蒼太の行方不明とクエスターによるプレシャス保管場所(実はニセモノだったが)襲撃と
いう緊迫した状況を回避したその日。
いつにも増しての疲労を抱えつつ、メンバーはそれぞれにサロンを後にし帰路についた。
後には明石暁と高丘映士の二人だけがサロンに残っていた。
明石はノートパソコンを見据えながら時折キーを打ち、映士は特に何をするでもなく腕を
組んで椅子に座っていた。意図的に明石から顔を背けて。
二人きりの空間にただひたすらに沈黙が続く。
そんな状況に先に耐えられなくなったのは映士だった。
「明石」
「何だ」
「帰らねぇのか」
「ああ」
「まだ仕事残ってんのか」
「いや。別に」
「じゃあ何で帰らねぇんだ」
「お前が帰らないからだ」
「・・・・・・」
半ば予想していた通りの答えをはっきりと返され映士は小さく舌打ちする。
明石はパソコンのモニターを見る振りをしながら映士の様子を窺った。
「・・・何でなにも言わねぇんだ」
ややあって映士は観念したようにぽつりと呟いた。
「怒ってるんだろ。俺様がお前の言うこときかなかったから」
不貞腐れたその声はまるで拗ねた子供のようで明石は小さく苦笑する。
それに反応して映士は明石を睨んだが、明石が真っ直ぐ見つめてくるのに慌てて視線をそ
らした。
「そうだな。確かに怒ってはいるさ」
「なら・・・」
「だが反面嬉しくもあってな。複雑なんだ」
「はあ?嬉しいだと!?」
明石の意外な言葉に映士は素っ頓狂な声を上げる。
しかし明石は動じることなく続けた。
「ああ、そうだ。あの時、お前が一人でアシュを追ったのは監視者としての使命からでも
なければ、復讐心からでもなかったんだからな」
「な、俺様は・・・!」
何もかもお見通しだと言わんばかりに明石はそう言ってニヤリと笑い、映士は声を詰まら
せる。
それは図星だと言っているようなものだった。
「お前はけじめをつけたかったんだろう?ボウケンジャーとして俺たちと共にあるために。
でなければお前自身、自分がここにいることを許せなかった。違うか?」
「・・・っ!」
映士はもう何も言えなかった。言葉を発する代わりに唇を噛み締める。
「俺の言葉を聞かず一人で行ってしまったことは怒ってる。あのパンチは結構効いたしな。
だがその行動が俺達に対して真摯でありたいというお前の思いゆえなら頭ごなしに怒るこ
とはできないさ」
言いながら明石はノートパソコンを閉じて再度映士を見つめ、ふっと柔らかく笑った。
「お前は以前よりも確実に俺たちを仲間だと思ってくれている、俺たちが思うよりもお前
は俺たちを大切に思ってくれている、そう思うと嬉しくてな。だから複雑な気持ちなんだ」
「何を勝手に・・・バカじゃねぇのかお前」
今にも泣き出しそうに顔を歪めながらも、それでも精一杯の虚勢で憎まれ口を叩いて背を
向けた映士を、明石はひどくいとおしく感じた。
そっと席を立って近寄り、椅子に座ったままの映士を明石は後ろから抱きしめた。
拒絶は、ない。
「明石」
「ん?」
しばらくそうしていると、映士が小さく明石の名を呼んだ。
そして小さいけれどはっきりとした意志を滲ませた声で言った。
「俺様は・・・ここにいたい」
「映士・・・」
「先のことは知らねぇ。けど、今はここにいたい」
背中越しで明石から映士の顔は見えない。
けれどその思いは抱きしめた体の強張りから、切なげなその声から充分に伝わった。
「いてくれなければ困る。それに・・・俺が決して離しはしないさ」
さらに強く、苦しいほどに抱きすくめてくる明石の腕の中で、その力強さとぬくもりに身
も心も満たされいくのを感じながら映士は静かに目を閉じた
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