| petit-tomato |
映士の朝はいつも規則正しい。 何があろうときっかり6時に目を覚ます。 そして何があろうときっかり7時に俺を起こす。 「おらぁ真墨!いつまで寝てんだ!いい加減起きやがれ!」 寝室のドアを勢いよく開け放って映士が怒鳴る。これがこいつのいつもの起こし方だ。け たたましいことこの上ない。 しかし悲しいかな耳に馴染んでしまったお約束のフレーズに覚醒を促され、俺は布団から 顔だけ出して映士を睨んだ。 「お前・・・俺が今日非番だってこと知ってるよな・・・?」 起き抜けで上手く呂律が回らない俺の恨み言を映士は全く意に介さず、腕を組んでふんぞ り返った。 「それがどうした。俺様は出勤だ。早く飯食わねぇと片付かねぇだろうが」 「いいよ俺は・・・たまの休みくらいゆっくり寝かせろよ・・・」 「何ぃ!?せっかくお前の分まで作ってやったのに何だその言い草はぁ!寝るな、起き ろ!」 入り口に仁王立ちする映士を無視して再び布団に潜り込もうとすると、映士はさらに声を 荒げながらずかずかと俺が寝ているベッドまで歩み寄り、力任せに引き被っていた布団を 剥いだ。 と、思ったらまたすぐに元に戻した。 不可解な映士の行動に、布団から目だけ覗かせてその様子を窺い見れば、映士は顔を赤く して口をぱくぱくと開閉していた。 「な、何いつまでもそんなカッコしてやがんだ!服着ろ服!」 そしてやっとといった感じで映士はそう喚いた。 この布団の下で俺は今何も身につけていない。つまりは素っ裸なわけだが。 その理由にこいつは密接に関係しているわけだからしてそれを非難される謂れはない。 安眠を妨害されたところにさらにカチンときて、俺は勢い半身を起こして逆切れ気味に喚 き返してやった。 「起きろっつたり、服着ろっつったりいちいちうるせぇよ!昨夜ヤリっ放しでそのまま寝 たんだからマッパで当然だろ」 「あああ朝っぱらからヤルとかいかがわしいこと言うんじゃねぇ!」 「何を今さら。ったく、ベッドの中じゃあんなにエロ可愛いのに・・・朝んなったら途端にコレ だよ」 「あ、アホか!お前アホか!?俺様が可愛いなんて柄か!!第一お前にだけは言われたく ねぇ!可愛いのはお前でエロいのもお前だ!」 「そんな掠れた声でよく言うぜ」 「・・・っ///!?」 俺の言葉にますます顔を赤らめながら噛み付いてくる映士を鼻で笑ってそう言ってやると、 映士は茹蛸よろしく真っ赤になって口元を両手で塞いだ。 こういう露骨に情事を匂わすような言動を映士が恥ずかしがって嫌がることを、分かって いて俺はわざと煽っている。 しっかりヤルことヤッてるくせにでかい図体して妙に純情というか初心というか・・・こ ういうトコがちょっと可愛いとか思ってついついからかいたくなってしまう俺はかなり終 わってると思う。我ながら。 「しょうがねえよな?俺の腰に足巻きつけて「もっと」とか言ってエロい声で善がりまく ってたもんな?」 映士の反応に気を良くして調子に乗って続けると、真っ赤な顔のまま映士の眉がギリリと 不穏に吊り上がった。 「てめぇよくもあることないことべらべらと・・・っ!それだけ口が回るならもう目は覚 めただろ!!どうでもいいからキリキリ起きて来いっ!!」 唸るようにそう吐き捨てて、映士は肩を怒らせ足音も荒く寝室を出て行った。 派手な音を立てて蝶番が外れんばかりに叩きつけられ閉じられたドアに一瞬身が竦む。 あいつ的にどの辺までがあることでどの辺からないことになってんのか知らないが・・・ ちょっとやりすぎたか。 仕方ない。確かに目は完全に覚めちまったし・・・起きるとするか。 服を着て顔を洗ってダイニングに行くと、二人分の朝食の乗ったテーブルを前に映士はま だ自分の分にも手をつけず椅子に座っていた。 「ようやく起きたか。さっさと座れよ。俺様はもう腹ぺこなんだ」 「へいへい・・・」 腕を組んで俺をじろりと睨み顎で着席を促すのに不本意ながら素直に従う。 これ以上余計なこと言ったら本気でヘソ曲げられちまうからな。 俺が座ったのを合図に「いただきます」と手を合わせる映士に倣って俺も手を合わせた。 朝食のメニューはトーストとハムエッグと大盛りの生野菜のサラダ。 洋食は珍しいがこいつは何でもござれだからな。 「美味ぇ」 「そうか」 思わずこぼした俺の言葉に映士の顔がぱっと明るくなる。 やれやれ単純な奴。でもこれは本心だ。いつもながらほんと美味い。 ハムエッグの焼き加減の絶妙さもさることながら、このサラダ。 こんな生野菜切って盛るだけのサラダなのに俺が作るのとは全然違う。 素材の選び方とかそういうんだろうな・・・まったくこればっかりは恐れ入る。 今日の天気だとか先日の任務のことだとか他愛ない会話を交わしながらこんな風に映士と とる朝食は悪くない。 すんなりと映士の機嫌が直って気分よく食事ができたことに内心安堵しながらちらりと目 線で映士を窺い見れば、映士はもうほとんど空のサラダボウルに残ったプチトマトをつま んで口に運ぶところだった。 水滴を弾く瑞々しいその赤に不意に目を奪われ、その赤い色彩がそのまま映士の口元に消 えていくのを俺は何とはなしに眺めた。 「ん。ごちそーさん!」 ぺろりとその唇を舐めて満足そうに笑いながら最初と同じように手を合わせる映士に思わ ず口元がほころぶ。 ああ、好きだなこいつが。 唐突に、でももの凄くそう思った。 態度も図体もでかい俺様だし、口は悪いし、そのくせ妙なトコ几帳面で口うるさい。 けどこいつといる時間はどうしようもなく気持ちがいい。 俺がそんな物思いにふけっていることなど思いもしてないだろう映士は食べ終わった食器 を手に立ち上がり、俺の脇を通って流しに向かおうとした。 椅子に座ったまま咄嗟に腕を出して映士の腰に回し、それを阻んだ俺に映士は焦ったよう に俺を見下ろして言った 「うおっ、と!何だよ危ねぇだろ」 「屈めよ」 「あ?」 「キスできねぇだろ」 「は?な、なんで今そんなことしなきゃならねぇんだ」 「俺がしたいんだよ」 「・・・」 腰を抱く手に力を込めて真っ直ぐに見上げながらそう言えば、映士は口元を引き結んで一 瞬頬に朱を刷き、無言で手にした食器をテーブルに置いた。 体勢を変えて真っ直ぐ俺に向き直り、俺の両肩に手を置いて目を閉じゆっくりと腰を折る 映士を待ちきれなくて、俺は腰を抱き寄せながら余った手を映士の髪に差し入れて後頭部 に回し性急に引き寄せて唇を合わせた。 「んむ!」 若干ぶつかり気味に重ねた唇の間から舌を差し入れ、歯列をなぞった。 肩に置かれた手が緩く握り込まれるのを感じながら、さらに奥へと舌先を進めて映士の口 内を味わう。 最後に食べていたプチトマトの甘酸っぱい酸味と青臭さがしてなんだか可笑しかった。 上顎の弱いトコロを丁寧に舐めて映士の舌を絡めとると、それに応えるようにたどたどし く映士も舌を絡めてくる。 「ん・・・ん、ん・・・」 肩にあった手はいつの間にかすがるように俺の首に回され、時折聞こえる映士の低いけれ ども甘さを帯びて鼻から抜けるようなあえかな声にそそられる。 溢れた唾液が重力に従って俺の口内に流れ込んでくるのを、映士の舌を吸いながらごくり と喉を鳴らして溜飲した。 その頃にはもう映士はすっかり力が抜けて俺の膝の上に跨るように座り込んでいて。 朝交わすには濃厚過ぎるキスだとは自分でも思ったが止められなかった。 離し難くてかなり長い間繋いでいた唇を、名残惜しさを感じつつもようやく解放してやる と、映士は大きく息をしてくったりと俺に身を預けてきた。 こんな自分より年上で大柄な男相手にどうかと思うがそんな様子が愛しくて、その身体を 精一杯抱きしめると、丁度俺の唇が映士の鎖骨辺りに押し付けられて思わずそこにチュと 音を立てて吸い付いた。 「てめ、今・・・っ」 その途端がばっと映士は顔を上げ、鎖骨の辺りを見下ろした。 そこには当然ながらくっきりと鮮やかなキスマークがついていて、それを見るなり映士は ついさっきまでの甘く濃密な空気を吹き飛ばす勢いで喚いた。 「何アトつけてんだよっ!!」 「何だよ、好きだろ?アトつくぐらいきつく吸われんの」 しゃあしゃあとそう言えば、映士は真っ赤になってさらに怒鳴った。 「馬鹿野朗、ふざけんな!これから出勤って時に何てことしやがる!それにこんなと こ・・・ジャケット脱いだら見えちまうじゃねーか」 「ジャケット脱がなきゃ平気だろ」 「そういう問題じゃねーよっ!!」 「それともこのまま休んじまうか?」 「はあ!?」 勿論冗談。でも半分ぐらい本気。 そんな気持ちで言った俺の言葉に映士は最初呆れ返った顔をしたけれど、俺と視線が合っ た瞬間に何かを感じ取ったのかぐっと言葉に詰まるように押し黙った。 「んなわけねぇだろアホ・・・」 ややあって、溜息とともにそう呟いて軽く俺の額を指先で弾いた映士に笑いがもれた。 「だよな」 「おう。あったり前だ」 俺たちには不似合いなくすぐったさにどちらともなく吹き出して、二人してひとしきり思い切り 笑い合って、出掛けていく映士を見送った。 余計なことをしていたせいで時間がなくなり映士が洗い損なった食器を片付けるついでに、 まだサラダボウルに残っていた小粒なプチトマトを口に放り込んだ。 噛み締めると、映士と交わしたキスの味がした。 |
目標=黒銀で甘ラブ!(笑)
黒が品がなくてすみません
銀に夢見ててすみません