スタアの恋



「おっはよ〜ございま・・・」
「うわあぁぁぁぁあんっ!!」
「な、何だぁ!?」
朝。いつものように出勤した事務所にけたたましく響いた泣き声に天馬は面喰った。
見れば事務のマキが机に突っ伏して泣き崩れている。
いつからこうなのか、社長も困り顔だった。
「マ、マキ・・・ちゃん?あの、どうかした?」
恐る恐る声を掛けるとマキはがばっと顔を上げ、とある女性週刊誌をばっと広げてバンッ
と見開きのページを叩いた。
「これよこれ!私の直人が・・・松坂直人が・・・熱愛発覚だって〜っ!!」
「何ぃっ!?」
言うなりまた泣き崩れるマキを尻目に天馬は広げられた週刊誌を手に取った。
誰がお前のだ。直人は俺のだっつーの。
などとマキの台詞に心でツッコミを入れつつも、天馬はもしや自分のことかと慌ててペー
ジに目を凝らした。
そのスクープ写真に直人とともに写っていたのは・・・。
「何だ涼子じゃん」
天馬はほっと胸を撫で下ろしながら呟いた。
落ち着いてよく考えればそのものズバリな場面ならともかく、自分と直人がただ並んで歩
いて話していたところで恋人同士だと思われることなど一般常識からしてまずありえない
わけで、天馬は自分の早合点に密かに赤面した。
「『涼子』〜?ですって〜っ!?」
「うわっ!」
物思いに耽っていたところへ横からいきなりマキに掴みかかられ、天馬は思わず素っ頓狂
な声を上げた。
そんな天馬にお構いなくマキは天馬に詰め寄った。
「何!?やっぱりこの女も知り合いなの!?じゃあ知ってるんでしょ、この記事ホン
ト!?どれぐらいの付き合いなの!?もしかして・・・け、結婚とか・・・しちゃったり
するの〜っ!?」
「い、いや、あの俺知らない。全っ然知らないから!!社長!俺、配達行って来ま〜す!」
目を血走らせて迫ってくるマキの迫力に押され、天馬は逃げるように事務所を飛び出して
いった。

その日の昼頃。
「迷惑だわ」
とある山中で突然左手に現れたナックルライザーに応答してみると不機嫌極まりない声で
一言そう言われ、直人は憮然とした。
相手が誰かもそう言われる大体の事情も分かっていたが、果たしてそれは自分が悪いのだ
ろうかと直人は思った。
だがこの事態が自分を中核にしていることは不本意ながら事実なのでとりあえず直人は謝
罪の言葉を口にした。
「すまん」
「まったく・・・。家の周りもジムの周りも記者がうじゃうじゃいるし、朝早くから仁は
情けない声で電話してくるし、うっとうしいったらないわ」
仁の件は明らかに自分とは関係ないような気がしたが直人はあえて黙っていた。
「とにかく!とっとと会見でもなんでもやってはっきり否定してちょうだい!!」
「ああ・・・分かった」
「・・・・・・・」
「何だ?まだ何か・・・」
「随分落ち着いてるようだけど・・・早めに手を打った方がいいことは他にもあるんじゃ
ない?」
「?」
「本命を放っておいていいの?」
「天馬?あいつがあんな記事を鵜呑みにするわけないだろう」
「あら大した自信ね。じゃあ洸や剣がこれに乗じてあることないこと吹き込んでも大丈夫
かしらね」
「な・・・っ!!」
「あの二人はこういう隙を見逃したりしないと思うわよ。せいぜい足元をすくわれないこ
とね」
言うだけ言って涼子は一方的に通信を切り、直人の手からナックルライザーが消える。
直人はその手を握り締め、山道を全速力で駆け出した。

その日の夜。
仕事を終えた天馬はとあるファミレスにいた。
座った座席の向かい側には洸と剣が並んでいた。
中央のテーブルには問題の週刊誌。
「まったく信じられないよ。天馬さんという者がありながらこんなことするなんて」
「同感だな。男として許しがたい行為だ」
溜息をつく剣と腕を組んで頷く洸を交互に見て天馬は肩を落とした。
突然呼び出されたかと思えば二人はずっとこんな調子で、正直天馬は辟易していた。
「あのなぁお前ら。こんな記事嘘に決まってんだろ?何なんだよさっきから」
「そうかなぁ。だって直人さんって特別涼子さんと仲いいじゃない」
「そうだ。火のない所に煙は立たないという例えもある」
「それは・・・けど・・・」
「可哀相な天馬さん。無理して現実から目を背けても辛いだけだよ」
「その通りだ。こんな不誠実な男のことなどさっさと見限ってしまえ」
「いい加減にしろよ!俺はホントに全然これっぽっちも疑ってねぇし気にもしてねーっつ
ーの!!」
「優しいよね天馬さんって。でもそうやって甘やかしてたら男はつけあがるよ?」
「剣・・・忘れてるようだから言っとくが俺も男なんだよ」
「いいや剣の言うことは正しい。ここは一発ガツンとお前の方から引導を渡してやるべきだ」
「貴様ら・・・」
会話を遮るように突如頭上から聞こえた唸るような低い声に、言いたい放題だった二人は
揃って口を噤んだ。
「直人・・・」
天馬がその人物の名を呟いたのを合図に、二人は座ったまま自分たちの背後で仁王立ちす
る直人を振り仰いだ。
「あれぇ?直人さん何してるのこんなところで」
「お前には他に行くべき場所とやるべきことがあるんじゃないのか?」
嫌味たらしく見せ付けるように週刊誌を振りながらそう言う洸に直人は思わず頭に血が上
りかけた。
が、しかし。
「え?松坂直人?」
「嘘!ホンモノ!?」
という店内のざわめきに何とかそれを抑え、おもむろに天馬の腕を掴んで引きずるように
立たせてそのまま歩き出した。
「行くぞ!」
「え?ちょ・・・何だよ直人!痛ぇってば!!」
残された二人は店から消えるその背中を恨めしそうに見つめ、同時に深い溜息をついた。

「まったくあいつらは・・・っ!!よくも好き勝手なことをべらべらとっ!!」
吐き捨てるようにそう言って、直人はハンドルを拳で叩いた。
あの後。天馬を車に押し込んだ直人は適当にハンドルを切って走った末、今は人気のない
埠頭に車を停めていた。
「天馬?」
いつもは人一倍賑やかでよく喋る天馬がずっと黙っていることに気がついて、直人はいぶ
かしむように天馬をうかがった。
「お前さ・・・俺に何か言うことあるんじゃねぇ?」
そんな直人を天馬はじとっとねめつけぼそりと言った。
途端に直人の顔色が変わる。
「天馬・・・。お前まさかあの記事を本気にしてるんじゃないだろうな・・・?」
威嚇するような直人の声音に天馬は不満気に眉を寄せ、ぷいっと横を向いた。
「天馬!!」
そんな天馬の態度に直人は声を荒げ、運転席のシートから身を乗り出してその肩を掴み無
理矢理天馬を自分の方に向かせた。
目が合った瞬間天馬は怒鳴った。
「俺は!あんな記事信じてねぇし何とも思ってねぇ!でもなぁ!!」
その剣幕に目を丸くする直人を尻目に天馬はそこで一旦言葉を切り、今度は一転して静か
な口調で続けた。
「俺がそう思うのとお前が何にも言わねぇのは・・・違うんじゃねーの?」
「!!」
思いもかけない天馬の言葉に直人は胸を突かれた。
目から鱗の心境できつく掴んでいた天馬の肩を放し、深くシートに背中を沈めてバツが悪
そうに小さく溜息をつく。
そして前を見つめながらはっきりと言った。
「あの記事は全くのデタラメだ。たまに涼子のジムを使わせてもらうことがあって・・・
たまたま話していたところを写真に撮られた。それだけだ・・・」
そう言って直人は天馬に向き直った。
「これでいいか?」
直人がそう言うと天馬はにかっと笑った。
「ん!よろしい!」
わざと偉そうに腕を組んで大きく頷く仕草に直人は苦笑した。
「まったく・・・かなわんなお前には・・・」
愛しさを込めた口調でそう呟いて直人は天馬を抱き寄せた。
「なおと・・・っ」
天馬が何か言おうとするより早くその唇を塞ぐ。
「ん・・・」
歯列をなぞる舌先に応えてそっとそこを開くと、すぐさま直人の舌が入り込んできて天馬
の舌を絡めとり、吸い上げた。
「んん・・・ふ・・・」
口付けの合間にこぼれる、快感を滲ませた鼻から抜けるような天馬の甘い声に直人は昂ぶ
りを覚える。
思えばこうして会ったのも触れ合ったのも久しぶりで、直人はキスだけでは終われなくな
った。
「お前だけだ・・・天馬・・・」
天馬が欲しいという欲求の赴くままに熱っぽくそう囁き、直人は天馬のシャツの中へと手
を潜り込ませた。
その手をシャツの上から押し止めるように天馬が掴んだ。
「天馬・・・?」
「ダ・・・メだって・・・んなトコで・・・」
そう言いつつも息は乱れ頬は上気して瞳は潤み、天馬も明らかに欲情していた。
それに直人はますます煽られる。
「拒むのか?」
「あ・・・っ、ま、待てって!な・・・ここ来る途中にさ、ホテルあったろ・・・あそこ、
いこ・・・?ここじゃ・・・」
「そこまでもたん」
「あっ!直人・・・や・・・っ」
天馬の提案をあっさり却下してその首筋に歯を立てながらシートを倒そうとしたその時だ
った。
パシャパシャパシャッ!!
夜の暗闇にフラッシュが眩しく閃き、どこからともなくシャッター音が響いた。
そして間をおかずその場から走り去るエンジン音。
二人はしばし呆然と固まった。
「なぁ・・・今の・・・」
「ああ。撮られたな」
「・・・って落ち着いてる場合かよ!?早く追いかけてフィルム取り上げねぇと!!」
「何故だ」
「はぁ!?お前何言ってんだよっ!」
「涼子は間違いだがお前は正真正銘恋人だ。記事になったところで問題はないだろう」
「アホかお前は!!問題大有りだろうが色々とっ!!」
「涼子の件を否定しに出向くのも煩わしかったから一石二鳥だ。そんなことより続きだ」
「ふざけんな!!俺は絶対にいやだぁ――――――っっ!!」

自覚のないスタアとの恋は前途多難なのであった。





直人さんには絶対有名人の自覚はないと思います。(笑)
それにしても・・・
洸と剣の小姑’Sっぷりが板についてきてしまって
何だか複雑です。(笑)
うちの基本コンセプトで天馬LOVEな人の中には
誠もいるんですけど
誠はすでに天馬が誰かとくっついてる以上
ちょっかいはかけないような気がするんですよ。
だから小姑としては出てこないんですね


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