| Dinner. |
「な・・・っ」 仕事を終え、帰宅してダイニングに足を踏み入れた瞬間、目に飛び込んできた光景に明石 は息を呑んだ。 「おう。お帰り」 そこには映士がいた。 それは先刻承知していたことだった。 この日映士は早番、明石は遅番で。 「そうか。お前今日は遅番か。じゃあ今日は俺様が晩飯を作っといてやろう♪」 などと言って先に上がる映士の背を、明石がやにさがりそうなる顔を懸命に堪えつつ見送 ったのは数時間前の話だった。 だから明石が凝固してしまったのは、自室に映士がいたからでも、映士がダイニングで料 理をしていたからでもなかった。 その理由は。 「お・・・まえ、なんだそのカッコは」 「ん?なんか変か?」 「いや・・・変なわけじゃないがその・・・」 明石は口篭もりながらまじまじと映士を見つめた。 映士は長い茶髪をゴムでポニーテール状に結び、エプロンを身に纏っていた。 「ああ。髪は鬱陶しいし不衛生だから結んだ。このエプロンはお前のだろ?ないよりはあ った方がいいから借りた。何か問題あるか?」 明石の視線の意味を彼なりに解釈して映士は端的に説明したが、明石はまだ戸惑うように 視線をさ迷わせる。 「いや・・・」 「何だ。変な奴だな」 しかし映士はただ小首を傾げただけで、そんな明石に背を向けまた調理に戻ってしまった。 明石は無言でそのままキッチンに向かう映士の後ろ姿に見入った。 動くたびにアップになった茶色い髪が左右に揺れる。 それはさながら機嫌のいい犬の尻尾のようで。 普段は見ることないうなじが惜しげもなくさらされ、はらはらと後れ毛が纏わりつくのに 目がひきつけられる。 半袖のシャツの袖口から伸びる太く筋肉質な二の腕が今に限ってなぜか艶めかしくうつる。 後ろで結わえられたエプロンのヒモがジーンズの腰のラインを強調する。 明石は無意識にごくりと生唾を飲んだ。 「よし。あとは弱火で煮込んで終いだ。明石、先に風呂にでも・・・おわっ!?」 鍋をかけたコンロの火を最低限にまで弱め、映士が明石を振り返ろうとしたその時、突如 後ろからもの凄い力で抱きすくめられて映士は仰天した。 「映士!!」 「なっ!あ、明石・・・!?」 「映士・・・」 明石はもがく映士を宥めるように耳元にその名を囁き、無防備なうなじに口づけ舌を這わ せた。 ぞくりと背筋を駆け上った感覚に映士は身を竦ませる。 映士のその反応に気を良くした明石は、性急にエプロンをつけたままの映士の服の中に手 を這わせ、ジーンズのベルトを外しにかかった。 流石に明石の意図を察した映士は大慌てで明石の腕の中で暴れ出した。 「ちょ、ちょっと待て明石!!」 「待てない」 「や・・・っ、お前!イキナリどうしたってんだよ!?」 「お前がそんな格好で煽るからだ」 「はぁ!?何言って・・・んん!や、やめろ、よせ!ここを何処だと・・・っ」 「俺の部屋だ」 「その台所だろうが!俺様は今晩飯をだな・・・っあ」 「後でいい。今はお前だ」 「お、お前なぁ!!あ・・・ん・・・っ・・・せめて、火・・・」 「映士・・・っ」 フローリングの床の上に仰向けに横たわり映士は乱れた息を整える。 結局最後まで身につけたままだったエプロンはグシャグシャで、結わえていた髪もすっか り解けて床に散らばっていた。 明石はそんな映士に覆い被さるようにしてその顔を覗き込み、汗で額にはりついた前髪を そっと払って至極満足そうにそこに口づけた。 映士はされるがままに降りてきたそのぬくもりにうっとりと目を・・・閉じようとして、 逆にカッと見開いた。 「映士?」 「どけっ!!」 「うわっ!?」 事後の甘やかな雰囲気から一変してただならぬ形相を浮かべた映士を訝しく思った途端、 明石は映士に投げ飛ばされて床に転がった。 テーブルの足にしたたか頭を打ちつける。 「痛ぅ・・・映士?」 頭を擦りながら身を起こして床に座り込み映士を見上げると、乱れた衣服もそのままに映 士が肩を震わせて鍋を覗き込んでいた。 あの時。コトの前。 せめて火を落とそうとコンロに伸ばした映士の手はそこに届いてはいなかった。 気がついてしまえばはっきりとそれと分かる臭いがダイニングに立ち込め、明石も瞬時に 事態を察した。 「え・・・えい、じ・・・?」 無言の映士の横顔は解けた長い髪が隠してしまっている。 しかし握りしめられてぶるぶると震える拳が映士の心情を雄弁に物語っていて、明石は先 ほどとは違う生唾を飲み込んだ。 その後しばらく。 サロンではミッション中を除いて映士に顎でこき使われる、かつては『不滅の牙』とまで呼ば れた男の姿があった。 |
料理上手デフォルト設定な銀第二弾。
ちょっとお馬鹿さんな感じの話が
書きたくなりまして・・・。
ごめんチーフ。(爆)