Morning.



料理上手な恋人というやつは一つの男の理想だろう。
そんな恋人が家に泊まったりなんかした翌日、先に起きて朝食の用意をしてくれて甘い声
で優しく起こしてくれる・・・なんてのは、男なら一度は夢見るシチュエーションではな
いだろうか。

「ん・・・」
カーテンの隙間から入る日の光が眩しくて目が覚めた。
寝転がったまま目をこする。
妙な体勢で眠ったせいか、目は覚めたものの体がだるくて起き上がる気になれない。
そのままぼーっと天井を見上げていると、
「真墨」
突然ぬっと突き出てきて俺の視界を塞いだ顔に一瞬心臓が止まりそうになった。
しかしすぐに思い出して息を吐いた。
ああそうだ。昨日はコイツが泊まったんだった。
寝転がった俺の頭上から俺の顔を見下ろすように覗き込んでるのは映士だ。
一度打ち解けてしまえば、結構馬があった俺たちは仕事からはなれたところでよく遊ぶよ
うになって。
次の日は二人して遅番という昨日、仕事を上がってから夜更けまでゲームをしたりビール
を空けたりしながら過ごして、いつの間にか二人してカーペットの上で雑魚寝したんだっ
た。
ああ・・・つくづく夢ってのは儚いもんだな。
夢の中では線の細いシルエットと柔らかい声が俺を呼んでいたってのに現実はコレだ。
目の前にいるのは気は合うが俺より態度も図体もでかい男って・・・なんか切ねぇ。
見上げたあいつの顔をやっぱりぼーっと眺めながらそんなことを思っていたが、続いた映
士の言葉に俺は跳ね起きた。
「いい加減起きろ。朝飯できてるぞ」
「は・・・?飯・・・?ってお前が!?」
「おう。俺様特製の味噌汁と卵焼きだ。美味いぞ」
ありえない展開にまだ夢を見ているのかと思った。
しかし、得意満面の笑みを浮かべた映士の後ろからは確かに常にはない朝餉の香りがした。

着替えて顔を洗ってテーブルにつくと、目の前には茶碗に盛られた炊き立てのご飯と食欲
をそそる芳香を纏った湯気が立ち上る味噌汁と、見るからにふっくらと柔らかそうな卵焼
きが鎮座していた。
正直、見た目と香りは・・・文句なく美味そうだ。
信じられない・・・一体何の冗談だ。これを目の前のコイツが作ったってのか。
俺の中にある高丘映士のイメージに「料理が上手い」なんてイメージは全くない。むしろ
逆の方が納得できる。
見た目と香りに惑わされて果たしていいのかどうか激しく疑問だ。
「どうした真墨?食わねぇのか?」
席に座ったものの微動だにせず無言で目の前の朝餉を睨んでる俺に、映士が訝しげに言う。
まぁ当然の反応だが・・・俺はなんと言っていいか分からずモゴモゴと口を濁す。
「いや・・・その・・・何つーか・・・なぁ?」
「何だよおかしな奴だな。先に食っちまうぞ。いただきます!」
映士はそう言うと背筋を伸ばして目の前でパシンと両手を合わせ浅く頭を垂れた。
変なところで几帳面な奴だ。
黙々と茶碗から白飯を掻き込み、汁椀をすするその様子をじっと眺めているとやっぱり美
味そうで、食欲も手伝って俺は恐る恐る箸を取り、小さく「いただきます」と呟いて味噌
汁に口をつけた。
「・・・・・・美味い!」
一口すすった瞬間、俺は思わず声を上げていた。
それほどに。映士の料理の腕に疑問を抱いていたことを差し引いても、映士の作った味噌
汁は衝撃的に美味かった。
「だろ?味噌汁には自信があるんだ俺様は」
俺の言葉に至極満足そうに映士が笑う。
そんな映士を尻目に、俺は味噌汁から飯、卵焼きへと次々に箸を伸ばした。
『味噌汁には自信がある』と言ったが、飯の炊き加減も完璧だし卵焼きも絶妙の焼き加減
と味付けで・・・これはきっと味噌汁に限らず、料理そのものの腕前が確かであることが
窺い知れる。
意外だ。もの凄く意外だ。
俺自身トレジャーハンター時代、それなりにサバイバル生活を送っていたわけでまるで料
理ができないというわけじゃない。
だが特に好きでもないわけで、外を歩けば飲食店もコンビニもある環境にあればはっきり
いって自炊などほとんどしない。
炊飯器やまな板、包丁といった調理器具は一応揃っているものの、俺の部屋ではそれらは
ほとんどお飾りで、まともに使ってる調理器具といえばレンジくらいだ。
映士もアシュの監視者としてずっと放浪の旅を続けていたわけだから、自活できる程度の
料理ができるというのならさして驚きもしなかったろう。
だがこれはもうそんなレベルじゃない。マジで美味い!誰かの手料理でこんな美味い飯を
食ったのは初めてだ。
俺はいつのまにか夢中で目の前の食事をたいらげていた。
「ごちそうさん!美味かった!」
「おう」
褒めてもらえて嬉しいのか映士はずっとニコニコと上機嫌だ。
意外な特技もさることながら、映士のこういう感情を隠さない素直なとこは見掛けによら
ず微笑ましくてちょっと・・・可愛いと思う。
いやいや可愛いなんて言葉が妥当じゃないことはよ〜く分かってるんだが他に上手い言葉
が見つからない。だからちょっとだけ。
「しかしなぁ、実際食った後でもまだ信じられねぇよ。お前がこんなに料理が上手いなん
てな」
俺が正直な感想をもらすと、映士は少し照れ臭そうに笑って言った。
「これでも結構年季が入ってるからな。俺様が料理を覚えたのは父親と旅をしていた頃だ。
一緒に旅をしていてもガキだった俺様は戦いに参加できるわけもない、ただの役立たずの
お荷物だったからな。何とか父親の役に立ちたくて見よう見まねで料理を覚えた。子供心
に父親が『美味い』って言ってくれるのがすごく嬉しかったんだ」
「へ〜え」
「中でも特に父親が褒めてくれたのが味噌汁だ。他人に作ってやったのは初めてだぞ。あ
りがたく思え」
冗談めかしてそう言いながら、映士は鼻高々といった様子でふんぞり返る。
それがまるで子供みたいだと思って思わず苦笑して、俺はついつい余計なことを口走って
しまった。
「バッカ、調子に乗んな。けど確かにお前の味噌汁最高だ。こんな美味い味噌汁毎日食え
たら幸せだろうな・・・」
「え?」
「え?」
驚いたような映士の短い声にはっとして顔をあげると、映士は目をまん丸にしてぽかんと
した顔で俺を見ていた。まるで言われた言葉の意味を図りかねるように。
その視線と俺の視線ががっちりぶつかってそのままお互いに固まった。
俺。
今。
何言った!?

『毎日食べられたら幸せ』=『毎日食べたい』=『一緒に暮らしたい』

「!!!!!!!?」

そんなつもりはなかった。
断じてそんなつもりで言ったのではなかったが、自分が口にした言葉が内包する意味に遅
まきながら思い至って俺は弾かれたように立ち上がった。
と同時に一気に顔に熱が集中する。
それを散らすように俺は沫を食って盛大に喚いた。
「ば・・・っ違・・・っ違うからな!そ、そんな意味で言ったんじゃねぇぞ!?勘違いす
んなこのバカ!!」
その途端映士も負けじと立ち上がり噛み付かんばかりに喚き返してきた。
映士の顔も真っ赤だ。
「なっ、誰がバカだ!俺様が何勘違いしてるってんだ、ええ!?そんな意味ってどんな意
味だよっ!!」
「分かってるくせに聞くな!!」
「はぁ!?全ッ然わからねぇな!!」
「そんな顔真っ赤にして何言ってやがる!」
「お前の方こそ真っ赤っ赤じゃねぇか!!」
「う、うるせぇ!大体お前が変な顔するから悪いんだろうが!普通黙ってスルーするもん
だろそこはっ!!」
「俺様は変な顔なんかしてねぇ!!訳分かんねぇこと言ってんじゃねぇよ!!」

「お前が!!」
「お前こそ!!」

売り言葉に買い言葉の応酬の末、俺たちはひとしきり睨み合って無言のままお互いに視線
をそらし乱暴に椅子に座りなおした。

何考えてんだ。
そんなことあるわけねーだろーが。
確かに料理上手な恋人は理想だよ。今日みたいなシチュエーションは今朝方夢に見たりし
てたさ。
けどそれは相手が女であることが大前提なわけで、男なんて、ましてコイツなんかいくら
料理が美味くたってそんなこと・・・思うわけ・・・!
心中で憤りながらちらりと向かい側の映士の様子をうかがうと、映士もまた憮然とした顔
つきで虚空を睨んでいた。
その頬はまだほんのり赤い。
本当に俺の言葉に何を思ったのか、尖らせた唇が拗ねてるようでやっぱりちょっと・・・
可愛いとか・・・っておい!!
そんなつもりはねぇ!あるはずねぇ!本当にそんなつもりはこれっぽっちも・・・!!
ほんの少し心に浮かんでしまった考えを思わず髪を掻き毟って否定していると、低い声が
俺を呼んだ。
「おい」
「あ?」
「たまになら・・・また作ってやる」
「え?」
俺から目線をそらしたまま呟くようにそう言う映士を俺はまじまじと見た。
「そんなに俺様の味噌汁が気に入ったんならそのうちまた作ってやるって言ってんだ」
言うなり今度は椅子ごと俺に背中を向ける。長い茶髪から覗く耳が赤い。
瞬間、心臓が高鳴った。
「お、おう」
誤魔化すようにわざとぶっきらぼうに返事をして、俺も映士に背を向ける。
きっと自分の顔もまた赤くなっている。
そんなはずはない。これはそういうのじゃきっとない。
でも。
今俺は映士の言葉を喜んでいる。
その気持ちはもう否定出来そうになかった。





何ですかこれは。(笑)
料理上手な銀はマイ設定決定
ってことでひとつ。(うわー)
とりあえず黒銀一歩前進?


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