| 言えずの I LOVE YOU |
<1> 「真墨ィ!!」 それは一瞬の油断だった。 プレシャス回収のミッションに赴いた先には例によってネガティブの妨害が待っていた。 しかし何とかこれを撃退し、無事プレシャスを回収したその時。 倒したネガティブの雑兵の一人が最後の力を振り絞って身を起こしたことに誰も気がつい ていなかった。 「ガァァァァァ!!」 断末魔の咆哮を上げて雑兵が放った一閃は、ひざまづいてプレシャスをプレシャスボック スに回収していた真墨を真っ直ぐに狙っていた。 全員がはっと振り向く中、一直線に向かってくる閃光の中に銀色のスーツが割って入った。 「ぐぁっ!」 爆音と衝撃波と苦鳴。 「シルバー!」 「映ちゃん!」 駆け寄る仲間たちに支えられ崩れ落ちるその姿を真墨はただ呆然と見つめていた。 あれから。 あのハロウィンの日の出来事から。 映士は真墨を徹底的に避けた。 ミッション中に必要最低限の会話はするものの、ミッションを離れると顔すら合わせよう とはしなかった。 最初こそ謝ろうと思っていた真墨も映士の態度に段々意地になり、二人は互いに険悪な状 態だった。 そんな中で起こったミッション中の映士の負傷。 誰よりも早く事態に気付いたからこその咄嗟の行動だったということもあるが、それが真 墨を庇った結果であることは明らかだった。 幸い大事には至らず治療を受けた後は特に入院の必要もないとのことだったが、 「こちらが外用薬。それともしかしたら傷から発熱するかもしれませんから、こちらが解 熱剤です。今夜はゆっくり休んでくださいね。・・・一人で大丈夫ですか?」 「おう、悪ぃなさくらネエサン。俺様は大丈夫だ。これくらい大したことねぇよ」 メディカルルームの前で付き添ったさくらとそんな会話を交わす映士を、真墨は廊下の角 から窺いながら何も言えないまま苦い思いに唇を噛んだ。 その日の夜。 真墨は映士の住む高丘邸を訪れていた。 映士のことが気になって仕方なくて眠れなかったのである。 ふと玄関に立って屋敷を見上げる。 広大な敷地を有しながら、夜だというのに灯りひとつ点いていないその佇まいには、訪問 者を拒絶しているような雰囲気があった。 それに気圧されながらも、真墨は意を決して扉を開き中に足を踏み入れた。 中は本当に人が住んでいるのかと思うほど相変わらず雑然としていて、何より真っ暗で、 映士が何処にいるのかまるで見当がつかなかったが、ひとしきり歩いていると奥の方から かすかな呼吸の気配を感じて真墨はそちらに足を向けた。 近づくにつれてはっきり聞こえてきた呼吸は苦しげで時折呻き声が混じるようになり、真 墨は足を速める。 「映士・・・?」 うっすらと灯りの漏れる部屋を見つけてそっと中をのぞくと、骨董品のようなスタンドラ ンプの心許ない灯りに照らされたベッドの上で蹲る映士の姿があり、真墨は真っ直ぐに近 づいていった。 そこは寝室のようで、ベッドの他にはベッドの脇に小さなテーブルがあるだけで、その上 にスタンドランプと水差しと薬袋が置いてあった。 「う・・・う・・・」 アンダーシャツの黒いTシャツとズボンのまま、傷ついた獣が身を癒すように背を丸めて 眠る映士の顔を上から覗き込むとその額にはじっとりと汗が滲んでいて、真墨が手のひら を当てるとそこは明らかに平熱とは異なる熱を発していた。 さくらが言っていたように傷口から発熱したのだろう。 薬の袋を開けてみるが解熱剤を服用した様子がなく、真墨は小さく舌打ちした。 「映士。おい・・・」 薬を飲ませる必要を感じて真墨は映士を起こそうと体を軽く揺すったが、映士は熱く乱れ た呼吸を繰り返すばかりである。 ひそめられた眉と赤く上気した頬、そして薄く開かれた唇。 真墨はひとしきりそんな映士の顔に見入って体を離すと、ベッド脇のテーブルから再度薬 袋を取り、中からカプセルをひとつ手のひらに転がして口に含み次いで水差しから直接水 を含んだ。 映士の顎を掴んで上を向かせる。 わずかな逡巡の後、それでも真墨は熱を持つ映士の唇に己のそれを重ねた。 「う・・・ふ・・・」 息苦しさからか映士が小さくもがいたが、真墨は構わずさらに深く押し開くように唇を合 わせ、口内に含んだ水と共にカプセルを映士の口内へと流し込んだ。 「ん・・・」 やがてこくりと映士の喉が上下してカプセルを溜飲するのを確認してから、真墨はゆっく りと唇を離した。 同時に閉じていた目を開いて、真墨はぎくりと身を強張らせた。 眠っているとばかり思っていた映士の目が薄く開いていたのである。 潤んだ目でぼんやりと見上げてくる映士に、真墨は気まずさを感じて黙り込んだ。 すると、映士がふっと笑った。 「二度目・・・だな」 「あ?何が」 「お前にキスされたのはこれで二度目だ」 映士の口から出た『キス』という単語に真墨は少なからず動揺する。 「ば、馬鹿なこと言ってんじゃねぇよ。今のはただの口移しで・・・この前のだって」 真墨の言葉に映士の眉がピクリと吊り上がる。 「あんなのキスのうちに入るかよ」 真墨がそう言い放つと、映士はあからさまに表情を曇らせた。 その表情を見て、真墨は「ああ、まただ」と思った。 今にも泣き出しそうな傷ついたという表情。 目の前の映士の顔はあの時のそれと同じだった。 「そうだな・・・。お前が俺様にそんな・・・そんなキスなんてするわけねぇな」 映士は絞り出すような低い声でそんな自嘲気味な言葉を呟いて俯いた。 顔の見えなくなった映士に真墨は思わず手を伸ばしていた。 しかし。 「えい・・・」 「触るなっ!!」 「・・・っ!?」 真墨の手は突如激昂した映士によって叩き落された。 「俺様に触るな!大体なんでお前がここにいるんだ、何しに来やがった!?帰れ!出て行 け!!」 「映士っ」 大声で喚いて闇雲に腕を振り回す映士の手を真墨が掴む。 振り解こうと躍起になる映士の腕を真墨は渾身の力で押さえ込んだ。 普段なら間違いなく力負けしているだろうが、熱がある分映士は弱っていた。 「何なんだお前・・・っ、何で・・・!いい加減にしてくれ、もうたくさんだ!!俺様は・・っ!?」 激しくもがきながら泣きそうな声でさらにそう言い募る映士の言葉を真墨は最後まで言わ せなかった。 その瞬間、映士は腕を止めて凝固し大きく目を見開いた。 真墨は映士を押さえつけたまま、その唇を塞いでいた。 きつく唇を押し付けることで映士の抵抗が止んだのを見計らい、わずかに唇を離して軽く 上唇を食み舌先でそこをなぞり、そのまま薄く開いた唇の隙間から舌を差し入れる。 未知の感覚に肩を震わせきつく目を閉じる映士の唇に吸い付くように真墨は己の唇を重ね合 わせ、思う様口腔を貪った。 それは悪戯でも口移しでもない。 三度目のそれは紛れもない接吻だった。 |
黒自覚。そして暴走。(殴)