か!?天馬!」
支える俺の腕の中で天馬の体が強張った。
「あ・・・」
戸惑うように俯く仕草に俺の先ほどの推察は確信に変わり、絶望感に凍りついた。
目の前が真っ暗になる。
「あ、あ、すまない・・・」
手を離しつつ、それでも何か言わなければと必死に口を動かした。
「本当に・・・すまない。いや、謝って済むことじゃないってことは・・・分かってるん
だ・・・」
「誠・・・?」
「俺は・・・お前に取り返しのつかない酷い事をしてしまった・・・!」
「お、おい誠・・・?」
「許してくれなんて言えない。だが今の俺には・・・これしか言えなくて・・・っ!すま
ん天馬!!俺は・・・俺は・・・っ!!」
「ちょっと待てよ!!」
俺を制する天馬の大きな声に俺は身を竦めて黙った。
そうだよな・・・。聞きたくないだろうな・・・意味を成さない謝罪の言葉なんて・・・。
そう思い、俺はどんな断罪をも覚悟して天馬の言葉を待った。
「お前何言ってんの?」
「・・・は?」
詰るでもなく罵るでもなく小首を傾げる天馬の惚けた声に一瞬脱力しかけた。
「何謝ってんだよ。酷い事って何だ?」
「え・・・。い、いやそれは・・・だから・・・。ゆ、昨夜の・・・」
「あー・・・///そりゃ・・・まぁ?ビックリしたけどさ。俺別に酷いコトされたなんて思っ
てねぇよ。だから気にすんなって」
「な!?何言ってるんだ天馬!俺は・・・俺はお前を強姦・・・っ!!」
天馬の予想外の言葉に思わず身も蓋もないことを口走ってしまい、俺は慌てて両手で口を
塞いだ。
そんな俺を天馬は鳩が豆鉄砲喰らったような顔で見つめた。
ややって、天馬は目を丸くしたままぽつりと言った。
「誠お前・・・もしかして何にも覚えてねぇの?」
「え・・・」
「そうなんだろっ」
今度こそ眉を吊り上げ声を低くする天馬に、事実だけに誤魔化すことも出来ず俺はこっく
りと頷いた。
「・・・・・・」
それきり天馬はうつむいて押し黙ってしまった。
沈黙が痛かったが、天馬の気持ちを思うと俺から声を掛けるのも気まずくて躊躇われた。
「なぁ・・・」
しばらくして天馬が小さく呟くように口を開いた。
「覚えてねぇってことは昨夜のことは全部嘘ってことか?」
「え・・・?」
「お前俺のこと好きだっつったんだぞ」
「!!」
「どうなんだよ?嘘なのか?酔った勢いで言っただけの口からでまかせか!?」
真剣な目をしてそう問いただす天馬に俺は思わず叫んでいた。
「いや違う!それは・・・それは嘘じゃない!俺はお前のことが・・・天馬のことがずっ
と好きだった・・・っ!!」
何を言っているんだろう。
今さらこんなことを言ってどうなるっていうんだ。
俺はもう天馬を裏切って傷つけてしまったんだぞ。
もう・・・元にさえ戻れないのに・・・。
言いながらそう自嘲していた俺の耳に信じられない言葉が響いた。
「そっか。よかった」
「え?」
一瞬何を言われたのか分からなくて、俺は改めて恐る恐る天馬をみつめた。
天馬は笑っていた。
「安心しろよ。お前強姦なんてしてねぇから」
「な・・・」
「けど、俺が言ったことも全部覚えてねぇってのはやっぱ許せねぇな〜。ちょっと目ぇつ
ぶれよ」
「て、天馬?」
「いいから目を閉じる!!」
訳が分からないながらも俺は言われるままに目を閉じた。
殴られるのかと思って身構えた俺の唇に、少し乾いた、けれど柔らかい感触が一瞬触れて
離れた。
い・・・い、今のは・・・っ!?
驚いて目を開いた俺の前には目元を染めた天馬のアップがあって、さらに困惑する俺の頬
を天馬は軽くつねった。
「出血大サービスだ。もういっぺん言ってやるから今度はちゃんと聞けよ?」
くすくす笑いながら天馬は言った。
「俺もお前が・・・誠のことが、ずっと好きだった」
「・・・・・・」
「びっくりしたぜ?恋愛話ふった途端、一方的に告られていきなり押し倒されてさ。俺なりに
色々考えて緊張してたのに・・・お前酔うと結構強引なんだな」
「・・・・・・」
聞かされた己の醜態に言葉もなく赤面する。
いや今重要なのはそこじゃない!!
「て、天馬そのさっき・・・のは・・・」
「ん?」
「本当に・・・?」
「何が?お前が俺のこと酔って襲ったこと?」
「違う!あ、いや・・・その前だ・・・」
「俺が・・・お前のこと好きだっつったこと?何だよ、だから・・・強姦じゃねぇって言
っただろ。むしろその・・・嬉かったっつーの///」
『まぁ役割分担に不満がなかったわけじゃねぇけど?』などと言いながら、天馬ははにか
むように笑って俺の首に腕を回して体をすり寄せてきた。
夢じゃないのか?俺は都合のいい夢を見てるんじゃ・・・?
でもじゃあこれは?
今俺が感じているこのぬくもりは?
俺は確かめるようにその体に腕をまわした。
確かな感触と陽の光をいっぱいに浴びたような天馬の匂い。
夢じゃ・・・ない・・・!
「天馬・・・っ!」
俺は我を忘れて腕の中のぬくもりをきつく抱きしめた。
「好きだ天馬・・・」
「ああ」
「好きだ・・・!」
「ああ・・・俺も・・・」
今まで堰き止めていた想いが溢れて、俺は天馬の耳元に何度もそう言って天馬も同じだけ
俺に想いを返してくれた。
この時場所はベッドの上で。
俺も天馬も裸のままで、あまつさえ天馬はそこかしこに俺がつけた(らしい)情事の名残
を残していて。
その後はごく自然にその場の流れに身を任せ・・・。
順番が全くもってかなりでたらめだったが、俺は晴れて愛する天馬と身も心も結ばれたわ
けで。
俺は一度は呪ったお節介やきの髭面キューピッドに不本意ながら感謝した。





酔った勢いネタ大好きですv(殴)
うちの誠は世にいうところのへタレ攻め。(大笑)
最近出て来ないせいか
誠がどんな人か途中で分からなくなってみたり。(汗)
読み返すと山羊でも違和感があまりないことに気づき
さらに焦ってみたり。(滝汗)
(その場合、蟹役は天秤辺りか・・・)

難産だった1本。(苦笑)


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