SAKURAドロップス



桜舞い散る春の公園。
儚くも鮮やかに咲き誇る桜の木々をファインダーに捕らえ、誠は無心にシャッターを切っ
ていた。
「お〜い誠〜。お前も食わね〜?」
レンズ越しに見るその薄桃色に染まる風景は、そこだけ俗世から切り離されたようで神秘
的ですらあるというのに、その世界をぶち壊す無粋な声に誠は憮然とした面持ちでカメラ
から顔を上げた。
「あのな天馬。俺は仕事をしてるんだ邪魔するなよ」
「息抜きぐらいすればいいじゃねぇか。俺退屈だしさ〜」
「・・・勝手についてきたくせに」
仕事の道すがら誠はばったり天馬に出会った。
誠が仕事で桜を撮りに行くのだと告げた途端天馬は目を輝かせて言った。
「いいなぁ花見vな、な、俺も連れてってくれよ。いいだろ?」
花見に行くのではないと言ったところですっかりその気の天馬は聞く耳持たず。
仕方なく一緒に来たものの、誠は本来の目的に勤しむ為天馬のことははなから放置してお
いた。
その間に天馬はコンビニで団子やらお茶やらを買ってきて一人で花見に興じていたのであ
った。
「せっかくなんだからさ。仕事もいいけどそんなカメラのぞいてばっかいないで、こうゆ
っくり情緒を楽しもうぜv」
「何が情緒だ花より団子のくせに。一人で勝手に食ってろ」
「ちぇ、つまんねーの」
不貞腐れたように呟いてパクリと団子の串を咥え、天馬は胡座を組んで座り込んだ桜の木
の幹に頭の後ろに腕を回してもたれかかった。
どうやらそれ以上ごねる気はないらしい天馬に誠はひとつ溜息をついて再びカメラを構え
直した。

「・・・よし」
それからしばらくして、納得のいくまで写真を撮り溜めた誠はほっと一息ついて肩の力を
抜いた。
バッグにカメラをしまおうとして、誠は天馬のことをすっかり忘れていたことを思い出し
た。
(そういえばやけに静かだな・・・帰ったのか?)
そんなことを思いながらも一応天馬が座っていたはずの桜を探すと・・・。
「あ・・・!?」
誠は思わず声を上げ、慌てて自分の口を手で塞いだ。
そして改めてゆっくりと見つけた天馬に近寄って行った。
天馬は眠っていた。
桜の下で。
幹に上体を預け足を投げ出した姿勢で、カーカーとかすかないびきを立てながら。
ぽっかりと開いた口元には団子の餡がつきっ放しで、年齢よりもずっと幼くあどけない無
防備なその姿に誠は小さく吹き出した。
と同時に、舞い散る花びらがひとひら天馬の上に舞い落ちた。
「!」
ひとひら。またひとひら。
目元に。髪に。
誠はそれに見入ったまま無意識にしまい込んだカメラを手にしていた。
ファインダーをのぞき天馬の顔にピントを合わせる。
風情というにはかなり間の抜けた被写体ではあった。
けれどもうららかな春の陽気に誘われた寝顔はどこまでものどかで、薄桃色の花弁に彩ら
れてどこか無垢で可憐で、見る者の心を無条件に和ませた。
(変り種だが・・・これもまたある意味桜のある風景か・・・)
口元を弛ませつつそんなことを思いながら、誠はそのままシャッターを切った。
その瞬間、弾かれたように天馬はパッチリと目を開いた。
ぱちぱちと二、三度目を瞬かせた天馬の目に、自分に向かってカメラを構えた誠の姿が映
る。
そんな天馬に気がつき誠はカメラから顔を上げ、レンズ越しではなく真っ直ぐに天馬を見
てニヤリと笑った。
「!!」
一瞬にして状況を悟った天馬は、勢いよく口元を腕で擦りながら真っ赤になって喚いた。
「誠おま・・・っ!い、今撮っただろ!?」
「さあな」
「嘘つけ!シャッターの音聞こえたぞ!」
「ははは・・・こんなトコで寝こけるのが悪い」
「信じらんねー!悪趣味!!お前それ絶対現像すんなよ!?つーかフィルムよこせフィルム!!」
「バカ言え。仕事の写真も一緒に入ってるんだ。お断りだね」
「あ、ちょ、待て!待てって誠〜っ!」
憤る天馬を尻目に誠はバッグを担いでさっさと歩きだした。
天馬はそんな誠に大慌てで追いすがり、公園内にはしばし騒がしい声が響いていた。

それから数日後。
誠は自宅で先日撮影した写真の整理をしていた。
広げられた膨大な枚数の写真には桜、桜、桜。
誠はその中で埋もれていた一枚の写真を手に取った。
それは例の変り種の桜。
改めて見てもやはり笑いが込み上げてくる。
しかしながら笑みを抑え切れないのは、天馬のこんな無防備な姿にお目にかかれたことが
嬉しくもあるせいだと誠は自覚していた。
自分だけが知っていることへの優越感。
短気で無鉄砲で最初はどうにも馬が合わない奴だった。
けれどグランセイザーとして行動を共にするようになって、決して揺るがない真っ直ぐさ
に自分でも気がつかないうちに彼を認め、そしていつしか心惹かれた。
共に戦う仲間。グランセイザーのリーダー。
でもそれ以上にその存在は自分にとって特別な・・・。
今さら否定する気もない自分の中にある確かな思いをかみしめながら、誠はもう一度写真
に目を落とした。
「・・・バカ面」
そう呟きつつ、内心密かに「可愛い」などと思ったことは絶対に誰にも言えない。
誠はさらに苦笑しながら、その写真をデスクの引き出しに大切にしまい込んだのだった。





まこっちゃんの天馬ラブ度は
結構高いと思うんですけどね。(笑)


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